〜W7まで
アマヤは、翌々日の朝になってようやく目を覚ました。柔らかな布の感触と、薄暗い天井。けれど、その寝台に潜り込んだ記憶は一切ない。どうやら、丸一日以上を眠って過ごしていたらしい。どれほどの疲労が溜まっていたのか、考えようとすると頭の奥が重く軋んだ。
寝返りを打つと、仮設住宅の窓越しに差し込む光が、賑わいを連れて届いた。遠くからは子どもたちの歓声も聞こえる。自然の猛威に打たれながらも、なお立ち上がる人間の強さとしぶとさが、空気の隙間に溶け込んでいた。
アマヤはあの明け方の出来事の場にいた相手とは初対面かと思うほどにぎこちなく接したが、向こうは何も気にしていない様子で普段通り振る舞うのだ。それがいっそ恐ろしい。それでは向こうがどう考えているかを汲み取ることができない。
「チョッパーくん、体調は? どこか痛むところは?」
その日の昼、気持ちを落ち着けたくて、アマヤはつい、後から目を覚ましたチョッパーを抱きしめていた。布越しに触れる小さな体温が、肌に触れる柔らかな毛皮が、優しく現実を確かめさせてくれる。
「おう! もうすっかりだ!」
「無茶するんだから」
「アマヤがおれを止めてくれたんだってな。みんなを傷つける前で、本当によかった」
「ううん、僕じゃなくて、フランキーくんが」
その声は、どこか逃げ腰で、卑屈が覗く笑みを孕んでいた。この場に自分の手柄など必要ない、と自嘲する癖が精神の不安定さのために顕れてしまっているのだった。
「その後海から引き上げて、運んでくれたのはアマヤだって聞いてるぞ!」
「そのくらい……誰でもできることで……」
「アマヤ?」
どうしても、正面から感謝を受け止めることができない。俯くまつ毛の影に自分の小ささを見つけて、言葉を濁した。
「はあ、……僕って」
重たい息とともに零れた言葉は、どこにも着地しないままだ。
「……お前、どこか怪我してるのか?」
「ううん、全然」
外から、足音がした。踏み鳴らすでも忍ばせるでもなく、淡々とした歩幅である。しばらくして、仮設住宅にしては立派な造りの扉が開き、ゾロの姿が現れる。奇跡的に帰巣本能が働いたらしい。
彼はまず、テーブルのルフィの姿に目をやった。未だに食べながら寝ているらしく、頬には米粒、手には骨だけになった肉の皿がぶら下がっている。
それから、静かに視線を移す。アマヤとチョッパーが一つの塊になっているところを目撃されるまではあっという間だった。
「──っ!」
アマヤは咄嗟に肩を震わせ、チョッパーの小さな背中へ顔を埋めた。吐く息が、彼の毛並みを震わせる。
一度だけ、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。吸って、止めて、吐いて。自分の怯えた気配を押し殺し、そして顔を上げたときには、いつもの作られた微笑が唇に戻っていた。
「さて!! ルフィくんの食事も心許ないし、食料の調達にでも行ってこようかな!」
「んお!?」
唐突な発声に、チョッパーがびくりと体を揺らす。目をまん丸にしてアマヤを見上げた。アマヤは苦笑のような笑みを浮かべ、チョッパーの頭をそっと一撫でする。毛並みの温もりが、手のひらに名残のように残った。
そちらが何もなかった風に振る舞うつもりなら、と可能な限り軽い声を作り、帰ってきたばかりの男にも声をかける。
「……何か必要なもの、ある?」
「あー、酒」
「はーい」
心優しい船医が奇妙に思うことはわかっていつつも、やり取りがぎこちなくなるのは止められない。可能であれば言葉を交わせば相手の思惑も読み取れるだろうが、今のアマヤは反射的に撤退を選んでしまったのだった。
ちょうど扉を開けたそのときだった。玄関の外には、軽やかな足取りで向こうからやって来る人影があった。ナミだ。彼女もまた何かしらの用事があったらしく、そしてその用事がうまくはいかなかったどんよりとした気配を漂わせている。その薄暗い目のまま、二人の視線が交差する。
「あんた」
片目を細めて声をかけられた瞬間、アマヤの肩がぴくりと跳ねた。
「なんか、起きてからおかしくない?」
「お、おかしいって?」
「誤魔化さないで。……秘密なら秘密って言いなさいよ」
ナミは腰に手を当て、じっと睨みつけてくる。遠慮のない真っ直ぐな視線が、アマヤの心の奥を射抜いていた。
その瞳を見返せなかった。自分がどれだけ不自然に振る舞っているか、改めて突きつけられたようで、胸の内にずしりと罪悪感が落ちてくる。
「ごめん、……じゃあ、秘密で」
「そ。いいわ。追求しない。興味ないんじゃなくって、信頼してるから」
アマヤが掠れた声でそう言うと、ナミは肩の力をふっと抜き、ひょいっと訝しみの色を引っ込めた。
「必要なら相談してくれるでしょ?」
アマヤは曖昧に微笑んだ。それが感謝の表情に見えるかどうか、自分でもよく分からない。けれど、ナミはそれ以上何も聞かなかった。
「んで、何しに行くの?」
「食料とお酒の調達」
「やだ! 使いっ走り!? 抗議してあげましょうか!」
「有料でしょ。いいよ、自分から言ったことだから」
吝嗇家の彼女が”してあげる”なんて言うときは、その後ろに料金表があることを理解できない間柄ではない。変わらぬナミの態度に、今度は作ったものではない微笑みが滲んだ。
「……お互い一文なしだものね。有料も何もあったものじゃないわ。……はあ」
それでどんよりとした彼女の表情の理由がわかったアマヤは、ひとまずその曇天を晴らすこととする。もうじき、宿に預けていた自分たちの荷物は無事に手元に返ってくることだろう。
「ああ、それのことなら、あんまり心配しなくていいよ」
「え?」
「失せ物は直に見つかるでしょう、と占に出てる」
言葉は柔らかく、けれどその響きはどこか確信に満ちていた。ナミは一瞬だけ眉を寄せたが、すぐに明るく笑ってみせる。
「アマヤが言うなら、そうかもね!」
***
翌朝。仮設住宅の周囲には、昨日よりもさらに人の気配が増していた。復旧作業や物資の運搬、情報のやり取りに奔走する人々が、それぞれの役割を自然に引き受けて動き始めている。一味のおよそ半数もまた、何かしらの用事で拠点を空けているのだった。
その中で、ルフィだけは給餌されるままに食料を口に入れている。絶え間なく吸引し続ける様子に、彼の体調よりも別の心配が浮かび上がる。
「毎日こんなに届いて、街の連中は食糧不足ンなってねェのか」
サンジが手際よく鍋をかき混ぜながら、眉をひそめてそう呟く。調理の合間に野菜の残量を確かめつつ、彼はふと仮設住宅の外へ視線を送った。
「昨日見てきたけど、街の上の方は被害少なくって、そっちの備蓄庫を開放してるみたい」
アマヤはそっと応じた。サンジにはもう、あまり身構えずに接することができる。冗談や気遣いが変わらず自然と返ってくることもあるが、そもそも、彼に対しては特別信頼を置いていたのだ。あとは目一杯の泣き顔という弱みを見せた気恥ずかしさが残る程度である。
「こういう時のためのもんだろうがよ、それにしたって気前が良すぎる」
「あはは……、ルフィくんがいっぱい食べるかなあと思って……僕もちょっと」
アマヤは頬を掻きながら曖昧に笑った。昨日一日、あちらこちらの店や倉庫や炊き出し場で、控えめに、けれど確実に“おねだり”してきた自分を思い出す。柔らかな声と所作で相手の庇護欲を掻き立てるのは得意技であるし、ここの街の人々は大層気前が良い。それに付け加えて、今や麦わらの一味は一種英雄扱いを受けているとなれば、この量の進物も納得なのだった。
それを匂わせてみせると、サンジは納得だか呆れだかをたっぷりと込めた半目を寄越す。
「……確かにみんなちょっと頑張っちゃってるかも」
「お前なァ」
ガラリ、と仮設住宅の扉が勢いよく開け放たれた。外から届いたのは、特徴的な酒焼け声である。
「んががが、入るよおめーら!」
「入るよー」
ココロとチムニー、ゴンベの一行の登場の直後、ナミが焦がれてならなかったものが拠点へと届く。
「みかんの木〜〜!! やっぱりちゃんと帰ってきたのね!! よかった〜!!」
「いやあ、あんたらをアイスバーグさんの暗殺犯だって追い回してた時、海賊の持ち物だってことで全部没収してたんだよ。悪かったね」
「とんでもない! ありがとう!!」
ナミは木に頬をすり寄せ、嬉しそうに目を細めた。
その様子を、アマヤとサンジは少し離れた場所から微笑ましく眺めていた。横に置いてある一億ベリーのアタッシュケースよりも、みかんの木を優先するあたりに彼女の本来の人間性が垣間見える。
「アマヤ! 流石ね! あんたの言うことだからそうだろうとは思ってたけど!」
ぱっと顔を上げたナミは、次の瞬間には勢いよくアマヤの胸元へ飛びついていた。アマヤはそれを受け止めつつ、肩越しにサンジが髪を逆立てるのを目撃する。こればかりは日頃の行いが反映されてるのだから諦めて欲しい。アマヤはことあるごとに対抗心を燃やしてくる(最近は物理的に燃焼している)悪友を見て苦笑するのだった。
「よかったね。お金はともかく、みかんの木は替えられないものだもんね」
「お金も替えられないわよ」
「ふふ、失礼しました」
その瞳がきらんと輝く。輝くついでに小銭の音を立てながらベリーの記号になるのは彼女の得意技だ。
「さて、じゃあ僕はちょっと野暮用。ここは二人に任せるね」
戻ってきた品々に夢中なナミ、そんな彼女に夢中なサンジ、文字通り夢中で食事を続けるルフィを置いて、アマヤはそうっと仮設住宅を抜け出すことにする。
この後のことを考えると、きっと岬の方では迷子になっている男がいるに違いないのだ。正直今は顔を合わせるのが躊躇われる相手であるが、困っている相手をわざわざ放っておくのも夢見が悪い。それに、もうじきここには面識のない相手が群れをなしてやってくるのである。人見知りのアマヤは初対面の相手よりも、気まずい関係の知り合いを選んだのだった。
寝返りを打つと、仮設住宅の窓越しに差し込む光が、賑わいを連れて届いた。遠くからは子どもたちの歓声も聞こえる。自然の猛威に打たれながらも、なお立ち上がる人間の強さとしぶとさが、空気の隙間に溶け込んでいた。
アマヤはあの明け方の出来事の場にいた相手とは初対面かと思うほどにぎこちなく接したが、向こうは何も気にしていない様子で普段通り振る舞うのだ。それがいっそ恐ろしい。それでは向こうがどう考えているかを汲み取ることができない。
「チョッパーくん、体調は? どこか痛むところは?」
その日の昼、気持ちを落ち着けたくて、アマヤはつい、後から目を覚ましたチョッパーを抱きしめていた。布越しに触れる小さな体温が、肌に触れる柔らかな毛皮が、優しく現実を確かめさせてくれる。
「おう! もうすっかりだ!」
「無茶するんだから」
「アマヤがおれを止めてくれたんだってな。みんなを傷つける前で、本当によかった」
「ううん、僕じゃなくて、フランキーくんが」
その声は、どこか逃げ腰で、卑屈が覗く笑みを孕んでいた。この場に自分の手柄など必要ない、と自嘲する癖が精神の不安定さのために顕れてしまっているのだった。
「その後海から引き上げて、運んでくれたのはアマヤだって聞いてるぞ!」
「そのくらい……誰でもできることで……」
「アマヤ?」
どうしても、正面から感謝を受け止めることができない。俯くまつ毛の影に自分の小ささを見つけて、言葉を濁した。
「はあ、……僕って」
重たい息とともに零れた言葉は、どこにも着地しないままだ。
「……お前、どこか怪我してるのか?」
「ううん、全然」
外から、足音がした。踏み鳴らすでも忍ばせるでもなく、淡々とした歩幅である。しばらくして、仮設住宅にしては立派な造りの扉が開き、ゾロの姿が現れる。奇跡的に帰巣本能が働いたらしい。
彼はまず、テーブルのルフィの姿に目をやった。未だに食べながら寝ているらしく、頬には米粒、手には骨だけになった肉の皿がぶら下がっている。
それから、静かに視線を移す。アマヤとチョッパーが一つの塊になっているところを目撃されるまではあっという間だった。
「──っ!」
アマヤは咄嗟に肩を震わせ、チョッパーの小さな背中へ顔を埋めた。吐く息が、彼の毛並みを震わせる。
一度だけ、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。吸って、止めて、吐いて。自分の怯えた気配を押し殺し、そして顔を上げたときには、いつもの作られた微笑が唇に戻っていた。
「さて!! ルフィくんの食事も心許ないし、食料の調達にでも行ってこようかな!」
「んお!?」
唐突な発声に、チョッパーがびくりと体を揺らす。目をまん丸にしてアマヤを見上げた。アマヤは苦笑のような笑みを浮かべ、チョッパーの頭をそっと一撫でする。毛並みの温もりが、手のひらに名残のように残った。
そちらが何もなかった風に振る舞うつもりなら、と可能な限り軽い声を作り、帰ってきたばかりの男にも声をかける。
「……何か必要なもの、ある?」
「あー、酒」
「はーい」
心優しい船医が奇妙に思うことはわかっていつつも、やり取りがぎこちなくなるのは止められない。可能であれば言葉を交わせば相手の思惑も読み取れるだろうが、今のアマヤは反射的に撤退を選んでしまったのだった。
ちょうど扉を開けたそのときだった。玄関の外には、軽やかな足取りで向こうからやって来る人影があった。ナミだ。彼女もまた何かしらの用事があったらしく、そしてその用事がうまくはいかなかったどんよりとした気配を漂わせている。その薄暗い目のまま、二人の視線が交差する。
「あんた」
片目を細めて声をかけられた瞬間、アマヤの肩がぴくりと跳ねた。
「なんか、起きてからおかしくない?」
「お、おかしいって?」
「誤魔化さないで。……秘密なら秘密って言いなさいよ」
ナミは腰に手を当て、じっと睨みつけてくる。遠慮のない真っ直ぐな視線が、アマヤの心の奥を射抜いていた。
その瞳を見返せなかった。自分がどれだけ不自然に振る舞っているか、改めて突きつけられたようで、胸の内にずしりと罪悪感が落ちてくる。
「ごめん、……じゃあ、秘密で」
「そ。いいわ。追求しない。興味ないんじゃなくって、信頼してるから」
アマヤが掠れた声でそう言うと、ナミは肩の力をふっと抜き、ひょいっと訝しみの色を引っ込めた。
「必要なら相談してくれるでしょ?」
アマヤは曖昧に微笑んだ。それが感謝の表情に見えるかどうか、自分でもよく分からない。けれど、ナミはそれ以上何も聞かなかった。
「んで、何しに行くの?」
「食料とお酒の調達」
「やだ! 使いっ走り!? 抗議してあげましょうか!」
「有料でしょ。いいよ、自分から言ったことだから」
吝嗇家の彼女が”してあげる”なんて言うときは、その後ろに料金表があることを理解できない間柄ではない。変わらぬナミの態度に、今度は作ったものではない微笑みが滲んだ。
「……お互い一文なしだものね。有料も何もあったものじゃないわ。……はあ」
それでどんよりとした彼女の表情の理由がわかったアマヤは、ひとまずその曇天を晴らすこととする。もうじき、宿に預けていた自分たちの荷物は無事に手元に返ってくることだろう。
「ああ、それのことなら、あんまり心配しなくていいよ」
「え?」
「失せ物は直に見つかるでしょう、と占に出てる」
言葉は柔らかく、けれどその響きはどこか確信に満ちていた。ナミは一瞬だけ眉を寄せたが、すぐに明るく笑ってみせる。
「アマヤが言うなら、そうかもね!」
***
翌朝。仮設住宅の周囲には、昨日よりもさらに人の気配が増していた。復旧作業や物資の運搬、情報のやり取りに奔走する人々が、それぞれの役割を自然に引き受けて動き始めている。一味のおよそ半数もまた、何かしらの用事で拠点を空けているのだった。
その中で、ルフィだけは給餌されるままに食料を口に入れている。絶え間なく吸引し続ける様子に、彼の体調よりも別の心配が浮かび上がる。
「毎日こんなに届いて、街の連中は食糧不足ンなってねェのか」
サンジが手際よく鍋をかき混ぜながら、眉をひそめてそう呟く。調理の合間に野菜の残量を確かめつつ、彼はふと仮設住宅の外へ視線を送った。
「昨日見てきたけど、街の上の方は被害少なくって、そっちの備蓄庫を開放してるみたい」
アマヤはそっと応じた。サンジにはもう、あまり身構えずに接することができる。冗談や気遣いが変わらず自然と返ってくることもあるが、そもそも、彼に対しては特別信頼を置いていたのだ。あとは目一杯の泣き顔という弱みを見せた気恥ずかしさが残る程度である。
「こういう時のためのもんだろうがよ、それにしたって気前が良すぎる」
「あはは……、ルフィくんがいっぱい食べるかなあと思って……僕もちょっと」
アマヤは頬を掻きながら曖昧に笑った。昨日一日、あちらこちらの店や倉庫や炊き出し場で、控えめに、けれど確実に“おねだり”してきた自分を思い出す。柔らかな声と所作で相手の庇護欲を掻き立てるのは得意技であるし、ここの街の人々は大層気前が良い。それに付け加えて、今や麦わらの一味は一種英雄扱いを受けているとなれば、この量の進物も納得なのだった。
それを匂わせてみせると、サンジは納得だか呆れだかをたっぷりと込めた半目を寄越す。
「……確かにみんなちょっと頑張っちゃってるかも」
「お前なァ」
ガラリ、と仮設住宅の扉が勢いよく開け放たれた。外から届いたのは、特徴的な酒焼け声である。
「んががが、入るよおめーら!」
「入るよー」
ココロとチムニー、ゴンベの一行の登場の直後、ナミが焦がれてならなかったものが拠点へと届く。
「みかんの木〜〜!! やっぱりちゃんと帰ってきたのね!! よかった〜!!」
「いやあ、あんたらをアイスバーグさんの暗殺犯だって追い回してた時、海賊の持ち物だってことで全部没収してたんだよ。悪かったね」
「とんでもない! ありがとう!!」
ナミは木に頬をすり寄せ、嬉しそうに目を細めた。
その様子を、アマヤとサンジは少し離れた場所から微笑ましく眺めていた。横に置いてある一億ベリーのアタッシュケースよりも、みかんの木を優先するあたりに彼女の本来の人間性が垣間見える。
「アマヤ! 流石ね! あんたの言うことだからそうだろうとは思ってたけど!」
ぱっと顔を上げたナミは、次の瞬間には勢いよくアマヤの胸元へ飛びついていた。アマヤはそれを受け止めつつ、肩越しにサンジが髪を逆立てるのを目撃する。こればかりは日頃の行いが反映されてるのだから諦めて欲しい。アマヤはことあるごとに対抗心を燃やしてくる(最近は物理的に燃焼している)悪友を見て苦笑するのだった。
「よかったね。お金はともかく、みかんの木は替えられないものだもんね」
「お金も替えられないわよ」
「ふふ、失礼しました」
その瞳がきらんと輝く。輝くついでに小銭の音を立てながらベリーの記号になるのは彼女の得意技だ。
「さて、じゃあ僕はちょっと野暮用。ここは二人に任せるね」
戻ってきた品々に夢中なナミ、そんな彼女に夢中なサンジ、文字通り夢中で食事を続けるルフィを置いて、アマヤはそうっと仮設住宅を抜け出すことにする。
この後のことを考えると、きっと岬の方では迷子になっている男がいるに違いないのだ。正直今は顔を合わせるのが躊躇われる相手であるが、困っている相手をわざわざ放っておくのも夢見が悪い。それに、もうじきここには面識のない相手が群れをなしてやってくるのである。人見知りのアマヤは初対面の相手よりも、気まずい関係の知り合いを選んだのだった。
