Invisible medium


「やー、ありがとう! ありがとう! 君は俺とばあちゃんの救世主だ!」

 2日後の夜、無事に朝までぐっすり寝室で眠ることが出来たことを知らせに、デニスが『OLD BOTTLE』へやってきた。
 なんでもホテルに泊まる金がなく行く当てもなく玄関の前で途方に暮れていたところを偶然帰ってきたアレックスに拾われ、彼の部屋に泊まり込み2人は意気投合、友人関係へと発展したらしい。
 そんなこともあって結果報告はアレックスの店で、ということになったのだが、やってきた途端にデニスはレオナルドを抱きしめ、話した後も両手で手を握って何度も上下に行ったり来たりさせて、何度も何度も礼を言う。
 彼の背後にいた老婆は孫の安全を確認したのかその姿を消したし、これで一安心と言ってもいいだろう。
 胸を撫で下ろしたところでアレックスにテーブルを勧められ、フィッシュ&チップスを驕ってもらうことになった。
 残念ながらスティーブンは狼の姿なので食べられないが、それ以上に妙にデニスを警戒している素振りを見せている。

「なんだかこの前より警戒されてない?」
「いつもはこんなふうじゃないんですけど……」

 小首を傾げたレオナルドの足にぴったりとくっついて離れないスティーブンにずっと睨まれて居心地がさぞ悪いようで、デニスはフィッシュ&チップスが届く前にそそくさとビールを頼みにアレックスいるカウンターへと向かう。
 その隙に、レオナルドはこっそりとスティーブンに話しかけた。

「どうしたんです?」
「別に。仕事が終わったから言うんだが、僕はどうにもあの男を好かないだけだよ」

 どうして? と不思議に思っていると、パイントグラスを手にして意気揚々とデニスが戻ってくる。
 そして椅子に腰掛けるなり、満面の笑みでこう言った。

「あのさ、言い逃すといけないから、先にお願いしたいんだけど……連絡先は交換してることだし、良かったら今度、プライベートで食事、とか……え?」

 牙をむき出しにして近づいてきたスティーブンに吠えられたデニスが、グラスを手にしたまま驚いて椅子から転げ落ち、消えたと思っていた彼の祖母が呆れた顔で孫を見下ろしている。
 理由はレオナルドには分からないが、まだまだ彼女の心配は尽きないらしい。

「グラスを割らなかったのは褒めてやるけど、床は掃除しといてくれよー」

 そしてカウンターに頬杖をついて笑うアレックスに、片づけを手伝っていいかうかがえば首を横に振る老婆。そして倒れたデニスを見下すように鼻を鳴らすスティーブン。
 いったい何がどうなっているのか、困惑するのはレオナルドただひとりだけだった。



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