午前零時のロマンチカ
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ドアを叩く音がする。叩くというより殴ると言ったほうが正しいその音に、ユギョムは眉をしかめる。確かめに行った方がいいのだろうが、いざという時に頼りになる、見かけによらず逞しい兄はシャワーを浴びに行ってしまった。
「……だれ〜」
絶えずドアを打ち付ける拳の音に耐えられずユギョムはドアから一定の距離をあけ弱々しく声をあげる。
「…………あけて」
「…ユア?」
ノックの音とは裏腹に小さく返ってきたその声にユギョムは呆気にとられるも、親友となれば部屋に入れない理由がない。スコープを確認することもなくドアを開けたユギョムにユアは見向きもせず上がりこむ。
「……オッパは?」
「あ、え、マクヒョン?は、シャワー」
「…うそ」
ベッドルームに誰もいないことを確認するとユアは見るからに落胆した顔で振り返る。いつもはくだらないことでふざけ笑い合うのに、今のユアの雰囲気はなんだかそんな感じじゃない気がして、ユギョムは戸惑う。
「えと、マクヒョン待つ?」
「……いい、帰る」
「ちょ、っと待って」
ユギョムの目を見ることなく部屋を出ていこうとしたユアの腕を咄嗟に掴む。あんなに強くドアを叩いてまでマークに会いたかったのだ。それなりの理由があるはずである。
「……かえる」
「…え、えと」
「オッパいないならここいても意味ないもん」
「……帰ってどうするの」
「ボミオッパのとこ行く」
「………」
「離して、」
そんなに強い力で掴んでいるつもりはないのに無理に振りほどかないユアに胸がきゅうと苦しくなる。
「俺じゃダメなの?」
「……なにに」
「なんでも?」
「…いみわかんない」
「ほら、ちょっと頼りないかもしれないけど、なんかその…詳しいことは話さなくてもいいし、ただちょっと一緒にいたり、ぎゅうしてあげたりは……できる、つもりでは、いるんですけど……」
自信を持ってはじめたはずの言葉は最終的に消え入るように終わってしまう。反応を返さないユアに手持ち無沙汰のユギョムは顔を覗き込もうとして、ふいと逸らされる。
「避けないでよ」
「じゃあ見にこないでよ」
「泣きそうなの?」
「デリカシー皆無か」
「ぎゅうしてあげようか…?」
「…………」
「……ユア?」
「………めっちゃ」
「…え?」
「ちょっと、じゃなくて、めっちゃ、頼りないけど」
「うるせッ」
「しょうがないから、ぎゅう、されてあげる」
胸にとすんと収まったユアの身体にユギョムは思わずびくりと跳ね上がる。宙で固まった腕をどうすることも出来ず、まるで心臓ごと凍ってしまったようだ。
「…ぎゅうしてくれるんじゃないの」
「ぅえ?!え、してあげる!」
「してよ」
「し、してんじゃん」
「私がね。ユギョムさんのお腕はお忙しいんですか?」
「う……す、するよ…?」
そろりと背中に回した両腕に、ユアがユギョムに抱きつく力が幾分か強くなったのは気のせいだろうか。
「……苦しくない?」
「…ない」
「そう」
「…………」
「……ユア」
「…なに」
「…大丈夫、俺がいるよ」
「ふふ、なにそれ」
「ユアが元気になる言葉を掛けてあげてるの」
「……ふっ、じゃあもっと言って」
「ん〜…みんなユアのことが大好きだよ」
「………」
「心配しなくても、ちゃんと隣で見てるから」
「……」
「……あとは、俺もいるよ、ってこと」
「ふふっ、それはさっきも聞いたよ」
自分の胸の中で喋られるというのはなんだか不思議な感覚だ。ハグしたことはあっても、こんなに静かに落ち着いて抱きしめ合うというのはしたことがなかったから、余計に変に意識してしまう。
「ちがくて、」
「なにがちがうの」
「マクヒョンでもジェボミヒョンでもなくて、俺がいるよってこと」
「……しってるし」
「いーや、ユアは知ってないね」
「…………」
「ヒョン達がいないから俺を選ぶんでもいいよ、いまはね。でも、いつかは、なんかモヤモヤしたら、俺を探して欲しいんだ」
黙ったままのユアの背中をとんとんと叩いてやりながらユギョムは続ける。
「マクヒョンでもジェボミヒョンでもなく、俺を選んでよ」
「……」
「…返事は?」
「………屈辱」
「うわ!ひど!性格悪!ヒトがせっかく」
「大好き」
「〜〜ッ?!」
「ユギョマがいてくれてよかった」
「……っえ」
「ずっと側にいて、離れないで」
「ぅ、え、うんッ」
「そんで私が屈辱を感じずに甘えられるくらい大きくなって」
「っ、なる、」
「ふふ、だーいすき」
「俺も、大好き」
スローテンポのダンスを踊っているみたいにゆらゆらと体を揺らしながら抱きしめ合う。ユアの顔は未だ見えないままだったが、腕の中で感じる温度が心地よく、ユギョムの頬も上気する。
「俺もうでてってもいーい?」
「アッエ!、ヒョンッ」
「ごめんね〜邪魔するつもりはなかったんだけどぉ」
「そ、んな邪魔とかっ!なにもやってないし!」
「ただぎゅーしてただけだもんね」
「ユアッ」
「いや、でもワンチャンないとも言えないじゃん?」
「ないしっ!」
「そんなきっぱり言われると傷つくんですけど」
不服そうに顔を上げたユアに今度はユギョムはびくりと顔を逸らす。その様子を見たマークが片方の口角を上げて笑う。
「ユア、オッパがぎゅーしてやろうか?」
「ん、」
「、だめ」
「っわ」
自分のもとに引き留めようと強く抱きしめたユギョムは驚いて顔を上げようとしたユアの頭を片手で自分の肩に押し付ける。力加減を間違えてしまった気がしないでもないが仕返しに背中を殴られたのでおあいこだ。
「ふっふ〜〜仲良しはいいことだよ〜」
いつのまにか兄の手に握られていた携帯端末にやられた、と咄嗟に思った。一部始終を抑えた動画、そしてその動画のキャプチャーともに、それからしばらくの間ユギョムの平穏を脅かすのである。
Just wanna hug you tight