「G」の軌跡
ゴガァァァァァァオン…!
グオォォォォーーーォン!
二体の怪獣の咆哮が伊豆の海に轟く。
先に仕掛けたのはソビラだった。
突如、地面から蔦を伸ばし、海岸にいるゴジラの体を突き刺す。
ゴガァァァ…!
ゴジラの苦痛の声を上げるが、ゴジラの背鰭が発光し、両腕も輝く。
そして、ゴジラを突き刺す蔦をB・クローによって切り裂く!
散り散りになり、燃え上がる蔦だが、また別方向から蔦が今度は四方から同時に現れ、ゴジラを襲う!
更に、次々と蔦が生え、ゴジラを四方八方から突き刺していく。
ゴガァァァァァァオン…!
咆哮を上げ、ゴジラは全身を貫く蔦にものともせず、放射熱線を地面を埋めつくす蔦に浴びせる。
燃え上がり、爆発四散した蔦を踏みつけソビア本体にゴジラは迫る。
その進行を止めようと、ゴジラの全身を貫く蔦がゴジラを締め付ける。
だが、ゴジラはソビア本体のみを真っ直ぐ睨み、力技で蔦を引きちぎる。
グオォォォォーーーォン!
ソビアは咆哮を上げ、迫り来るゴジラに無数の蔦をゴジラの周りに連ならせ、ゴジラ全身を蔦で羽交い絞めにし、更に蔦全体から無数の有毒の棘を生やし、ゴジラを苦しめる。
ゴガァァァァァァオン………。
棘の生えた緑色の蔦が幾多にも折り重なる塊によって締め付けられたゴジラは、呻き声を中からもらす。
だが、中から眩い光が迸り、一瞬の内にゴジラの周りをまとっていた無数の蔦は、全身放射によって吹き飛ばされた。
ゴガァァァァァァオン…!
ゴジラは、傷だらけの体を奮い起こし、放射熱線を放つ。
次々に吹き飛ぶソビアの蔦だが、ソビアの再生能力もゴジラの攻撃力に劣らず、次々に再生し、ゴジラに襲い掛かる。
互いに一歩も譲らぬ攻防を繰り返し、ゴジラとソビラの戦いはより激しくなる。
「敵は機械か……。全く、本当に未来の世界だと思っていた事が現実に起きちまったのか。」
「あぁ。」
「それで、新城はどうするんだ?」
未希からの電話を終えた新城は、事の次第を皆に伝える。既に到着していた黒木も黙ってその話を聞く。
孝昭に言われ、新城は目を閉じ、考える。
「………目の前の敵を倒す。……それしか、ないんじゃないか?」
黒木が静かに言った。
「そうですね。本当の敵がどこにいるのか分からない以上、倒しようがない。……今はソビラ撃滅に集中するのが良いかもしらない。」
「うむ。………敵が明確に分かったところで戦況はかわらんか。………問題はこちら側だな。」
孝昭が言うと、新城は頷く。
「その通りです。オリハルコンの謎がわかっても、我々には怪獣を倒す以外にはどうする事もできない。敵の所在は不明。敵の目的がゴジラとそれに対して発達させた科学技術、つまりは人類の消滅。ゴジラと共闘し、ゴジラを守る以外に術はない。」
「ゴジラを倒す為の技術が人類の危機を招き、危機を脱する為にその技術でゴジラを援護する事になる………難儀だな。」
黒木はため息まじりに言う。そして、新城は頷くと更に続ける。
「えぇ。そして、恐らく相手が最も敵視している人類は我々Gフォースと考えられます。」
「当然だな。Gフォースがメカゴジラを作る為にメカキングギドラを海底から引き上げなければ、スーパーXⅡやガルーダの技術が先端技術だったはずだ。少なくとも、今の段階でアレが完成している事もなかった。」
「しかし、過ぎてしまった時を戻すのは何の解決にもなりません。……それは、キングギドラの事でも、今回の事でも明らかです。問題は、これからどうするかではないでしょうか?」
黒木に新城は言う。
佐藤が横から聞く。
「だけど、向こうの切り札を俺達が手に入れたのも事実だろ?」
「DO-Mか。それも結局、未来から来たアンドロイドと藤戸さんのお陰だ。………それに、現状で我々にはどうする事もできない。」
「確かに。相手の手の内も大体わかり、持ち駒も手に入った。だが、結局それだけだ。こちらは長考をしても、定石を打ち、相手の出方を伺うしかない。王手を潰したわけでも、打ったわけでもないのだからな。」
「そうですね。ですが、DO-Mを持つ側はゴジラを敵に回す可能性を持つのも事実。」
「強力な手駒というよりも、ジョーカーだな………。」
そう呟くと司令室を出ようとする黒木を新城は呼び止める。
「黒木さん、どちらに?」
「地下ドッグだ。いつでもアレを出撃できるように待機する。」
「しかし、まだ艦上機の配備が………。」
「それは機体とパイロットがいての話だ。既にそちらからの人員と自衛隊からの人員で艦を動かすのに必要な人員は揃っている。自分に出来る事をするだけだ。」
「わかりました。発艦命令が下りるまで、艦内で待機をしていてください。」
「御意。」
そして、黒木は司令室を後にした。
新城は立ち上がると言った。
「全部隊、攻撃対象はソビラ。ゴジラを全力で援護せよ!」
ソビラにメーサー戦闘機や航空戦闘機のミサイル、陸上部隊の攻撃が浴びせられる。
ガルーダⅡも冷凍兵器でソビラの再生しようとする箇所を凍らせる。
「ソビラの再生速度よりもダメージの方が勝っている。………押してます。」
将治は言う。
『そのまま、ガルーダⅡは機体特性を活かし援護に従事するんだ!お前の技術があれば可能だ!』
「お爺さん……。了解!」
将治は、ゴジラの熱線で燃やされた蔦に超低温レーザー砲を放つ。
再生しようとした蔦が凍り、更に戦闘機の攻撃が蔦を吹き飛ばす。
完璧な連携攻撃である。
ゴガァァァァァァオン…!
ゴジラはソビラ本体に迫っている。
グオォォォォーーーォン!
ソビラも攻撃の手を緩めはしない。
棘を球体状に生やした蔦をいくつも作ると、一斉に棘を飛ばした!
『うわぁぁぁあああ!』
『こ、こちら………脱出する!』
『ダメだ!……直撃した!』
四方八方に発射された棘に次々と戦闘機が落とされる。ゴジラの巨体も例外ではなく、棘に苦しむが、決してその歩みを止めはしない。
「棘を飛ばして次々に味方機が墜ちています!」
『お前は平気なのか?』
「なんとか、コイツの機体性能に救われてます。」
しかし、それでもギリギリの回避という状態であり、いつ直撃を受けるか分からない常態であった。
一方、ゴジラは放射熱線で本体へ攻撃をした!
グオォォォォーーーォン!
ソビラは咆哮すると、ゴジラに黄褐色の液体を中心の巨大な口状の部分から放った!
液体を浴びたゴジラの体から煙が上がり、頑丈な黒色の皮膚が溶ける。
だが、その液がかかったソビア自身の蔦も同じように煙を上げて溶ける。
「自らを溶かしてまでも……。食虫植物の消化液のようなものか……。」
『ゴジラの皮膚を溶かすほどとなると相当強力な溶解液だ。将治、気をつけろ!』
「了解!」
将治はゴジラが本体と戦う間、辺りを這う蔦を凍らせ、ゴジラを援護する。
ゴジラは放射熱線をソビラの口に放つ。
しかし、同時にゴジラの顔へ溶解樹液をソビラも放つ。
どちらが先に敗れるか……勝負は一歩も譲らない。
一方、黒木は地下ドックに到着していた。
「完成したものは、初めて見たな。」
黒木はソレを見て呟く。
黒木の目の前で発艦の時を待つソレは、先端に巨大なドリルが搭載され、長く巨大な艦はゆうに100mを超える。
更に、艦上には副砲である三連式プラズマレーザーキャノンが並び、各種ミサイルも次々に搭載されていた。
「これほどの物を現実に生み出したんだ。………こんな事態になったのも当然かもしれないな。」
黒木は一人呟くと、艦内に入る。
「黒木艦長!動力関連のシステム、各砲撃システム、推進システム、異常ありません。」
「ご苦労。その他、予備システム等も確認しておけ。全てが完璧でなければならない程に本艦は強力な存在だ。」
「了解。」
スーパーXⅢで共に戦ってきたオペレーターが黒木に報告する。
「万能要塞戦艦『大戸』号。想定されるあらゆる事態に対し、移動要塞としての機能を持つスーパーXの後継機であると同時に、その技術や性能はメカゴジラやモゲラを引き継ぐ。まさに自衛隊とGフォースの共同開発艦であり、最後の砦………。とても旧日本軍が戦時中に構想した海底軍艦轟天号を元にしたとは思えないな。………いや、当時コレを考えた人物が奇才であったというべきか。」
「瞬か。」
「ハッ!黒木特将と共にこの艦で戦える事を誇りに思います。」
瞬は黒木に敬礼する。
そして、黒木は艦長席に座る。
「ここにいる人間は皆何かを守ろうとしている。……家族を守るもの。友を守るもの。恋人を守るもの。自分の信念を守るもの。故郷を守るもの。国を守るもの。思いは色々だろう。私の思いも、君の思いとは違うはずだ。だが、皆確実に守りたいものがある………。わかるかい?」
「………。」
瞬はしばらく考えるが、首を横に振った。
黒木は大戸号の艦内を見渡すと瞬に言った。
「明日だ。」
ゴガァァァァァァオン…!
ゴジラの咆哮が辺りに轟く。
その体はボロボロになっていた。
しかし、それは苦痛を訴えるものではない。
ゴジラの目の前には、煙を上げて溶ける蔦が地面に散らばり、燃え上がり、花びらを次々に落とすソビラの姿があった。
ゴジラは再び勝利の雄叫びを上げた。
ゴガァァァァァァオン…!
「勝った。………僅差での勝利にも見えたけれど、間違いなくゴジラは勝った。」
咆哮を上げるゴジラを眺める将治は呟いた。
そして、ゴジラの姿と健の姿が将治には重なって見えた。
「拳と拳か………。桐城にとっての拳が、ゴジラにとっては熱線なのかもしれない。………さぁ、これからどうするんだ?」
将治はゴジラを見て呟く。
ゴジラはゆっくりと相模湾に向って歩く。
その針路は、横浜がある方向であった。