羽衣さん、運命を知る
チェンジ
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靴を脱ぎ、広く長い廊下を行く
天井や壁、どこからか子供の笑い声と足音がした
「こんな屋敷に子供がいるのか?」
「座敷わらしだ
悪戯好きだが、幸運を運ぶと言われている…人見知りじゃ、何もしなきゃ害はない
逸れれば連れて行かれるがな…」
「ひぃ…」
冗談じゃとけらけら笑う犬神にどこか緊張感が抜ける
案内されたのはこれまた広い広い客間
窓からはこれまた立派な枯山水
用意された上座の座布団の上に犬神が正座をくむ
「茶は飲むか?」
『いやいい、あんたのは苦くてかなわない』
「そうか…変わりないようだが、変わらず変わったものたちとつるんでいるようだな、 羽衣狐よ」
「?、羽衣狐って?」
タヌキの変わりにだされたお茶をふーふーと飲もうとするベポに尋ねられる
やめとけと言うペンギンの制止も、毒はないよとタヌキの声を聞きすすってうぇと渋い顔した
『羽衣狐はここでの私の名前だよ』
「狐…あの尻尾は狐だったのか」
“羽衣狐を連れてきた”
荼枳尼が烏天狗に伝えた言葉を思い出す
タヌキは今日尻尾をまだ出していない
「荼枳尼から聞いているな」
『概ね…ぬらりひょんはどうした
この手のことならぬらりひょんを呼んでいるだろう』
「ぬらりひょんは肝を失い隠居中だ」
『…なんだって?』
タヌキの声が低くなった
「なんでも、惚れた女にっぐえ! 」
『なぜだ!あの時、妾はとらなかったはずじゃ!!』
「タヌキ!?」
狗神の襟に掴みかかったタヌキをシャチたちが慌てて止める
タヌキがこんなに取り乱すなんて…ぬらりひょんとは何者だ
「や、やめろよ!タヌキ!!」
「肝って?」
「諦めろ、羽衣よ
これは“件”の予言じゃ」
悔しそうに下唇を噛み締めタヌキは元の位置に戻った
襟を戻しながら、けほけほと咳をする犬神
「そのくだんについて教えろ
俺たちはそのくだんってのを叩っ切りにきたんだ」
「件を…?」
「そうだ
どこにいる」
「件はもう死んでおる」
「なに?」
「どういうことだ?ならなぜタヌキは死ぬんだ?」
「そこまで聞いておったか…荼枳尼め余計なことを言いよって
はあ…まあよい、件とは半人半牛の姿をした妖怪じゃ
生まれて数日で負の予言をし、死んでいく…そしてその後その予言は間違いなく起こる」
「なるほど」
「タヌキがあんなに件の予言に怯えていたのはそう言うことだったのか」
「犬神、その件はなんと言った」
“生まれる生まれるだいだらぼっちが
死んじゃう死じゃう羽衣狐が
倒れる倒れるだいだらぼっちが
生まれる生まれるだいだらぼっちが
死なない死なない羽衣狐が
沈む沈む国が沈む”
まるで唄うようにして読み上げられた予言
全員がすぐに内容を理解した
「ペンギンやめろって!」
「止めるなシャチ!こいつらタヌキを犠牲にして助かろうとしてるんだぞ!」
今度はその意味を理解したペンギンが犬神に掴みかかろうとしたのをシャチが止める
そのシャチだって自分が掴みかかりたいのだ
だが、そんなことしてもこの状況は何も変わりはしない
「まったく最近の若者はすぐキレるの…野蛮じゃ」
「タヌキ、知っていたのか」
『件が生まれ、それで私を荼枳尼まで使って呼んだと言うことはある程度
でもまさか、だいだらぼっちの封印が解かれようとしてたなんて』
「タヌキ、やるの?」
「まあそうだね…それが件の予言ならやるしかない…」
タヌキが犬神を見据え、大きく息を吸った
『犬神、狂骨たちを呼びたい』
「狂骨?」
『以前世話になった仲間だ』
「だめじゃ…」
なにも受け付けないとその佇まいを崩さない犬神に、やはりと肩を落とすタヌキ
「あやつらはお主の仲間…お主を心酔しておる
なんとしてでもお前を現世へ帰そうとするじゃろう」
「ったりめーじゃねーか!仲間なんだから」
「ペンギン!!」
「それじゃあ、困るのじゃ 」
どこの世界も変わらない
こういうはらわたが煮えくり返りそうなやつは、言葉で言っても殴っても変わらない
ぎりっと歯を噛み締める力が強くなる
「船長!!」
「俺たちは勝手にしても…?」
「ぁあ…お主らだけでは現世どころか地獄にも行けまい」
ローの目にとらえられた犬神は点てた茶をずずっとすすった