羽衣さん、夏島【晩夏】
チェンジ
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タヌキの案内の先にいたクマさんはロー達が思い描いていた姿とはかけ離れていた
建物の最下層日の光も入らない大きなドッグには、大きな船が1隻浮かんでいる
その船を見上げるように置かれたソファにクマさんはいた
つばのやけにひろい帽子をかぶり、長袖のセーターに真っ黒な手袋、厚手のズボンを穿き、靴下とブーツを履いた、体格からみて男が柔らげなソファに埋もれていた
『…貴方がクマさん?』
見ているこっちが暑くなる
ひゅーひゅーと浅い呼吸を繰り返すその姿に男が健康状態ではないことを告げる
服装の隙間から覗くはずの素肌も包帯のようなものに巻かれ見えないが、唯一見える口元にはこの島特有の海の味のアイスがくえられていた
「よう…ヒュゥ…にいちゃんたち、俺に用かい?」
「お前がクマさんか?」
「?、なんだ、にいちゃんたち、も…ヒュゥ…船の受注に、きたんじゃないのか?」
喋るだけで苦しそうな印象を受けるが、当のクマさんは気にせずアイスをまた一口かじると話を続ける
「がっかりしたか…?ここまで遠かったろ…ヒュゥ…なのに…ヒュゥ…ようやく、たどり着いた部屋に…こんなボロボロのやつ…ヒュゥ…がいることに」
低い声がローに届く
強い声だ
ここまで病に侵され死なない目にこの男の強さを感じる
「お前に船を作れるのか?
見たところ長くないだろ?」
「…ハハ…ヒュゥ…町の、医者にも…同じことをいわれたよ」
ローの冷たい言葉にもクマさんは気にした風もなく笑った
「じゃあ俺のセカンドオピニオンはいらねぇか」
「あぁ…何人もの…医者に聞いた…ヒュゥ…が答えは全て同じだった」
光線過敏
そうクマさんは診断を受けていた
光に当たると免疫が誤作動を起こし、クマさんの場合皮膚が赤くなり、湿疹や水ぶくれができ腫れ痒みがとまらなかった
原因不明と告げられたその悪魔は、瞬く間に男を侵食した
1か月もすれば、月夜すら火炎放射器を当てられたようだった
「焼けた肌が炎症を起こし、極度の日光不足で免疫システムが乱れている可能性がある
呼吸の仕方もおかしい呼吸器等に感染症の可能性…その様子だと他にも合併症を併発している」
視診の結果をローはクマさんに伝える
「どうして初期治療を怠った
治らねぇ病気でもないが、そこまで深刻になることもないだろう」
「……ひゅー…ひゅー…こいつを知ったとき俺は自暴自棄だったのさ…
今考えれば何馬鹿なことをと自分でも思う…荒れに荒れて命からがらたどり、着いたのが…ヒュゥ…自分の故郷だったのさ…」
「ここは夏島、お前には辛い筈だ
医療もそこまで発展してるわけじゃねぇ…なぜここにとどまる」
「イイオンナがよぉ…ヒュゥ…いたんだ
お転婆のじゃじゃ馬だが…真っ直ぐで眩しい…いい、オンナだ」
「…ドーリィか」
ローの回答にクマさんは目を開いて驚いた
「ッお前…ドーリィを…知っているのか」
あぁと頷くローに、クマさんの少しだけ見える口角が上がった
「俺とドーリィは…別に本当の家族じゃぁない
でも、あいつとドーリィと会って…ヒュゥ…生きてェと思っちまった…もう、遅いのによぉ」
クマさんは食べ終わった何も書かれていないハズレのアイスの棒をバリっと噛み砕き立ち上がった
ゆっくりだが力強く目の前の船へと進んでいく
「海軍からの発注だ…これで金はたっぷり手に入る」
『どうしてそこまで…』
「こんなもんしかドーリィに俺は残せねぇから」
「俺はあんたが街を荒らしまくる悪党の親玉って聞いたんだがな」
「なんだそれ?上では…ヒュゥ…そんなことに、されんのかい俺?
まあ、悪党なのは違いないね…」
「だが、海軍から金は入らねぇ」
「なに?」
『海軍はあなたを殺そうとしてるの』
ローとタヌキから言われた言葉をクマさんにとってとても信じられるものではなかった
「お前どんな船でも造れるか?」
「あっ?あぁ…機械が…専門、だが船の構造も勉強した…そこらの船大工より…ヒュゥ…腕はたつよ」
「お前を海軍から守ってやる
だから、お前は俺のいうことを聞け」
有無を言わせない圧にクマさんは言葉が詰まった
本気か?
急に現れたなんなんだ、こいつら
クマさんはローとタヌキを訝しみ返答に詰まる
その時大きな爆発音と共に天井が抜け落ちてきた