羽衣さん、夏島【晩夏】
チェンジ
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こびり付いたオイルの匂い
鼻につく鉄の焦げる匂い
耳が痛くなる金属のつんざく音
それが…つまらない俺の故郷
『クマノミ、こんなところにいたの?』
甲板に立ち船から町を眺めるクマノミにタヌキは声をかけた
見つかっちゃったと笑ったクマノミは、まだタヌキの耳の良さを知らない
「俺は安静にしていろと言ったが?」
低い声にピクリとクマノミの背中に冷や汗が流れ思わすごめんと謝る
タヌキの隣には怖い顔をしたローの恐ろしさはクマノミもすでに知っている
『あなた、海軍になりたかったんでしょ?
このままだと悪徳海賊になっちゃうよ?
いいの?』
「悪徳じゃねぇよ」
そう言いつつローがタヌキに向ける表情が先程クマノミに向けていたものより緩い
自分や海軍に向けた顔はあんなに怖かったのに
海賊にこんなことを思うのはアレだが、なんだかんだやっぱり優しくてそして不思議な人たちだ
船の中からは騒がしい声が聞こえてくる
シャチたちがクマノミの歓迎の宴だと騒いでいたからその準備だろう
息抜きも少しだけだぞとため息をつきながらペンギンは言っていたが、満更でも無さそうだった
「シュクラさんから聞いたんだね…全くあの人もおしゃべり過ぎるよ」
クマノミは笑いながらタヌキの質問に答える
「俺がドーリィくらいの時、たちの悪い海賊に絡まれてたところをある海兵が助けてくれたんだ…彼を追いかけて海軍に入ったよ」
『元海兵だったの』
「まあ1ヶ月だけだけどね」
懐かしいなぁなんて昔話をしながら、ポケットからこの島の特有の海を思わせる透けた青色のアイスを取り出し食べはじめた
どこから持ってきたんだと主治医の目つきは鋭くなったが、クマノミは気にしていない様だ
「俺が入った時には、俺を助けてくれた海兵は海軍にはもういなくて
どうしてもお礼がしたいって、どこに行ったか上司に聞いたんだ」
『それで?』
「余計なことにかかわるな!なんて言われて頭にきて、その中将を殴ってクビになっちゃった」
「お前、意外と短気だな」
「その時、俺の右腕の方が折れて全治3ヶ月
労災もおりないし最悪…その瞬間から海軍は嫌いだね」
なかなか身勝手で海賊の素質がある奴だ
クマノミは好物のアイスをガリッと噛んだ
「そしてそのまま荒れてさ…何というか俺の黒歴史…なにも信じられなくなっててね
そんな俺にバチが当たったんだ」
背中を気にする素振りを見せたが、クマノミはそれ以上は言葉にしなかった
「やがて日光を浴びると苦しくなって…苦しくて苦しくて…2、3日記憶がなくて…気がつくと故郷へ…この島にたどり着いていたよ」
あんなに嫌った故郷を結局は選んでいて自嘲した
「そのとき、お兄ちゃん1人で笑ってて大丈夫?なんて声を掛けてきたのがドーリィで…あぁこの子を守ってあげなくちゃって理由もなく思っちゃったんだよね」
クマノミは新たにアイスをポケットから取り出すとローとタヌキに渡した
「あげるよ!偉大なる航海で1番美味しいアイス!
アタリはまだ見たことないけどね」
クマノミがこの島で唯一好きなものだ
このアイスより美味しいものにはまだ出会ったことがない
海の味のアイスをタヌキは嬉しそうに受け取り早速食べ始めた
ローはまだ食べたことがなかったが素直に受け取ったのを見て、クマノミは子供っぽく笑った
「助けてくれた海兵は今でも大好きさ!
名前は確かロシナンテと呼ばれていたっけ」
「っ!!なんだと!?」
『!?』
急に声を荒げたローにタヌキはアイスを詰まらせた
「知ってるのか?」
「…俺の恩人だ」
ポツリと漏らしたローにタヌキは目を見開いた
初めて聞く名前だった
ローの恩人…
そんな大切な人のことローはタヌキに話してくれたことはなかった
黒くドロっとしたものが胸を駆け巡った
なんで私に話してくれないの?
違う、話してくれるまで待つと言ったのは自分だ
冬島の時も、秋島の時も、春島の時も、ちゃんと待てたじゃないか
でも、ローのことをもっと知りたい…全部、知りたい…知りたい知りたい知りたい
タタラバで会ったドフラミンゴがタヌキの脳裏をよぎる
あの男の闇が、いなくなったはずのタヌキの中の羽衣狐を唆す
ぶちまけてしまえ
羽衣狐とドフラミンゴの煩わしい笑い声が聞こえるようだ
「なんだ、俺と同じじゃないか」
そんなタヌキに気づかず、何がおかしいのかハハッと笑いはじめたクマノミ
「億越えのルーキーがどんな極悪人かと思ってたら…ハハッ!そうか…俺と同じだったか
それなら俺は安心してあんたの船に乗れるよ!」
食べ終えたハズレのアイスの棒をローに見せながらクマノミは言った
「…そうだな
コラさんが助けたやつなら俺も安心だ」
ローもガリッと食べ終えた自身のアイスの棒は何も書かれておらずどうやらハズレのようだ
海を思わせる透けた青色のアイスは甘くてしょっぱい海の味…不思議な味だが、ローはとても美味しく感じた
その横でタヌキはアタリと書かれた棒をガリっと噛んでいた
大丈夫、大丈夫…私はもう羽衣狐なんかじゃあない