〜W7まで
それぞれの戦いが終わり、ついに正解の鍵はロビンのもとへ届けられた。一瞬たりとも気を抜けなかった戦いの連続の果てに、ようやく光が射し込み始めたところである。
少し遅れて、アマヤが屋内庭園に姿を見せる。あれもこれもを確認して回っていた彼の足取りは既に軽くはない。背中には未だ意識のないチョッパーを括りつけたまま、彼は無言でその場に辿り着き、ゾロとサンジの間にへたり込む。
「よかったあ、とりあえずここまで漕ぎつけた」
「おい待て、ありゃあ……」
「島を囲む柵が破れた……!! あの爆発はデケェな!!」
空を見上げる。立ち上がる雲の柱と崩れ落ちる構造物の悲鳴。そして、あの巨大な軍艦たちの姿。どうやらバスターコールが始まってしまったらしい。
「そげキング!!」
ゾロとサンジが同時に顔を上げ、塔の上を見据える。そこには、マントを翻した影がひとつ。爆煙を背に、堂々と立ち尽くしていた。
アマヤは静かに背中からチョッパーを下ろし、慎重に寝かせると、すっと立ち上がる。
「一刻を争う!! そこから飛び下りろ!!」
「そんなムチャを……」
その言葉を言い終わる前に、塔が爆撃に巻き込まれた。
「オイ、ウソだろ……」
「おい!! ウソップ〜〜〜!!!」
「──呼んだかね!!」
空を裂くようにその声が届いたとき、アマヤの足が動いていた。
「っ、任せてっ!」
彼は落下の軌道に合わせて走り出し、草の上を滑るように跳び上がる。そして、迫るその影に向けて、躊躇なく両腕を伸ばした。着地は優雅とは言えなかったが、アマヤはそげキングを抱えるようにして転がりながら地面へと落ち、背中で衝撃を受け止める。
「生きてんじゃねェか!」
ゾロとサンジが、声を揃えて叫んだ。ふだんは交わらないタイミングが、今ばかりはぴたりと重なっていた。
アマヤは自分の体の上から死に体のそげキングを押し下ろす。
「お前ら決死のダイビングをした英雄を受け止める優しさはねェのか!! アマヤを見習っとけ!! アホ共!!」
「……かっこよかったよ」
「オメーだけだほんと、おれに優しくしてくれんのは」
相当の衝撃をわけあったというのににっこり笑うアマヤを見て、そげキングは感涙を禁じ得ない様子である。
騒がしさのなかでも、空の爆音は続いていた。一行はふたたび現実に引き戻され、バスターコールからの脱出に向けて動き始める。
アマヤは地図を思い浮かべながら桟橋へ至るには地下通路を通る必要があることを示す。けれども、その地下通路では濁流に押し流される事件が発生するのだった。
***
ルフィの激闘が終わり、メリー号が駆けつけ、無事に一行は司法の島を後にすることができた。
「よいしょ……これれいいのかい?」
「そう……! ここがおれの席だ!! ──お前のお陰で脱出できた。ありがとう、メリー!!」
ルフィが船首に張り付いて穏やかにいうので、アマヤは胸にぐっとくるものがあった。この一味の船はなんと強く、なんと優しいのか。翻ってそれはきっと、この一味自体がそうだからなのだろう。船はそれを吸い取って育った。まだ安心できる場所に辿り着いてはいないので、気を抜くことはしないけれど、でも、今はまさに、夜明けの中にいる気分だ。
これからこの船の船大工になるはずの男は、まるで人ごとのように顎をしゃくる。
「──しかしお前ら、コリャとんでもねェ事しちまったぞ……だいたいな、世界政府の旗を撃ち抜くなんて」
「取られた仲間を取り返しただけだ!!」
このシンプルさが憧れの根源であった。ああだこうだとうじうじ考え込みがちなアマヤには決して真似できない思考回路である。フランキーもそれを感じ取ったのだろう、その次に続く説教は飲み込むことにしたようだった。
「このケンカ!! おれ達の勝ちだァ!!」
「よっしゃーーァ!!」
船長の勝鬨に、一味は揃って拳を突き上げる。大きくはためいた帆はもちろん、メリーの快哉を表したのだ。
ひと足さきに体力を取り戻したチョッパーがルフィの診察に入ったのを確認し、アマヤはもう一つどうしてもやりたいことに着手することにした。
「ね」
向かった先はこの船の料理番である。ようやくの一服を邪魔されてややむすっとしているが、今この時でないと、そして一刻も早くしないと達成できない目標だ。もう少しだけこの疲れた体に鞭打ってもらうことにする。
「お腹すいちゃった。何か作ってくれる?」
「なんかっつったってお前、ここの道具も積荷も引き上げちまってんだろ」
「そうだと思って、でも、帰路ではお腹がすくと思って、色々くすねてきたんだ」
アマヤは乱闘の中でもなんとかなくさずに済んだ背嚢を示してみせる。持ち物は基本的にひらひらした服の下に隠しがちな彼にしては珍しく、大物を背負っているものだと思っていた。
不満げなコックはしかし、舌打ち一つだけで反抗を済ませ、慣れ親しんだキッチンへと足をむける。アマヤもまたまるで疲労を感じさせない足取りでそれを追った。
「政府の皆さんには悪いけど、ロビンさんを手酷く扱った相手だと思ったら罪悪感は消えちゃった」
「そりゃ間違いねェ」
ダイニングテーブルに広げ始めた食料を眺め、サンジは素早く自分の脳内のレシピブックを開く。限られた食材でも食い手を満足させるのが彼の矜持だ。
「ほら、ちゃんと油紙に包んで、さらに皮袋に入れておいたから海水もほとんど染みてない。ココロさんが素早く水揚げしてくれたからっていうのもあるかな」
「ったく、緊張感がねェ」
それにしても、アマヤがわざわざ大荷物を抱え、食事を要求するとは常ならぬことだ。ロビンを助けられるかどうかの瀬戸際でそのことを考えていたとしたら、船長以上の職への執念である。サンジはそこのところが腑に落ちず、食材ともに目の前の男の心中を見聞するのだった。
その様子を見てとったアマヤはやれやれとばかりに嘆息する。
「サンジくん、この船は、船大工をして『次の島まで保たない』と言わしめたんだ。わかってくれてないみたいだからわざわざ言うけど、……その」
こういう感傷的な気遣いを説明させられるのは、ジョークを開設させられるよりもずっと恥ずかしい。きっとすっかり彼の手に馴染んだであろうダイニングの、キッチンの最後の思い出がアレでは、と思っての配慮だというのに。
「ここのキッチンに立てるのは最後かと思って。……ずいぶん疲れてるんだね、普段なら察してくれそうなものなのに」
「荷さえ揃ってりゃナミさんとロビンちゃんに飲み物のオーダー伺ってこい、って言うとこなんだがな」
とはいえ、そこまで丁寧に曝け出すと、ようやく相手も受け取ることができたらしい。それまでの面倒くさそうな気配も態度も全て消し去り、コンロの調子を確認し始めた。
サンジはなけなしの燃料でベーコンを炙り、野菜をむしり、パンにナイフを入れ、なんとか人数分のサンドイッチを拵えてみせる。ちなみにこのナイフもアマヤが提供したものであり、毒の有無を入念に確かめられたことで一悶着起こしたことも、この最後の思い出を彩ったに違いない。
道具も材料も足りていないが、この場所に感謝を込めて、精一杯の丁寧さで。アマヤはその後ろ姿を眺めながら感傷に浸ることにした。
「あーあ、この風景も見納めかあ。今日はゲストもたくさんいることだし、ダイニングで食べるってわけにもいかないね」
「……こいつは、そうか」
荒波を超えて政府の島まで迎えにきてくれたこの強靭な船が、しかしここで寿命を迎えることをひたすら示唆してくるので、サンジの方もそれ以上反論することをやめた。
彼が振る舞ったクラブ・サンドイッチが一味とゲストによって消費され終わった頃、ガレーラの船が合流し、そうしてようやくメリーは張り詰めていたものを緩めることができたのだった。
ひどく悲しい別れが一つあったことは間違いない。アマヤは全員で揃って海の真ん中で彼を看取ることができたのは幸いである、と感じつつも、喪失の痛みに涙することを堪えることはできなかった。
***
夜明け前の、ひどく静かな時間だった。空はまだ夜の名残を残しているが、東の地平線にはわずかな朱が滲み、まるで暁を待つ者たちの鼓動が、空気をゆっくりとあたためているようだった。
「やっぱり、ルフィさん寝ちゃったの?」
「ああ、そりゃああんだけ暴れた後なんだ。ここ着くまでよく保ったもんだ」
簡易にしつらえられたW7の住居の一室で、アマヤとサンジはごろりと転がるルフィの寝顔を見下ろしていた。
島に着いたばかりの頃は確かに腹が減ったと騒いでいたはずだった。けれどその言葉も、いつの間にか静かに、夢のなかへと沈んでいたらしい。
「ふうん、じゃあ食べ物、用意しないとね」
「寝てるっつってんだろ」
「多分いける多分」
言いながら、アマヤはいつの間にか誰かが差し入れてくれたらしいパンを一つ手に取る。サンジが止める間もなくそれは眠る船長の口元へと運ばれた。まるで反射のように、ルフィの口はぱくりと開き、もぐもぐと咀嚼し、さらにはごくんと飲み込んだのだった。
「ね」
「ば、化け物か」
サンジは顔をしかめながらも、その異様な生命力に半ば感心しているようだった。
「朝になったら買い出しに行こうよ。この調子だともう何日か寝るだろうし、食料を用意してあげなくちゃ」
「文脈がイカれてんだよなァ……」
そう言いながらも、どこかやる気をにじませているのは、状況の異常さはさておき、自分の役目出番を感じ取ったのだろう。
「朝までは僕らもちょっと休もうか……、流石に疲れた」
「お前、珍しく乱戦に参加してたもんな」
「苦手なんですけどねっ」
軽く言いながら、アマヤはベッドへと身体を滑り込ませようとした。その瞬間。
「──あー……、いやアマヤ、お前ちょっと付き合え。あいつら起こすのは可哀想だ」
サンジが示したのは、静かに眠る仲間たちの寝息が満ちた部屋の外だった。アマヤは、一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐにその意図を汲んだ。確かに、みんなの眠りを阻害するわけにはいかない。
少し遅れて、アマヤが屋内庭園に姿を見せる。あれもこれもを確認して回っていた彼の足取りは既に軽くはない。背中には未だ意識のないチョッパーを括りつけたまま、彼は無言でその場に辿り着き、ゾロとサンジの間にへたり込む。
「よかったあ、とりあえずここまで漕ぎつけた」
「おい待て、ありゃあ……」
「島を囲む柵が破れた……!! あの爆発はデケェな!!」
空を見上げる。立ち上がる雲の柱と崩れ落ちる構造物の悲鳴。そして、あの巨大な軍艦たちの姿。どうやらバスターコールが始まってしまったらしい。
「そげキング!!」
ゾロとサンジが同時に顔を上げ、塔の上を見据える。そこには、マントを翻した影がひとつ。爆煙を背に、堂々と立ち尽くしていた。
アマヤは静かに背中からチョッパーを下ろし、慎重に寝かせると、すっと立ち上がる。
「一刻を争う!! そこから飛び下りろ!!」
「そんなムチャを……」
その言葉を言い終わる前に、塔が爆撃に巻き込まれた。
「オイ、ウソだろ……」
「おい!! ウソップ〜〜〜!!!」
「──呼んだかね!!」
空を裂くようにその声が届いたとき、アマヤの足が動いていた。
「っ、任せてっ!」
彼は落下の軌道に合わせて走り出し、草の上を滑るように跳び上がる。そして、迫るその影に向けて、躊躇なく両腕を伸ばした。着地は優雅とは言えなかったが、アマヤはそげキングを抱えるようにして転がりながら地面へと落ち、背中で衝撃を受け止める。
「生きてんじゃねェか!」
ゾロとサンジが、声を揃えて叫んだ。ふだんは交わらないタイミングが、今ばかりはぴたりと重なっていた。
アマヤは自分の体の上から死に体のそげキングを押し下ろす。
「お前ら決死のダイビングをした英雄を受け止める優しさはねェのか!! アマヤを見習っとけ!! アホ共!!」
「……かっこよかったよ」
「オメーだけだほんと、おれに優しくしてくれんのは」
相当の衝撃をわけあったというのににっこり笑うアマヤを見て、そげキングは感涙を禁じ得ない様子である。
騒がしさのなかでも、空の爆音は続いていた。一行はふたたび現実に引き戻され、バスターコールからの脱出に向けて動き始める。
アマヤは地図を思い浮かべながら桟橋へ至るには地下通路を通る必要があることを示す。けれども、その地下通路では濁流に押し流される事件が発生するのだった。
***
ルフィの激闘が終わり、メリー号が駆けつけ、無事に一行は司法の島を後にすることができた。
「よいしょ……これれいいのかい?」
「そう……! ここがおれの席だ!! ──お前のお陰で脱出できた。ありがとう、メリー!!」
ルフィが船首に張り付いて穏やかにいうので、アマヤは胸にぐっとくるものがあった。この一味の船はなんと強く、なんと優しいのか。翻ってそれはきっと、この一味自体がそうだからなのだろう。船はそれを吸い取って育った。まだ安心できる場所に辿り着いてはいないので、気を抜くことはしないけれど、でも、今はまさに、夜明けの中にいる気分だ。
これからこの船の船大工になるはずの男は、まるで人ごとのように顎をしゃくる。
「──しかしお前ら、コリャとんでもねェ事しちまったぞ……だいたいな、世界政府の旗を撃ち抜くなんて」
「取られた仲間を取り返しただけだ!!」
このシンプルさが憧れの根源であった。ああだこうだとうじうじ考え込みがちなアマヤには決して真似できない思考回路である。フランキーもそれを感じ取ったのだろう、その次に続く説教は飲み込むことにしたようだった。
「このケンカ!! おれ達の勝ちだァ!!」
「よっしゃーーァ!!」
船長の勝鬨に、一味は揃って拳を突き上げる。大きくはためいた帆はもちろん、メリーの快哉を表したのだ。
ひと足さきに体力を取り戻したチョッパーがルフィの診察に入ったのを確認し、アマヤはもう一つどうしてもやりたいことに着手することにした。
「ね」
向かった先はこの船の料理番である。ようやくの一服を邪魔されてややむすっとしているが、今この時でないと、そして一刻も早くしないと達成できない目標だ。もう少しだけこの疲れた体に鞭打ってもらうことにする。
「お腹すいちゃった。何か作ってくれる?」
「なんかっつったってお前、ここの道具も積荷も引き上げちまってんだろ」
「そうだと思って、でも、帰路ではお腹がすくと思って、色々くすねてきたんだ」
アマヤは乱闘の中でもなんとかなくさずに済んだ背嚢を示してみせる。持ち物は基本的にひらひらした服の下に隠しがちな彼にしては珍しく、大物を背負っているものだと思っていた。
不満げなコックはしかし、舌打ち一つだけで反抗を済ませ、慣れ親しんだキッチンへと足をむける。アマヤもまたまるで疲労を感じさせない足取りでそれを追った。
「政府の皆さんには悪いけど、ロビンさんを手酷く扱った相手だと思ったら罪悪感は消えちゃった」
「そりゃ間違いねェ」
ダイニングテーブルに広げ始めた食料を眺め、サンジは素早く自分の脳内のレシピブックを開く。限られた食材でも食い手を満足させるのが彼の矜持だ。
「ほら、ちゃんと油紙に包んで、さらに皮袋に入れておいたから海水もほとんど染みてない。ココロさんが素早く水揚げしてくれたからっていうのもあるかな」
「ったく、緊張感がねェ」
それにしても、アマヤがわざわざ大荷物を抱え、食事を要求するとは常ならぬことだ。ロビンを助けられるかどうかの瀬戸際でそのことを考えていたとしたら、船長以上の職への執念である。サンジはそこのところが腑に落ちず、食材ともに目の前の男の心中を見聞するのだった。
その様子を見てとったアマヤはやれやれとばかりに嘆息する。
「サンジくん、この船は、船大工をして『次の島まで保たない』と言わしめたんだ。わかってくれてないみたいだからわざわざ言うけど、……その」
こういう感傷的な気遣いを説明させられるのは、ジョークを開設させられるよりもずっと恥ずかしい。きっとすっかり彼の手に馴染んだであろうダイニングの、キッチンの最後の思い出がアレでは、と思っての配慮だというのに。
「ここのキッチンに立てるのは最後かと思って。……ずいぶん疲れてるんだね、普段なら察してくれそうなものなのに」
「荷さえ揃ってりゃナミさんとロビンちゃんに飲み物のオーダー伺ってこい、って言うとこなんだがな」
とはいえ、そこまで丁寧に曝け出すと、ようやく相手も受け取ることができたらしい。それまでの面倒くさそうな気配も態度も全て消し去り、コンロの調子を確認し始めた。
サンジはなけなしの燃料でベーコンを炙り、野菜をむしり、パンにナイフを入れ、なんとか人数分のサンドイッチを拵えてみせる。ちなみにこのナイフもアマヤが提供したものであり、毒の有無を入念に確かめられたことで一悶着起こしたことも、この最後の思い出を彩ったに違いない。
道具も材料も足りていないが、この場所に感謝を込めて、精一杯の丁寧さで。アマヤはその後ろ姿を眺めながら感傷に浸ることにした。
「あーあ、この風景も見納めかあ。今日はゲストもたくさんいることだし、ダイニングで食べるってわけにもいかないね」
「……こいつは、そうか」
荒波を超えて政府の島まで迎えにきてくれたこの強靭な船が、しかしここで寿命を迎えることをひたすら示唆してくるので、サンジの方もそれ以上反論することをやめた。
彼が振る舞ったクラブ・サンドイッチが一味とゲストによって消費され終わった頃、ガレーラの船が合流し、そうしてようやくメリーは張り詰めていたものを緩めることができたのだった。
ひどく悲しい別れが一つあったことは間違いない。アマヤは全員で揃って海の真ん中で彼を看取ることができたのは幸いである、と感じつつも、喪失の痛みに涙することを堪えることはできなかった。
***
夜明け前の、ひどく静かな時間だった。空はまだ夜の名残を残しているが、東の地平線にはわずかな朱が滲み、まるで暁を待つ者たちの鼓動が、空気をゆっくりとあたためているようだった。
「やっぱり、ルフィさん寝ちゃったの?」
「ああ、そりゃああんだけ暴れた後なんだ。ここ着くまでよく保ったもんだ」
簡易にしつらえられたW7の住居の一室で、アマヤとサンジはごろりと転がるルフィの寝顔を見下ろしていた。
島に着いたばかりの頃は確かに腹が減ったと騒いでいたはずだった。けれどその言葉も、いつの間にか静かに、夢のなかへと沈んでいたらしい。
「ふうん、じゃあ食べ物、用意しないとね」
「寝てるっつってんだろ」
「多分いける多分」
言いながら、アマヤはいつの間にか誰かが差し入れてくれたらしいパンを一つ手に取る。サンジが止める間もなくそれは眠る船長の口元へと運ばれた。まるで反射のように、ルフィの口はぱくりと開き、もぐもぐと咀嚼し、さらにはごくんと飲み込んだのだった。
「ね」
「ば、化け物か」
サンジは顔をしかめながらも、その異様な生命力に半ば感心しているようだった。
「朝になったら買い出しに行こうよ。この調子だともう何日か寝るだろうし、食料を用意してあげなくちゃ」
「文脈がイカれてんだよなァ……」
そう言いながらも、どこかやる気をにじませているのは、状況の異常さはさておき、自分の役目出番を感じ取ったのだろう。
「朝までは僕らもちょっと休もうか……、流石に疲れた」
「お前、珍しく乱戦に参加してたもんな」
「苦手なんですけどねっ」
軽く言いながら、アマヤはベッドへと身体を滑り込ませようとした。その瞬間。
「──あー……、いやアマヤ、お前ちょっと付き合え。あいつら起こすのは可哀想だ」
サンジが示したのは、静かに眠る仲間たちの寝息が満ちた部屋の外だった。アマヤは、一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐにその意図を汲んだ。確かに、みんなの眠りを阻害するわけにはいかない。
