‐Geek‐ 好きこそモノの上手なれ
「「「かんぱぁ~い!!」」」
2039年・3月。
春休みも手伝ってか、夜にも関わらず街も人も眠りを知らない東京・錦糸町駅前のビルの1ルームに構える、ここは居酒屋「ほのか」。
完全個室ダイニングの居心地の良さが魅力であるこの店の一室で、新たな宴が始まろうとしていた。
「いやはや、こうやってまた君と一緒にリアルで飲み会が出来る日が来るなんてねぇ!」
「今夜は、寝かせないぞぉ?」
「ちょっと、いいおっさん2人がおっさん相手に何言ってんですか!僕は酒はダメなんで、オレンジジュースで行きますよ!ウーロン茶も捨てがたいですけど!」
「何処の弟だよ、それ!」
「お姉さんはいる癖にさ!」
「いやいや、そう言う怪獣Fさんには良い妹さんがおるじゃないですか!それに姉ってだけで変な期待されますけど、僕から言わせればダメダメな姉ですから!ほんま、『ほのか』繋がりで初之穂野香さんみたいな妹なら欲しいですけどね~!」
「おお、Gnosisオブザーバーお得意の「G」コネ話の始まりかい?」
「妙に巻き込まれるよね、君?」
「Sekiさんにだけは言われたくないですわ!某大学で散々巻き込まれたり、その某大学にガイガンとか言うサイボーグ怪獣作ったり、明日もニューヨークに行って沢山の「G」コネ作るんでしょ?ほんま羨ましいですわ!」
「まぁ、J.G.R.C.いるなら「G」コネは作っとかないとでしょ?」
「俺だって負けてませんよぉ!かれこれ20年前に、某大学湘南キャンパスで今でも付き合いのある菜奈美さんと・・・」
「それ、何十回擦るつもりですか!もう耳にタコなんですってばぁ!」
「20年以上前の某大学ネタなら、俺が後藤君と一緒に清水の方でデストロイアを・・・」
「だーかーらー!!耳タコって言ってんでしょうがぁ!どっちの話も、もう誰かに事細かに説明出来るくらい聞いてんですよ!あんたらの酔いが回り始める度に!」
「一杯くらいは、飲んだ内に入らない!俺達の戦いはこれからだ!」
果てなき飲酒の道を突き進まんとする、中肉中背の眼鏡の男・Sekiこと関口亮。
「G」リサーチ会社「J.G.R.C.」にかれこれ20年以上勤めている、一応のサラリーマンにして開発部のはみ出し者。
「上に同じく!あっ、すみません芋焼酎とカシスオレンジ一杯、お願いしまーす!」
そんな関口に迷わず相乗りする、大柄の眼鏡の男・怪獣Fこと田治冬樹。
かれこれ20年以上関口と付き合いのある、フリーのライターと某大学湘南キャンパスのアメフト部コーチを兼任する二刀流。
「もう一杯目飲み干しとるし・・・これで『デルタンダルA』君がおったら、僕を助けてるかこの飲んだくれに混ざってまうんか・・・どっちやろ?」
そして、あくまでもノンアルコールを貫く小太りの眼鏡の男・コンドウ。
「G」の情報及びアニメ・特撮関係のサイト「GALLERIA」をかれこれ20年以上運営する、本名は一部の者以外は知らない生まれも育ちも大阪な浪花人。
そう、彼らは2012年に「G」と言う共通の指針(コンパス)を頼りにネットの海で出会った、誰が呼んだか「「G」友の会」であり、コンドウが数年前にようやく車の普通免許証を取得した事で十数年振りに実現した、リモートでは無いリアルの飲み会であった。
「確かに、デルタンダルA君は是非ここに呼びたかったね!むか~しむかしに福岡で一度だけ会った事あるけど、あの飲みっぷりは良かった!彼となら、あの鳥獣虫割烹でタガメやワームをツマミに何倍もいけそうだよ!」
「・・・タガメ?ワーム?」
「はい、コンドウ君が着いて来れてないからその話は一旦タイム!でもその店、ここの横丁にあるんだっけ?今度行ってみようかなぁ・・・そうそう、デルタンダルA君は鹿児島在住だから、立地と予算的には一番厳しいんだよねぇ。でも、こうやってコンドウ君がわざわざこっちに来てくれたみたいに、いつか直に飲める日が来る事を俺は願ってるよ!」
「よくサシでリモート飲み会はしてますけど、僕も一度しか会った事無いですし、九州の大地は険し過ぎる・・・はぁ、師匠のあのどこでもドアみたいな鏡が欲しいわぁ。」
「師匠って、あの「想造」の?菜奈美さんが言ってた・・・」
「「想造」?えっと、たまに報告書に名前が出て来るあの・・・アンマルチアだか、ソフィだか、ガラドだか・・・」
「それ、全部世を忍ぶ仮の名前ですよ?」
「やっぱり?村崎さんみたいな事するんだなぁ・・・」
「えっと・・・本名、何だっけ?」
「なんや、忘れちゃったんですか?しょうがないですねぇ、もう一回だけ言いますよ?師匠の本名は・・・」
「・・・うっぷ、何だっけ?」
翌日、沼津・J.G.R.C.開発部格納庫内。
「プロトモゲラ」との仮称が付いた、菱形の黒目とドリルに似た鼻、何故か透明の下顎が付いた頭部、段差の様なモールドと背中のギザギザのレドーム、そして華奢な上半身と相反する肥大化した脚部が特徴的な黄金色のロボットの前に、3人の男が鉄パイプ椅子に座りながら語らっていた。
1人は関口。後輩にして腹心のJ.G.R.C.社長・蒲生元紀の誘いで、今まさにニューヨークで開催されている「G」に深く関わる者達による極秘裏の会談に参加する予定が、昨晩の「ほのか」での飲み会で限界を超えての飲酒の結果、重度の二日酔いに襲われた事により参加が不可能になり、ここ沼津に留まる事となった。
「それはこっちの話だって、関口君。君、まだ酔ってるの?」
2人目は、桐生江司。
関口の友人であり、対「G」兵器理論の第一人者にして、「G」研究の第一人者の考古学者・桐生篤之の息子でもある彼は、関口がこれまで密かに対「G」兵器開発を進める上での協力者でもある。
「ここでゲロるのだけは止めて下さいよ?こんなとこであの激臭とか、オレも貰いゲロしちゃうんで・・・」
3人目は、宮代一樹。
元刑事の「電脳」の爾落人で、刑事時代の仲間と共に現在警備会社「警鋭セキュリティ」に勤務している彼は、以前から関口について興味があったらしく、仲間達と共にニューヨークでの会談に参加する予定であったが予定を急遽変更してここに立ち寄り、そのまま居座っている形だ。
「すんませんねぇ、昨日は旧友と久々に会ったもんで、つい・・・」
「まぁ、未だに同じ事してるのが仲間にいるんで気持ちは分かりますけど、ゲロするなら「G」関係の話ですよ?」
「そうだな。関口君は叩けばいくらでも「G」絡みのアレコレが出て来る男だし・・・」
「ちょっ、埃みたいに言わないでよ桐生さぁん!確かに俺は「G」まみれな日々を送ってるけど!桐生さんまでコンドウ君みたいな事を・・・」
「コンドウ?それって、Gnosisのオブザーバーやってる『GALLERIA』の?」
「えっ?桐生さんもあそこに通ってるんです?」
「通ってると言うか・・・お父さんが意欲的に調べていた四神関係の情報提供者として、コンドウさんにはお世話になってたんだ。例えばGnosisが公開したデータベースはデータベースでしか無くて、例えるなら文章だけは豊富だけど内容が理解しにくいWikipediaの記事みたいなんだけど、それを一般にも広く知られやすくしたのはコンドウさんとお父さんの本だから。」
「あ、分かりますそれ。もっと分かりやすくまとめろよ!ってヤツですよね?あの「G」オタク、そんなに重要人物だったのか・・・」
「「G」オタク?宮代君もコンドウ君に会った事あったりするの?」
「まぁ、知り合いの知り合い程度ですけどね?11年前の「機関」の同時多発襲撃の時、オレと仲間達はヤボ用でその少し前からGnosisと一緒に行動してたんですけど、その時にいたんで・・・」
「へぇ・・・サイトの管理人とGnosisのオブザーバー以外に、そんな事をしてたのか。やるねぇ。」
関口は気晴らしに吹かした煙草を咥えながら、パイプ椅子に持たれ掛かって背後のプロトモゲラを見上げ、煙草を右手で持って口元から離すと共に、紫煙をプロトモゲラへ向けて吐く。
彼の胸中にはコンドウへの素直な驚嘆と、J.G.R.C.に入社する前から密かに抱いていた「野望」への決意が入り交じっていた。
ーー・・・あのコンドウ君でさえ、色々結果出してんだ。
もうそろそろ、俺のターンが来る頃合いかね?