月が欲しいと泣いている
change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
喜助はいろんなことを教えてくれた
流魂街のこと護廷十三隊のこと
その話を聞いてから外の世界に行きたくてたまらなかった
だから、つい抜け出しちゃったの
この狭い世界を
ととさまのいいつけをやぶって…
部屋からでれる庭の草木に隠れた塀が壊れて人一人分いや子供一人分通れることに気づいてから、抜け出したくてたまらなかった
お外はとっても怖いけど
それでもお月様がいっぱい照らしてる今日なら大丈夫…だよね
見回りの侍女が来るまでの少しの時間だけだから
そう自分に言い聞かせて…駆けた!
駆け抜ける
駆け抜ける
心の臓がばくばくいっている
なにに興奮してるのか自分でもわからないまま、いつしか森の中の湖にたどりついた
木々の隙間から見えるひろいひろいお空
そこに生えるお星様
湖に浮かぶおっきいお月様
『きれー』
澄んだ空気に初めて自分で息をできた気がした
あの部屋が窮屈だと思わない
ととさまが嫌だと思わない、むしろ大好き
それでも、頬を撫でるまだ暦は秋だというのに肌寒い風にどこか軽くなっていくのを感じた
その時カサリと草陰から音がした
『誰?』
そこには私と同じくらいの男の子が立っていた
着ている服が見た目が私と、違う子
多分ととさまや喜助がいっていた流魂街の子
流魂街
侍女や周りの大人たちは毛嫌いしていたし、私にもよく言い聞かせた
あそこはあの者たちは危ない
自分で見て見なければわからないと思っていたけど、いざ目の前にしてみるとどうしていいかわからなくなった
何故だか無性に帰りたくなった
でも、じっと見つめられてそらせなくて動けなかった
「こんなとこにずっとおったら風邪ひくで」
『…うるさい、ひかないもっクシュ』
「だから言うたやん」
『寒い…帰る』
「帰るたって、一人で大丈夫なん?」
『大丈夫だもん、子供じゃないもん』
「いや、十分子供やん」
『いっしょくらいじゃん』
「ボクも子供やーもん」
『なにそれ』
一言発すれば先ほどの緊張感はすぐに消え去り、ぽんぽんと会話が進む
初めて会ったのに…変な感覚に胃の辺りがムズムズする感じがした
「ボク、市丸ギンっていうんや。よろしゅー」
急に腕を取られて、握手の形にされる
『わっ、私もこもこたぬきっ』
「ははっ、そないキンチョーせんでもええやん。自分、おもろいなぁ」
気づけば笑ってて
初めての世界はとっても光り輝いて
もっとここにいたいと願ってしまってた
『雪だ』
「雪や」
いつの間にかちらほらと風花が舞い降りてきた
『クシュんっ』
「このままやとほんまに風邪にひいてまうなぁ」
いつもなら嬉しい雪も今はとっても冷たくて
さよならの雪
もう侍女の見廻りの時間
『私、行かなきゃ』
「もう行くん?」
『うん、黙ってでてきちゃったから』
「意外とお転婆なんやね」
『じゃあ』
きた道をもどる
行きはあんなにドキドキしてたのに
帰りは別のドキドキにかわってた
一歩立ち止まって振り返った
ギンに手を振って
『またね』
そう言って駆け出した
これが初めての夜だった