〜アラバスタまで
幹部一同を黙らせた後も、船員たちの奮闘は続いた。いつの間にか海軍とも同じ方向を向いて街中を駆け回り、手を尽くし、そして、雨が降る頃には限界を迎えて倒れ込んだ。
雨は、止む気配もなく降り続いていた。
外の気配をすべて吸い込んでしまったかのように、世界は静かで、窓辺に打ちつけるしとしとという音だけが、確かな時の流れを教えていた。砂の国にしては珍しく、重く厚い雲が空を覆い、星の灯りは一つも届かない。それでも、国の人々がようやく安らぎの中にあると知っていれば、星が見えない夜も、決して悪いものではなかった。
「これだけ静かだと、自省がはかどるわね」
「もっと解放の喜びに浸らなきゃ」
「あんまり喜んでると、この現実が夢になっちゃいそうで、怖いの」
「うん、……それは、分かるな。僕もいつだって、不安だし」
人懐っこく、ちょっと皮肉屋で、いつでもくすくす笑っている陽の面と、周囲の人の顔色を伺い、自身が歯車か潤滑油にならねばと強迫観念に駆られている陰の面。前者が今世で得たものであれば、後者は前世で得たものだ。それは両方アマヤを構成するものだけれど、よく知らない相手から見たら二面性に見えるし、不審を呼び起こすものでもある。
本人は明るい自分でありたいと願っているが、根の部分はそう簡単に変えられない。痛みに触れた時ほど、他人との境界が曖昧になり、陰の面が顔を出すのだった。
ジョハリの窓で言えば、この両面はいずれも「開放の窓」に位置している。自分でも把握していて、周囲にもある程度知られている領域だ。けれど、その陰の面がどこから来ているのか。すなわち前世の記憶や価値観といった、誰にも明かされていない起源だけが、彼の「秘密の窓」として静かに横たわっている。表には出ていなくても、確かにそこにある見えない境界線が、彼という人間の不可解さの源でもあるのだ。
濡れた石畳の先に広がる薄闇を眺めながら、アマヤはふと隣を見やる。怖い、とは言いつつ柔らかな雰囲気を纏ったビビが雨音を愛しんでいる。言葉を交わさずとも、雨の音と安堵の余韻が、ふたりの間にゆるやかな空気を作っていた。
「そういえばアマヤくん、馬の扱い、見事だったわ」
ふいに投げかけられたその言葉に、アマヤはきょとんと目を丸くする。彼女の記憶の中に焼きついているのが、いつのどの場面かを回想する。
アマヤが馬を駆る様子は、まさに人馬一体であり、広大な土地を擁するがゆえに騎馬が発達したこの国においてもトップクラスの実力だったのだ。手綱はほとんど用をなさず、馬の動きは彼の意志に完璧に追従していた。ところが、アマヤにとっては呼吸にも等しい当然の技術であったため、わざわざ取り沙汰されることに困惑する。
「……? そうだっけ」
「Mr.2に追われていた時、騎馬で駆けつけてくれたでしょう」
「──ああ」
思い出したとたん、得心がいく。砂の城壁を垂直に登るカルーも規格外だったし、それを人体一つで追っていたMr.2の姿こそ、アマヤの脳裏にこびりついていたのだ。
「あれ、怖かったよね。ビビさんはカルー、僕は馬に乗ってたのに、彼、人体だけで同じくらいの速度出してたでしょ」
「……確かに」
「それにこれ」
アマヤは腕に巻いたままの包帯を示す。
「あってよかったね」
「あら、わかってたんでしょう、アマヤくんは」
ビビは、こともなげに笑った。見透かされている。それはまるでいっそ、アマヤが別の世界から来たことすら、何もかもわかって上での笑みに見えた。それを受け取った臆病者はごくりと喉を鳴らす。
「何を?」
「あそこに現れるウソップさんは偽物だって」
「まさか。そんな風に未来がくっきり見えるとしたら、僕は──」
「いいわよ今更謙遜しなくて。それに、謝罪も弁明もいらないわ。今こうやって戦いは終わったんだもの」
ビビの声音からは揶揄も咎めも感じられなかった。ただ、事実を受け入れている者の穏やかさがある。
なのに、アマヤの胸に湧いてきたのは、深い後悔だった。知っていたのに、予知していたのに、それでも後手に回り、皆を危険に晒した。逆の立場だったら、もっと辛いことが起きないように先手を打ってくれればよかったのに、と詰っているかもしれない。その思いが、今になって胸の奥をじくじくと蝕んでいた。
「……どうしよう、僕、ごめん」
「そうねえ」
考えて、受け止めて、そして言葉を選ぼうとしている間合いである。彼女はきっと、アマヤが何もかもを語らずとも、どこかに“自分なりの線引き”があるのだろうと察しているのだ。悲しい未来が見えていたとしても、黙っているのならば、きちんと理由があるのだと。しかし、このすぐに他人の痛みに踏み込む青年は、あまりにも自分を信じていないことは気がかりだった。
「アマヤくんは諦めすぎなのかも」
「うん、……きっとそれはそう」
「私が見えていないところも含めて、アマヤくんはきっともっと、たくさんできることがあるのよ」
ビビはそっと両の手を握りしめ、アマヤを応援するために軽く振る。
「自信、もって! ね!」
長く張り詰めていた糸が、ふと緩む。ビビの笑顔に引き寄せられるように、アマヤもまた、静かな笑顔を取り戻していた。内省では得られない、この世界の人物からの励ましが、彼にとっては何よりの薬であった。
「それにしてももったいないわね、あれだけの乗馬の腕があって、海賊なんて」
ビビの言葉は軽やかだったが、そこには真剣な驚きも滲んでいた。
砂の民として育った彼女には、馬の扱いに通じていることがどういう意味を持つか、よくわかっている。単なる特技などではない。文化そのものと結びついた技術なのだ。
「ふふ、確かに。ここに滞在してる間にもう少しやってこうかな。しばらくぶりだから感覚戻しておかないと。……あ、ラクダも得意だよ」
「そう! じゃ、一緒に近くのオアシスまで遠乗りなんてどう?」
「明日晴れてたら、それで」
約束というほどでもなく、けれど確かに交わされた「明日」の予定。それがまだ白紙であること、だからこそ、そこに小さな希望を書き込めるということは、今の彼らにとって、この上なく貴重な幸福だった。
「他に誰か誘う?」
「うーん、みんなそれぞれ忙しそうだしなあ。声かけるだけならいいけど、──ああっと」
話の途中、アマヤはふと顔をしかめる。そして人差し指をこめかみのあたりでくるくると回してみせた。彼の悪友の隠喩である。
「サンジくんだけはダメ」
「あら、どうして?」
「喧嘩中」
誰に対しても柔らかくまろやかに受け止めるようなアマヤが、誰かと喧嘩中だというのは、それ自体がひどく珍しい事実だった。確かにサンジとは遠慮のない付き合いをしているようだったが、それでも喧嘩に至る所は見たことがない。
「アマヤくんも誰かと喧嘩すること、あるのね」
「……あれ、ビビさんも聞いてなかったっけ、あのひっどいセリフ!」
その問いに、アマヤは堰を切ったように言葉をあふれさせた。目を見開き、手振りを交えながら、サンジが自分とMr.2を同一視して悪ふざけをしたことを、まるでつい5分前の出来事のように語る。しかもその口調は、普段のおっとりとしたものから、どこか子どものような憤慨が混じるものになっている。むしろ、感情が膨れあがってしまったからこそ、理屈では収まらない。そういう勢いだった。
ビビはというと、ひとしきり話を聞いてから、視線を泳がせるようにして、ようやく言葉を絞り出した。
「あぁ……、あはは、うん、そうね」
たしかに、性別が曖昧だという属性だけを切り取れば、同一であるといってもいいかもしれない。けれども、それはあまりにも一側面に過ぎない。
「僕あんな自分に似合わないメイクも服も髪型も選ばないしっ」
「それは、ほら、好みの問題だから」
「というかあれが似合う人類はあんまり思いつかないけど。あとほんと、え……ビビさん、一応確認したいんだけど、僕とあれが同列に並ぶとは思わないよね?」
そこにはアマヤなりの確固たる美意識があった。自分に似合う形を知り、それに整えているという自負がある。見た目はもちろん、細かな所作、言葉の抑揚、表に出す表情ひとつまで、感覚として最も“自分らしい”在り方を選んできた。だからこそ、強烈すぎるあの男(?)と一括りにされるのは、笑って済ませられるものではなかった。
「思わない思わない」
「じゃあやっぱりサンジくんがひどいっ!」
「アマヤくんは、ううん、なんて言ったらいいかしら」
憤慨する占い師を前に、ビビは指先を顎に当て、言葉を探すように考え込む。
「確かに男性でもあり、女性的でもあるんだけれど、それはそれとして、とってもかっこいいし」
「かっ」
「あんまり言われ慣れてないんでしょ」
「……うん、自分で言うのも何だけど、僕って可愛い系だと思ってるから」
ビビは、その様子をじっと見つめたまま、今度は少しイタズラっぽく、けれど本心からの言葉を重ねる。
「でも、あの時革命軍から、Mr.2から、守ってくれたアマヤくん、王子様みたいだった」
王子様。その言葉は、自分からは決して出てこない称号だった。
可愛いとか、儚いとか、守りたくなるとか、それらはどれも自分を縛るラベルであり、また選んできた仮面でもある。けれど「誰かを守った姿がかっこよかった」と言われること。それは、アマヤ自身が想像していなかった視点だ。アマヤは先ほどのまでの憤慨全てを忘れて両手を頬に当てる。
おそらくそれは、彼にとっての「盲点の窓」にあたるものなのだろう。自分では見えない。けれど、他人からは見えている。
自分が守ろうとした時、そこに確かに凛々しさが生まれていたということ。それを、きちんと受け取って、言葉にしてくれる相手がいること。それがこれほど面映いことだと、アマヤはこの瞬間、少しだけ知ったのだった。
雨は、止む気配もなく降り続いていた。
外の気配をすべて吸い込んでしまったかのように、世界は静かで、窓辺に打ちつけるしとしとという音だけが、確かな時の流れを教えていた。砂の国にしては珍しく、重く厚い雲が空を覆い、星の灯りは一つも届かない。それでも、国の人々がようやく安らぎの中にあると知っていれば、星が見えない夜も、決して悪いものではなかった。
「これだけ静かだと、自省がはかどるわね」
「もっと解放の喜びに浸らなきゃ」
「あんまり喜んでると、この現実が夢になっちゃいそうで、怖いの」
「うん、……それは、分かるな。僕もいつだって、不安だし」
人懐っこく、ちょっと皮肉屋で、いつでもくすくす笑っている陽の面と、周囲の人の顔色を伺い、自身が歯車か潤滑油にならねばと強迫観念に駆られている陰の面。前者が今世で得たものであれば、後者は前世で得たものだ。それは両方アマヤを構成するものだけれど、よく知らない相手から見たら二面性に見えるし、不審を呼び起こすものでもある。
本人は明るい自分でありたいと願っているが、根の部分はそう簡単に変えられない。痛みに触れた時ほど、他人との境界が曖昧になり、陰の面が顔を出すのだった。
ジョハリの窓で言えば、この両面はいずれも「開放の窓」に位置している。自分でも把握していて、周囲にもある程度知られている領域だ。けれど、その陰の面がどこから来ているのか。すなわち前世の記憶や価値観といった、誰にも明かされていない起源だけが、彼の「秘密の窓」として静かに横たわっている。表には出ていなくても、確かにそこにある見えない境界線が、彼という人間の不可解さの源でもあるのだ。
濡れた石畳の先に広がる薄闇を眺めながら、アマヤはふと隣を見やる。怖い、とは言いつつ柔らかな雰囲気を纏ったビビが雨音を愛しんでいる。言葉を交わさずとも、雨の音と安堵の余韻が、ふたりの間にゆるやかな空気を作っていた。
「そういえばアマヤくん、馬の扱い、見事だったわ」
ふいに投げかけられたその言葉に、アマヤはきょとんと目を丸くする。彼女の記憶の中に焼きついているのが、いつのどの場面かを回想する。
アマヤが馬を駆る様子は、まさに人馬一体であり、広大な土地を擁するがゆえに騎馬が発達したこの国においてもトップクラスの実力だったのだ。手綱はほとんど用をなさず、馬の動きは彼の意志に完璧に追従していた。ところが、アマヤにとっては呼吸にも等しい当然の技術であったため、わざわざ取り沙汰されることに困惑する。
「……? そうだっけ」
「Mr.2に追われていた時、騎馬で駆けつけてくれたでしょう」
「──ああ」
思い出したとたん、得心がいく。砂の城壁を垂直に登るカルーも規格外だったし、それを人体一つで追っていたMr.2の姿こそ、アマヤの脳裏にこびりついていたのだ。
「あれ、怖かったよね。ビビさんはカルー、僕は馬に乗ってたのに、彼、人体だけで同じくらいの速度出してたでしょ」
「……確かに」
「それにこれ」
アマヤは腕に巻いたままの包帯を示す。
「あってよかったね」
「あら、わかってたんでしょう、アマヤくんは」
ビビは、こともなげに笑った。見透かされている。それはまるでいっそ、アマヤが別の世界から来たことすら、何もかもわかって上での笑みに見えた。それを受け取った臆病者はごくりと喉を鳴らす。
「何を?」
「あそこに現れるウソップさんは偽物だって」
「まさか。そんな風に未来がくっきり見えるとしたら、僕は──」
「いいわよ今更謙遜しなくて。それに、謝罪も弁明もいらないわ。今こうやって戦いは終わったんだもの」
ビビの声音からは揶揄も咎めも感じられなかった。ただ、事実を受け入れている者の穏やかさがある。
なのに、アマヤの胸に湧いてきたのは、深い後悔だった。知っていたのに、予知していたのに、それでも後手に回り、皆を危険に晒した。逆の立場だったら、もっと辛いことが起きないように先手を打ってくれればよかったのに、と詰っているかもしれない。その思いが、今になって胸の奥をじくじくと蝕んでいた。
「……どうしよう、僕、ごめん」
「そうねえ」
考えて、受け止めて、そして言葉を選ぼうとしている間合いである。彼女はきっと、アマヤが何もかもを語らずとも、どこかに“自分なりの線引き”があるのだろうと察しているのだ。悲しい未来が見えていたとしても、黙っているのならば、きちんと理由があるのだと。しかし、このすぐに他人の痛みに踏み込む青年は、あまりにも自分を信じていないことは気がかりだった。
「アマヤくんは諦めすぎなのかも」
「うん、……きっとそれはそう」
「私が見えていないところも含めて、アマヤくんはきっともっと、たくさんできることがあるのよ」
ビビはそっと両の手を握りしめ、アマヤを応援するために軽く振る。
「自信、もって! ね!」
長く張り詰めていた糸が、ふと緩む。ビビの笑顔に引き寄せられるように、アマヤもまた、静かな笑顔を取り戻していた。内省では得られない、この世界の人物からの励ましが、彼にとっては何よりの薬であった。
「それにしてももったいないわね、あれだけの乗馬の腕があって、海賊なんて」
ビビの言葉は軽やかだったが、そこには真剣な驚きも滲んでいた。
砂の民として育った彼女には、馬の扱いに通じていることがどういう意味を持つか、よくわかっている。単なる特技などではない。文化そのものと結びついた技術なのだ。
「ふふ、確かに。ここに滞在してる間にもう少しやってこうかな。しばらくぶりだから感覚戻しておかないと。……あ、ラクダも得意だよ」
「そう! じゃ、一緒に近くのオアシスまで遠乗りなんてどう?」
「明日晴れてたら、それで」
約束というほどでもなく、けれど確かに交わされた「明日」の予定。それがまだ白紙であること、だからこそ、そこに小さな希望を書き込めるということは、今の彼らにとって、この上なく貴重な幸福だった。
「他に誰か誘う?」
「うーん、みんなそれぞれ忙しそうだしなあ。声かけるだけならいいけど、──ああっと」
話の途中、アマヤはふと顔をしかめる。そして人差し指をこめかみのあたりでくるくると回してみせた。彼の悪友の隠喩である。
「サンジくんだけはダメ」
「あら、どうして?」
「喧嘩中」
誰に対しても柔らかくまろやかに受け止めるようなアマヤが、誰かと喧嘩中だというのは、それ自体がひどく珍しい事実だった。確かにサンジとは遠慮のない付き合いをしているようだったが、それでも喧嘩に至る所は見たことがない。
「アマヤくんも誰かと喧嘩すること、あるのね」
「……あれ、ビビさんも聞いてなかったっけ、あのひっどいセリフ!」
その問いに、アマヤは堰を切ったように言葉をあふれさせた。目を見開き、手振りを交えながら、サンジが自分とMr.2を同一視して悪ふざけをしたことを、まるでつい5分前の出来事のように語る。しかもその口調は、普段のおっとりとしたものから、どこか子どものような憤慨が混じるものになっている。むしろ、感情が膨れあがってしまったからこそ、理屈では収まらない。そういう勢いだった。
ビビはというと、ひとしきり話を聞いてから、視線を泳がせるようにして、ようやく言葉を絞り出した。
「あぁ……、あはは、うん、そうね」
たしかに、性別が曖昧だという属性だけを切り取れば、同一であるといってもいいかもしれない。けれども、それはあまりにも一側面に過ぎない。
「僕あんな自分に似合わないメイクも服も髪型も選ばないしっ」
「それは、ほら、好みの問題だから」
「というかあれが似合う人類はあんまり思いつかないけど。あとほんと、え……ビビさん、一応確認したいんだけど、僕とあれが同列に並ぶとは思わないよね?」
そこにはアマヤなりの確固たる美意識があった。自分に似合う形を知り、それに整えているという自負がある。見た目はもちろん、細かな所作、言葉の抑揚、表に出す表情ひとつまで、感覚として最も“自分らしい”在り方を選んできた。だからこそ、強烈すぎるあの男(?)と一括りにされるのは、笑って済ませられるものではなかった。
「思わない思わない」
「じゃあやっぱりサンジくんがひどいっ!」
「アマヤくんは、ううん、なんて言ったらいいかしら」
憤慨する占い師を前に、ビビは指先を顎に当て、言葉を探すように考え込む。
「確かに男性でもあり、女性的でもあるんだけれど、それはそれとして、とってもかっこいいし」
「かっ」
「あんまり言われ慣れてないんでしょ」
「……うん、自分で言うのも何だけど、僕って可愛い系だと思ってるから」
ビビは、その様子をじっと見つめたまま、今度は少しイタズラっぽく、けれど本心からの言葉を重ねる。
「でも、あの時革命軍から、Mr.2から、守ってくれたアマヤくん、王子様みたいだった」
王子様。その言葉は、自分からは決して出てこない称号だった。
可愛いとか、儚いとか、守りたくなるとか、それらはどれも自分を縛るラベルであり、また選んできた仮面でもある。けれど「誰かを守った姿がかっこよかった」と言われること。それは、アマヤ自身が想像していなかった視点だ。アマヤは先ほどのまでの憤慨全てを忘れて両手を頬に当てる。
おそらくそれは、彼にとっての「盲点の窓」にあたるものなのだろう。自分では見えない。けれど、他人からは見えている。
自分が守ろうとした時、そこに確かに凛々しさが生まれていたということ。それを、きちんと受け取って、言葉にしてくれる相手がいること。それがこれほど面映いことだと、アマヤはこの瞬間、少しだけ知ったのだった。
