ろー牢獄
change name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『ねぇ、クリス…クリスってば』
「……なに、聞こえてるから」
『返事しないから死んだかと思った!ハハッ』
「冗談にもなってないよ!」
狭い部屋で女性が壁にもたれかかり、姿の見えない相手に話しかけている
冷たい壁によりかかり膝を抱えている
しかし、その姿とは裏腹に声色はとても明るいものだった
その壁の反対側、質素なベットに寝転びながらクリスは答えた
『ねぇ、クリス…クリス聞いてるの?」
「うるさいなぁ
少しは黙ることも覚えようよ」
顔は1ヶ月近くも見ていないのに、毎日話しかけて来るもんだから毎日声を聞いている
話すことはほぼ同じ
実験が大変だったとか
自然の素晴らしさとか
僕の言葉なのに…とボツリと吐いた言葉は乾いた空気に消えていった
タヌキは一人でまたしゃべっている
僕はまたかとため息をしたが、頬が緩んでいることに気づいた
本当は分かってるんだ
本当は嫌いじゃない
毎日タヌキの声を聞くことも
毎日タヌキに名前を呼ばれることも
でも、そんなこと言ったらタヌキは調子のるから言ってあげないけどね
もしかしたら照れたりして…
照れたタヌキの姿を想像して、クスリと笑いがもれた
『なんで今笑ったのよ』
「ナイショッ」
『…ケチ』
拗ねたタヌキを想像してまた笑ったら、怒られた
いつも通りの日だった
ただ少し研究者たちの雰囲気が違ったくらい
ヒューイの旦那がまたなにかつまらないことをしたんだろう
「おい時間だ」
そして、今日も実験室へと連れだされた
「………っ」
やっぱり今日はおかしい…
研究者も研究所の空気も嫌な予感しかしない
「でろ、今日はもう終わりだ」
「痛いなー、もっと丁寧に扱ってよね」
いつもと変わらない口調で悟られないように誘導する
「今日なんかいいことあったの?」
「なにっ?」
「顔に書いてあるよー、いい事ありましたって」
「っ貴様には関係ないことだ、進めっ」
「ちぇっ………!!」
無理やり進められるなかで、信じられない光景が僕の視界の端に写った
タヌキが研究者たちに囲まれていた
タヌキが傷だらけで牢屋で倒れていた
タヌキの血で床が真っ赤になっていた
タヌキの目に光がなかった
タヌキが……死んだ?
気づけば牢獄に戻っていた
『ねぇ、クリス…クリスってば』
あぁ…タヌキ生きてたんだ…
よかった…死んだかと思ったよ
『ねぇ、クリス…クリスってば』
「…………」
『……ハハッやっぱりクリスにはバレてるか…』
「なんで笑うのさ」
『大丈夫だよ』
なにが大丈夫っていうんだ
僕は見たんだ 、知ってるんだ
ズタボロだろ
左腕がないんだろ
足だってなかった
髪なんかもズタボロで
肌なんでカサカサで傷だらけ…傷がないとこなんてないんじゃないかってくらい
もうダメだって研究者たちが言ったのも聞いたんだ
だから…だから…
『ねぇ、クリス
これはちょっとだけサヨナラなんだよ』
『絶対会いに行くから、覚悟しててね…』
『ク…リス、だい…すき……愛してる!』
それを最後にタヌキの声は途切れた
次の日もその次の日もずっとずっと
ずっとずっとずっと
「ねぇ…タヌキ…タヌキ聞いてるかい?
僕、タヌキのこと大好きなんだ
待っててくれる?」
僕は返事のない約束をした
ちょっとだけ…さよなら
(ねぇ、クリス…クリスってば)
(なんだい、リカルド坊ちゃん)
(様子が変だぞ、どうしたんだ?)
(いや、ちょっと昔の約束を…まだ守れそうにないっていってきたんだ)
(?)
(坊ちゃんにはまだ早かったかな)
1/1ページ