俺は畏れてる

いつか俺がコラさんの本懐を成し遂げるために巻き込んでいると知ったら、タヌキは俺を軽蔑してどこかに行ってしまうんじゃないかと畏れてる

この鬼纏の練習だって全てはドフラミンゴを倒すため

秋島からの出港の時の船でもそうだった

あの時も結局タヌキに否定されるのを畏れて何も言わなかった


『ロー』


難しい顔のまま黙り込んでしまったローにタヌキが不満そうに呼びかける


『鬼纏を強くしたいのはローだけの意思じゃない
ちゃんと私も強くなりたいと思ってる』


私はローに頼まれたからじゃなくて、自分の意思でここにいる

タヌキは偉大なる航路を進むたび強く自分を支えてくれる

俺の過去を…俺の頭の中も腹の中も全て聞いたらお前は俺を軽蔑するかもしれねぇ

そんなことしない

タヌキならそういうと思ってる

…いや、願ってる

きっとコラさんだって同じことを言ってくれると願ってる

タヌキの髪を愛おしく撫でる


「俺にはどんな手を使っても倒さなければならない奴がいる」


全てを手放そうとも奴を殺すと決めた

俺には畏れている暇なんてない


『ロー？』


俺はもう大切な人を失くしたくない


「いつか…いつかきっと必ず全部話す」


奴を殺す時が俺の死ぬ時かもしれない

それでも…


「それまで俺を信じてついてきてくれるか」


これが今出来る俺の精一杯の覚悟だ

コラさんといた時と変わらず、俺はまだ甘えているのかもしれない

タヌキを抱き寄せ、耳元で珍しく自信なさげに囁いた

そんなローにタヌキはいつものように笑った


『言ったでしょ…いつか、ローが話したくなったら聞いてあげる』


私に嘘つくなって言ったのはローじゃない

タヌキは夏島で会ったドフラミンゴの顔をかき消した

ローにいう言葉は、迷う自分自身に言い聞かせる為でもある


ドォン


辺りの木々から重々しい音が響き渡る

この島の魔物がまたローとタヌキを襲いにきた

消えては地面を揺らし、また消えてその魔物は近づいてくる

ローはゆっくり立ちあがり鬼哭を抜く

鬼哭はガタリと自らを揺らした

まるで自分を忘れるなと言わんばかりに


「！！、そうかお前もいっしょだったな」


妖刀・鬼哭がなければローとタヌキは鬼纏えていない

タヌキも可笑しそうにそうだねと頷く


ガサリ


“グゥア゛ア゛ァァア！！！”


きっと、自分の弱さも脆さも受け入れてタヌキに話すことさせ出来れば


「タヌキ、鬼纏うぞ」


ローの声は強くタヌキに響き、その背中は今までよりも強く逞しかった


「俺たちはまだまだ強くなる
だからタヌキ、俺の背中を頼んだぞ」

『あいあい、キャプテン』