はじめての・・・











2024年、ある夏の日。
能登沢家・亜衣琉の部屋・・・




「あの、亜衣琉お姉さんに聞きたい事があります。」
「どうしたの、紀子ちゃん?レン君を悩殺する方法でも教えて欲しいのかなぁ?」
「違います・・・けど、遠からずも当たっているかもしれない・・・お父さん、晋さんと美愛さんの恋愛の進展について、知っていたら教えて下さい。お父さんに聞いたら、普通の馴れ初めしか聞けなかったので。」
「父さんと母さんの進展?つまり、アレコレね?確かにこの手の話、父さんは苦手よねぇ~。じゃあ紀子ちゃんに母さんから聞いた、父さんと母さんの『はじめて』、教えてあ・げ・るっ♡」









1992年、ある夏の日。
静岡県・某大学清水キャンパス校舎内廊下・・・




「晋君、先週の『ずっとあなたが好きだった』見た?」
「見ましたけど、なんか最初思ってたのと全然違うんですが・・・冬彦さん、絶対マザコンの域超えてますよ。」
「そう?マザコンって、あんなものじゃないの?」
「僕はマザコンじゃないですけど、多分違うと思います・・・と言うか、まさかこの大学のマドンナがあんなドラマの話をするのも・・・」
「もう、晋君ったら私がそう言う扱いされるの嫌い、って分かってるでしょ?」
「す、すみません。」
「じゃあ・・・お詫びに私と、手を繋いで歩きなさい。」
「えっ!?い、いや、そんな事したら瞬く間に噂になって・・・」
「入学式に出会ったあの日から、私はずっとあなたが好きで、あなたはきっと私が好き。『だった』じゃなくて、今だって・・・ね?なのに、手も繋いでくれないの?」
「・・・わ、分かりました!僕も男です!そこまで言うならやらせて貰います・・・!ただ、バレてどうなっても知りませんよ!」
「ふふふっ・・・ありがと、ね♪」






1993年、ある夏の日。
静岡県・清水駅前コンビニ前・・・




「いやぁ・・・『ジュラシック・パーク』、やっぱり凄かったなぁ・・・」
「確かに面白かったわね。でも、私は恐竜映画ならこの前見た『REXー恐竜物語ー』の方が面白かったかしら。」
「美愛さんなら、そう言うと思いました・・・変わり者と言うか、あえて少数派に行くと言うか・・・」
「あら?何か問題ある?」
「ありませんよ。何を好きになるかは自由ですし、美愛さんがそう言う人だと分かった上で、今日こうして一緒に映画を観に行ってるんですから。」
「そうよね?何を好きになるかは、個人の自由だもの。だから、大学で『女神』とか『マドンナ』とか言われてる私が普通の大学生と映画デートするのも、今からハグするのも・・・ね?」
「はわっ!?み、みみ、美愛さんんっ!?」
「ふふふっ・・・あはははははっ!ちょっと抱き付いただけで裏声出しちゃうなんて、ほんと晋君ったらウブね?でも、そんな貴方が私・・・好きよ?」





1994年、ある夏の日。
静岡県・清水駅前カラオケボックス・・・



「ほら、晋も歌って?さっきから、私ばっかり歌ってるじゃない。」
「僕は、美愛の声を聞ければそれでいいかな・・・それにさっきから美愛が歌ってるの、『愛しさと せつなさと 心強さと』とか『あなただけ見つめてる』とか『真夏の扉』とか、アニメの曲ばっかりでそこから何歌えばいいか分からないよ・・・」
「そう?Mr.Childrenとか、尾崎豊とかでいいんじゃないの?それに私が歌ってる曲って、普通に聞いたらアニメソングっぽくないのをチョイスしたつもりなんだけど?」
「そうだけど・・・美愛は本当にアニメが好きだなぁ。」
「アニメと特撮はこの国の有形文化遺産なんだから、当然じゃない。せっかく社会人の私がまだ大学生のあなたの為に、わざわざ会いに来たのにしょうがないわね・・・じゃあ、『愛が生まれた日』を一緒にデュエットするわよ?いい?」
「どうぞ、貴女の仰せのままに。」
「・・・と、その前に・・・今日を、私達の新しい愛が生まれた日にしましょうか・・・♪」
「えっ?今なん・・・っ!!!」
「・・・はい、ファーストキス貰いっと。代わりに、私のファーストキスをあげるから・・・あら?」
「」
「・・・鼻血?気絶してる?キスしただけなのに?
うふふっ、ほんと面白いわねぇ。あなたって人は・・・」






1995年、ある春の日。
静岡県・清水駅前マンション4階、晋の部屋・・・




「じゃあ晋の大学卒業を祝って、あなたの『はじめて』、貰うわね・・・?」
「ま、待つんだ美愛!お、落ち着いて、深呼吸をするんだ!君は絶対に酔ってる!いくら婚姻届を出したからって・・・」
「あら、私がいくら飲んでも飲まれないのはよく知ってるでしょ?これは確固たる私の意志よ?それにあなた、前に自分の子供で野球チーム作る、って言ってたじゃない?それなら少しでも早く、子供を増やして行かないと・・・」
「あれは僕が酔った勢いと言うか、それだけ子供が出来るくらい長くいられたらいいな、って言う比喩みたいなもので・・・だ、だから離してくれぇ!!」
「うふふ、暴れちゃダメよ?あ・な・た♪じゃあ・・・いただきますっ♡」
「あ~~~れ~~~!!」










「・・・こうして、約十ヶ月後に私が生まれましたとさっ♡めでたし、めでたし♪」
「なるほど・・・大体夏の清水駅前で進展して、思っていた以上に美愛さんは肉食系女子で、生粋のオタクだったんですね・・・絶対レンに遺伝したその造詣、生きている内にお話したかった・・・!それにお父さん、やっぱり超ウブだったんですね。手繋ぎすら、美愛さんから焚き付けてるし・・・それを考えると、キスも自分からしてくれたレンは立派ね。」
「じゃあ、後は『子作り』だけねぇ♡お姉ちゃん、てっきり去年のレン君の二十歳記念に紀子ちゃんの『はじめて』、あげるかと思ったんだけどなぁ?」
「代わりにキスをくれたので、今はそれで十分です。結婚もまだですし。」
「相変わらず、紀子ちゃんのプラトニックさは変わらないのねぇ。」
「ちなみに、私とレンが本当に子作りして子供が出来た場合、貴女は『おばさん』になってしまいますけど、それは大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ?だって私はおばさんになっても、いつまでも『ちょっと小悪魔なお姉ちゃん』だものっ♡」
「貴女のそう言う所も、変わりませんね・・・私とレンの子供には、くれぐれも変な事を吹き込んだり、色仕掛けをしたりしないで下さいよ?」
「分かってるわよ♪あっ、でもレン君似の男の子だったらぁ、思春期になったぐらいに私が能登沢家にいなかった頃の隙間、埋めちゃうかも・・・♡」
「そんな光源氏みたいな行為は、ダメ!絶対!」






ーー・・・なんか、父さんと母さんのアレコレって聞こえたから、立ち聞きしちゃったけど・・・色々とんでもない事、聞いちまったぞ・・・
もし、俺と紀子に子供が出来たなら・・・頼むから、女の子であってくれ・・・!










それから、約十年後。
憐太郎と紀子との間には、元気な男の子が産まれたと言う・・・






完 婆羅陀魏
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