〜魚人島
とうとう約束の日がやってきた。サニー号はフランキーに任せ、アマヤはシャッキーのバーに腰を据えている。手持ち無沙汰に指先を動かしては扉の方を確かめるなど、そわそわが隠せない朝である。今日はアマヤが苦手にしているデュバルもバーに居座っていたが、それを差し置いてでもここに来ずにはいられなかった。
「そろそろサンジくん、来そうなんだよね」
「旦那が!? 早く会いたいもんだ!」
「占いに出てたの?」
ブルックは引退ライブ中だし、迷子男が帰ってくるはずもない。我らが船長の帰還がこのバーにふらりと、などという平坦なものではないことは誰でも想像がつくだろう。だとすれば、ああ見えてなんだかんだちゃんとしているぐるぐる辺りが到着するのが流れだと踏んでいるのだ。
「ううん、これは単純に僕の予想」
「──んナミすわ〜〜ん♡♡ ロビンちゅわ〜〜ん♡♡♡」
アマヤの言葉が終わるか終わらないかのうちに、バーの扉が勢いよく開かれた。
「ほら」
「ま、すごい」
アマヤはその大きな瞳を半目にして、騒がしい男をゆるりと指し示した。飛び込んできたサンジの方は、念願の二人ではなく腐れ縁の悪友がカウンターについているのを認めると、露骨にがっかりした顔をしたのだった。
***
アマヤとシャッキー、そしてデュバルの合いの手でここ2週間ほどの動きを説明され、ようやく情報共有が終わるまでに、コーヒーが一杯空になった。
「最初の大番狂わせ以外は割と予想通りなんだよね。サンジくんも含めて」
「じゃあなんだお前、来るやつ来るやつこうやって迎えてんのか」
「まあねー」
サンジは露骨に不満そうに顎をしゃくった。 煙草の先が斜めに揺れる。
「おれはさらに麗しく美貌に磨きがかかったであろうナミさんロビンちゃんに会えることを楽しみにここに来たってのにか? あ?」
身を乗り出してくる勢いに、アマヤは片手を上げて椅子ごと半歩引いた。 面倒臭い、と顔に書いてある。
「急な早口やめてよ、唾飛びそう。……僕だってますます可愛いでしょ?」
ついでに百人が百人絆されそうなはにかみ顔をくれてやることにする。もちろん火に油である。
「おれァ毎日毎日お前みたいなのと地獄の日々を過ごしてたんだよ!」
「ちょっと待って聞き捨てならない、今サンジくん僕と何を同列にしたの?」
アマヤの知識の中にはサンジがくまに飛ばされた場所のことも入っている。そこに暮らす住人たちと自分を同列に扱うなという一点において、アマヤは普段の柔和さをかなぐり捨てる用意があった。数少ないポリシーの一つである。
何せ、素材の味を活かしている自分と違って、Tボーンステーキに練乳をかけたような食べ合わせの存在がそれである。
サンジはゆっくりと口の端を持ち上げた。 ものすごく腹の立つ類の、皮肉な笑みだった。
「お前にとっちゃ懐かしい名かもな……Mr.2……、そう、アイツに類する野郎どもだ……」
「信じらんない!!」
狭い店内だというのにお構いなしだった。おつむにきたアマヤが不届者へと飛びかかるも、相手はそれをいなし、余波でカウンターのグラスがひとつ危うく倒れかける。シャッキーは慣れた手つきでそれを救い上げた。それを為すのがアマヤであるのは初めてだが、荒事自体は慣れたものである。
小競り合いは長くは続かず、じきにアマヤは乱れた前髪を指先で整え、何事もなかったかのように姿勢を正す。
「そだ、こうしようよ、まだここに辿り着いていない、もしくは再びここに戻って来れそうもないメンツを迎えに行く。僕たちで。どお?」
全員が揃わないことには出航はできない。逆に言えば、あと数人のところまで来ているのだ。集結に向けてこちらから動いても良い頃合いだった。
「ああ、わかった。おれがロビンちゃん、お前が野郎どもだ」
「やだなあ、僕がロビンさんをエスコートするに決まってるでしょ? 船長はともかく、……はあ、もうあの迷子さんを探して流離うのは、さすがの僕も」
当然のように面倒をなすりつけ合う。少し目を話した隙にワープでもしたのかと言いたくなる方向へいってしまうあの男を捕まえるのは楽ではない。しかも本人は基本的に反抗的ときたものだ。
とはいえ、この件に関してはアマヤにも反論の材料がたっぷりとある。
「この2週間、シフトも船番もないときはずっと島中探し歩いてたものね」
シャッキーの援護射撃が飛んだ。
「そうっ! だというのに出会えたのはたったの1回!」
アマヤはにまーと笑った。シャッキーはグラスを拭く手を止めて、小さく目を瞬く。ここ数ヶ月で見たことがないほど悪どい顔をしている。
「でもサンジくんならきっとすぐ見つけられるよ。仲良しだもんね」
「断る」
「僕だって断るっ」
「いや待てお前誰と誰が仲良いって?」
「サンジくんとゾロくん」
「2年で恐れ知らずになったみてェだな!」
再び椅子が鳴ってドタバタが始まる。今度は壁際で療養中のデュバルにまで飛び火し、巻き込まれた大男の悲鳴がバーに響いた。
「──も〜、埒あかない。じゃ、どうせ買い出し行くでしょ? 僕もちょっと用立てたいものあるし、街に出るつもり。それぞれ自分の用事を済ませる間に見つけた人を船までお連れするってことにしよう。あとは天の神様の言うとおり」
アマヤが勢いよくまくし立てた提案に、サンジは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ああ、ここで問答してる時間がもったいねェ。リアルレディがおれを待ってるってのに」
「……くれぐれも、見つけたらその人をエスコート、だからね」
「何が言いたい」
「見かけた人がお望みのそれじゃなかったとしても、見てみぬふりはしないこと!」
「へーへー」
この男の性格を考えれば、念を押しておくに越したことはない。船長はともかく、緑を見つけたところで視界から勝手に削除しかねないのだ。
シャッキーはカウンターの向こうから、二人のやりとりを眺めていた。同い年の友人との再会を経て、年相応の——むしろそれより幼いくらいの声と身振りではしゃぐアマヤに、その目が細くなる。
「ふふ、アマヤちゃん、すっかり元気になって」
「うんっ、ずっとうじうじしててごめんね、シャッキーさん。どうにも夜が長くって」
ほんの半月前まで、カウンターでため息ばかり落としていた自分が少し恥ずかしい。けれど、恥に浸ってまた俯くような気分ではなかった。
「でも、ようやくまた夜明けがやってくると思ったら、不安がどこかへ消えちゃったみたい!」
アマヤは、太陽の前では星の導きはもはや不必要だ、と明るく笑うのだった。
***
アマヤの街への用事はそれそのまま方便である。三ヶ月も前に到着しておきながら、まだ準備していないものなどあろうはずもない。
残りの仲間を探すためだけに街を彷徨いていると、耳が拾ったのは海兵たちの怒声だった。ニコ・ロビン発見の報を電伝虫にがなりたて、複数の足音が連なる。アマヤはそちらへと踵を返し、人影を追いかける海兵の背中を、さらに後ろから追う構図になる。
「いい加減に止まらないか!! お前は完全にほ──」
細い路地に向かって吠える海兵の、その意識を後ろから刈り取った。声の途切れとともに崩れ落ちる体を受け止め、音を立てないようにゆっくりと抱える。路地の先では、いままさに反撃に転じようとしていたらしい人影が、腕を交差させた姿勢のまま止まっていた。
逆光になっているだろう。アマヤは自身を証明するため、なるたけ普段通りの、柔らかくのんびりとした声で呼びかけた。声色は変わっていないというのは、あの剣士に太鼓判をもらっているところだ。
「待ちきれなくって、迎えにきちゃった」
「! ……よかった、」
「この海兵さんに罪はないけど、しばらくここで寝ててもらおっと」
海兵をその辺の地面にそっと転がすと、ロビンがホッと息をついて路地から姿を現した。差し出された手に手を重ね、指を絡める。ぎゅ、と互いの存在を確かめるように握り合って、二人はようやく顔を見合わせて笑った。
「……アマヤ!」
「ロビンさんっ」
アマヤは素早く左右を確認した。追っていた海兵は道すがら少しずつ片付けてきたから、今のが最後の一人だったはずだ。念のため気配を探るが、追っ手の気配はもうない。
「もう大体みんな集まってるんだ。我らがサニー号までエスコートしても?」
「ええ、お任せするわ。着いたなりに追われて困っていたの」
「じゃ、謹んで護衛の任に就かせてもらうね」
ロビンだって十二分な戦闘力を備えているだろうに、騒ぎを大きくしないために撒こうとしていたらしい。それに、その生い立ち上備わってしまった戦闘力とは相反して、彼女は基本的に非暴力主義だ。
三ヶ月をこの諸島で過ごしたアマヤは、もうここの地理を隅々まで知っていた。裏道を選んで繋いでいけば、その後はほとんど誰とすれ違うこともなくサニーへの道案内ができた。人気のなくなった路地を並んで歩くうちに、いつしか世間話をする余裕が生まれている。
「ロビンさん、髪型変えたんだね。今のもとっても似合ってる」
「思い切ってショートカットやメンズライクも考えたんだけれど」
ロビンは口元に手をやって、小さく首を傾げた。
「一度伸ばすとダメね、もったいなくなっちゃう」
「うんうん、分かるよ〜。特にちゃんと手入れなんかしてたらね。でも、確かにロビンさんならアンドロジナスな雰囲気もマッチしそう」
「ふふ」
ロビンがアマヤの肩あたりにひょいと手を咲かせて、横に束ねて流した髪をそっと触った。指先が毛束を梳くように滑る。急な接触にアマヤは手のひらに汗が滲むのを感じた。
「……え、ええと、あはは」
「アマヤもだいぶ伸びたのね」
「っ、これは髪の毛の編み合いっこができるね。実家でも姉さんたちがそういうコミュニケーションを求めてきてね……、いや、やじゃないんだけど」
あれはちょっと姦しいがすぎるのだ。
おっとりとくすくす笑うロビンが眩しい。けれどアマヤは、次の言葉がなかなか出てこなかった。
「なんだか、会ったら話したいこと、いっぱいあったはずなんだけど」
歩きながら、ぐうっと両腕を頭の上に伸ばす。
「なんだろ、とうとう今日になったし、あとはルフィくんの到着で出航するだけだし、胸がいっぱいになっちゃって」
「わくわくしてる?」
「……うん、そうなんだよね」
ロビンに言葉をもらって、ようやく実感が追いついてきた。わくわくしている。ずっとそうだったのだ。だから居ても立ってもいられずに、迎えに出てきてしまったのかもしれない。
「ほんの2週間前まで、本当にみんな集まるのかな、あれって僕の夢だったのかなって不安で、でも」
アマヤは両の手を、ぎゅっと握りしめた。
「ようやくだもんね!」
「私は、」
ロビンはすっかりリラックスした足取りで歩を進めながら、隣のアマヤに顔を向けた。
「アマヤが変わらず笑ってて、嬉しいわ」
「え? え〜……、へへ」
不意打ちだった。アマヤは再び照れてしまって、突かれたカタツムリみたいにしおしおと首を竦めるのだった。
「そろそろサンジくん、来そうなんだよね」
「旦那が!? 早く会いたいもんだ!」
「占いに出てたの?」
ブルックは引退ライブ中だし、迷子男が帰ってくるはずもない。我らが船長の帰還がこのバーにふらりと、などという平坦なものではないことは誰でも想像がつくだろう。だとすれば、ああ見えてなんだかんだちゃんとしているぐるぐる辺りが到着するのが流れだと踏んでいるのだ。
「ううん、これは単純に僕の予想」
「──んナミすわ〜〜ん♡♡ ロビンちゅわ〜〜ん♡♡♡」
アマヤの言葉が終わるか終わらないかのうちに、バーの扉が勢いよく開かれた。
「ほら」
「ま、すごい」
アマヤはその大きな瞳を半目にして、騒がしい男をゆるりと指し示した。飛び込んできたサンジの方は、念願の二人ではなく腐れ縁の悪友がカウンターについているのを認めると、露骨にがっかりした顔をしたのだった。
***
アマヤとシャッキー、そしてデュバルの合いの手でここ2週間ほどの動きを説明され、ようやく情報共有が終わるまでに、コーヒーが一杯空になった。
「最初の大番狂わせ以外は割と予想通りなんだよね。サンジくんも含めて」
「じゃあなんだお前、来るやつ来るやつこうやって迎えてんのか」
「まあねー」
サンジは露骨に不満そうに顎をしゃくった。 煙草の先が斜めに揺れる。
「おれはさらに麗しく美貌に磨きがかかったであろうナミさんロビンちゃんに会えることを楽しみにここに来たってのにか? あ?」
身を乗り出してくる勢いに、アマヤは片手を上げて椅子ごと半歩引いた。 面倒臭い、と顔に書いてある。
「急な早口やめてよ、唾飛びそう。……僕だってますます可愛いでしょ?」
ついでに百人が百人絆されそうなはにかみ顔をくれてやることにする。もちろん火に油である。
「おれァ毎日毎日お前みたいなのと地獄の日々を過ごしてたんだよ!」
「ちょっと待って聞き捨てならない、今サンジくん僕と何を同列にしたの?」
アマヤの知識の中にはサンジがくまに飛ばされた場所のことも入っている。そこに暮らす住人たちと自分を同列に扱うなという一点において、アマヤは普段の柔和さをかなぐり捨てる用意があった。数少ないポリシーの一つである。
何せ、素材の味を活かしている自分と違って、Tボーンステーキに練乳をかけたような食べ合わせの存在がそれである。
サンジはゆっくりと口の端を持ち上げた。 ものすごく腹の立つ類の、皮肉な笑みだった。
「お前にとっちゃ懐かしい名かもな……Mr.2……、そう、アイツに類する野郎どもだ……」
「信じらんない!!」
狭い店内だというのにお構いなしだった。おつむにきたアマヤが不届者へと飛びかかるも、相手はそれをいなし、余波でカウンターのグラスがひとつ危うく倒れかける。シャッキーは慣れた手つきでそれを救い上げた。それを為すのがアマヤであるのは初めてだが、荒事自体は慣れたものである。
小競り合いは長くは続かず、じきにアマヤは乱れた前髪を指先で整え、何事もなかったかのように姿勢を正す。
「そだ、こうしようよ、まだここに辿り着いていない、もしくは再びここに戻って来れそうもないメンツを迎えに行く。僕たちで。どお?」
全員が揃わないことには出航はできない。逆に言えば、あと数人のところまで来ているのだ。集結に向けてこちらから動いても良い頃合いだった。
「ああ、わかった。おれがロビンちゃん、お前が野郎どもだ」
「やだなあ、僕がロビンさんをエスコートするに決まってるでしょ? 船長はともかく、……はあ、もうあの迷子さんを探して流離うのは、さすがの僕も」
当然のように面倒をなすりつけ合う。少し目を話した隙にワープでもしたのかと言いたくなる方向へいってしまうあの男を捕まえるのは楽ではない。しかも本人は基本的に反抗的ときたものだ。
とはいえ、この件に関してはアマヤにも反論の材料がたっぷりとある。
「この2週間、シフトも船番もないときはずっと島中探し歩いてたものね」
シャッキーの援護射撃が飛んだ。
「そうっ! だというのに出会えたのはたったの1回!」
アマヤはにまーと笑った。シャッキーはグラスを拭く手を止めて、小さく目を瞬く。ここ数ヶ月で見たことがないほど悪どい顔をしている。
「でもサンジくんならきっとすぐ見つけられるよ。仲良しだもんね」
「断る」
「僕だって断るっ」
「いや待てお前誰と誰が仲良いって?」
「サンジくんとゾロくん」
「2年で恐れ知らずになったみてェだな!」
再び椅子が鳴ってドタバタが始まる。今度は壁際で療養中のデュバルにまで飛び火し、巻き込まれた大男の悲鳴がバーに響いた。
「──も〜、埒あかない。じゃ、どうせ買い出し行くでしょ? 僕もちょっと用立てたいものあるし、街に出るつもり。それぞれ自分の用事を済ませる間に見つけた人を船までお連れするってことにしよう。あとは天の神様の言うとおり」
アマヤが勢いよくまくし立てた提案に、サンジは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ああ、ここで問答してる時間がもったいねェ。リアルレディがおれを待ってるってのに」
「……くれぐれも、見つけたらその人をエスコート、だからね」
「何が言いたい」
「見かけた人がお望みのそれじゃなかったとしても、見てみぬふりはしないこと!」
「へーへー」
この男の性格を考えれば、念を押しておくに越したことはない。船長はともかく、緑を見つけたところで視界から勝手に削除しかねないのだ。
シャッキーはカウンターの向こうから、二人のやりとりを眺めていた。同い年の友人との再会を経て、年相応の——むしろそれより幼いくらいの声と身振りではしゃぐアマヤに、その目が細くなる。
「ふふ、アマヤちゃん、すっかり元気になって」
「うんっ、ずっとうじうじしててごめんね、シャッキーさん。どうにも夜が長くって」
ほんの半月前まで、カウンターでため息ばかり落としていた自分が少し恥ずかしい。けれど、恥に浸ってまた俯くような気分ではなかった。
「でも、ようやくまた夜明けがやってくると思ったら、不安がどこかへ消えちゃったみたい!」
アマヤは、太陽の前では星の導きはもはや不必要だ、と明るく笑うのだった。
***
アマヤの街への用事はそれそのまま方便である。三ヶ月も前に到着しておきながら、まだ準備していないものなどあろうはずもない。
残りの仲間を探すためだけに街を彷徨いていると、耳が拾ったのは海兵たちの怒声だった。ニコ・ロビン発見の報を電伝虫にがなりたて、複数の足音が連なる。アマヤはそちらへと踵を返し、人影を追いかける海兵の背中を、さらに後ろから追う構図になる。
「いい加減に止まらないか!! お前は完全にほ──」
細い路地に向かって吠える海兵の、その意識を後ろから刈り取った。声の途切れとともに崩れ落ちる体を受け止め、音を立てないようにゆっくりと抱える。路地の先では、いままさに反撃に転じようとしていたらしい人影が、腕を交差させた姿勢のまま止まっていた。
逆光になっているだろう。アマヤは自身を証明するため、なるたけ普段通りの、柔らかくのんびりとした声で呼びかけた。声色は変わっていないというのは、あの剣士に太鼓判をもらっているところだ。
「待ちきれなくって、迎えにきちゃった」
「! ……よかった、」
「この海兵さんに罪はないけど、しばらくここで寝ててもらおっと」
海兵をその辺の地面にそっと転がすと、ロビンがホッと息をついて路地から姿を現した。差し出された手に手を重ね、指を絡める。ぎゅ、と互いの存在を確かめるように握り合って、二人はようやく顔を見合わせて笑った。
「……アマヤ!」
「ロビンさんっ」
アマヤは素早く左右を確認した。追っていた海兵は道すがら少しずつ片付けてきたから、今のが最後の一人だったはずだ。念のため気配を探るが、追っ手の気配はもうない。
「もう大体みんな集まってるんだ。我らがサニー号までエスコートしても?」
「ええ、お任せするわ。着いたなりに追われて困っていたの」
「じゃ、謹んで護衛の任に就かせてもらうね」
ロビンだって十二分な戦闘力を備えているだろうに、騒ぎを大きくしないために撒こうとしていたらしい。それに、その生い立ち上備わってしまった戦闘力とは相反して、彼女は基本的に非暴力主義だ。
三ヶ月をこの諸島で過ごしたアマヤは、もうここの地理を隅々まで知っていた。裏道を選んで繋いでいけば、その後はほとんど誰とすれ違うこともなくサニーへの道案内ができた。人気のなくなった路地を並んで歩くうちに、いつしか世間話をする余裕が生まれている。
「ロビンさん、髪型変えたんだね。今のもとっても似合ってる」
「思い切ってショートカットやメンズライクも考えたんだけれど」
ロビンは口元に手をやって、小さく首を傾げた。
「一度伸ばすとダメね、もったいなくなっちゃう」
「うんうん、分かるよ〜。特にちゃんと手入れなんかしてたらね。でも、確かにロビンさんならアンドロジナスな雰囲気もマッチしそう」
「ふふ」
ロビンがアマヤの肩あたりにひょいと手を咲かせて、横に束ねて流した髪をそっと触った。指先が毛束を梳くように滑る。急な接触にアマヤは手のひらに汗が滲むのを感じた。
「……え、ええと、あはは」
「アマヤもだいぶ伸びたのね」
「っ、これは髪の毛の編み合いっこができるね。実家でも姉さんたちがそういうコミュニケーションを求めてきてね……、いや、やじゃないんだけど」
あれはちょっと姦しいがすぎるのだ。
おっとりとくすくす笑うロビンが眩しい。けれどアマヤは、次の言葉がなかなか出てこなかった。
「なんだか、会ったら話したいこと、いっぱいあったはずなんだけど」
歩きながら、ぐうっと両腕を頭の上に伸ばす。
「なんだろ、とうとう今日になったし、あとはルフィくんの到着で出航するだけだし、胸がいっぱいになっちゃって」
「わくわくしてる?」
「……うん、そうなんだよね」
ロビンに言葉をもらって、ようやく実感が追いついてきた。わくわくしている。ずっとそうだったのだ。だから居ても立ってもいられずに、迎えに出てきてしまったのかもしれない。
「ほんの2週間前まで、本当にみんな集まるのかな、あれって僕の夢だったのかなって不安で、でも」
アマヤは両の手を、ぎゅっと握りしめた。
「ようやくだもんね!」
「私は、」
ロビンはすっかりリラックスした足取りで歩を進めながら、隣のアマヤに顔を向けた。
「アマヤが変わらず笑ってて、嬉しいわ」
「え? え〜……、へへ」
不意打ちだった。アマヤは再び照れてしまって、突かれたカタツムリみたいにしおしおと首を竦めるのだった。
