月が欲しいと泣いている
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いつも通りやった
いつも通りの1日で
それでも今日を生き抜いた
ひとりで生き抜くにはこの世界は少し厳しい
虚はでるし気づけばお腹は空いている
優しさだとかそういうもんはいち早く捨てた
そんなもん腹の足しにならへんから
まだ秋なのにヒヤリとした空気が襲ってくる
今年の冬は厳しそうやね
最近お気に入りの湖に足を進める
お気に入りとゆうてもそれは一刻の感情や
また飽きてどこかに身を寄せる
その繰り返し
どこにおっても違う気がする
ここじゃない、ここじゃない
探して探して
本当の僕はどこにおるんやろ
誰かおる
そこには女の子がおった
僕と同じくらいの子
小綺麗な服をところどころ汚して、月明かりに揺らめく暗髪が印象的やった
「綺麗や」
なんでここにいるやとかそんな疑問もなく、ただそう思った
いつも見上げてた向こう側の世界の人
初めて見た多分貴族の子ぉ
触れてみたい話しかけてみたい
でもそうしたら飛びだっていってしまいそうな
そんな気ぃがした
身体中が熱くなっていく
でも頭ん中は冴えてて
もっと近くで見とぉなって動いたら、彼女がこちらを向いた
刹那、もう目ぇが離せんくなった
囚われた
聞きたい
彼女の声が聞きたい
どんな声で口調で囀るんやろか
「こんなとこにずっとおったら風邪ひくで」
こんな一言にすらのどが渇いた
『…うるさい、ひかないもっクシュ』
「だから言うたやん」
『寒い…帰る』
「帰るたって、一人で大丈夫なん?」
『大丈夫だもん、子供じゃないもん』
「いや、十分子供やん」
『いっしょくらいじゃん』
「ボクも子供やーもん」
『なにそれ』
ヘヘッと笑った彼女に、胃の辺りがムズムズする感じがした
「ボク、市丸ギンっていうんや。よろしゅー」
彼女が逃げないように手を握った
冷えてもうてて柔らかい手
『わっ、私もこもこたぬきっ』
「ははっ、そないキンチョーせんでもええやん。自分、おもろいなぁ」
たぬきいうんや
初めて世界に色がついてみえた
『雪だ』
「雪や」
ちらほらと風花が舞い降りてきた
それがあまりにも綺麗でまるで世界に2人しかいないように
『クシュんっ』
「このままやとほんまに風邪にひいてまうなぁ」
もっとここにいたいと願ってしまう
どんどんこの手を離したなくなる
『私、行かなきゃ』
スルリとぬける彼女の手
「もう行くん?」
いって欲しない
『うん、黙ってでてきちゃったから』
ずうっと僕のそばにいてほしい
「意外とお転婆なんやね」
行かんといて
その言葉がてでこうへんかった
『じゃあ』
手を振って
『またね』
そう言って駆け出した
またなんて言葉使ぉたことなんてなかった
こんなに嬉しい言葉やって知らんかった
見えんようになってもずっとずうっとおった
彼女がいなくなっていつの間か雪はやんだ
今までのことが幻のように
けれども、この手の感覚が現実だということを教えてくれた
あぁ、頭のてっぺんから足の先まで僕のもんじゃなくなぁてしもたわ