午前零時のロマンチカ
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「で、ホントは何テイク撮ったの」
練習室の床に座り汗を拭うジニョンに、休憩から戻ってきたらしいマークが笑う。弟たちが騒いでいる会話を聞いたのだろう兄の言葉に、ジニョンは思わず顔を顰める。
「…ききたいですか?」
「うんききたい」
「俺も」
隣でスマホを弄っていたはずのジェボムまで会話に加わり、ジニョンは遂に頭を抱える。
「ハァ……じゅうに」
「うわ〜〜!12回もキスしたんだ?!」
「キスってどうカウントすんの?唇離したら一回?」
「たしかに…そしたら……めっちゃしたね?」
「そこらの高校生よりしてんじゃね」
「高校生役だし…」
「ジェボマ、今時の高校生は俺らよりしてるよ」
「まあだろうな。……で、どだった」
逸れていく兄達の話題に胸を撫で下ろしかけ、ジニョンの頭は再び落ちる。
「ほんとやめてください……」
「やっぱ緊張した?」
「…それは、まあ」
「キスシーンあるってキャスティング時点で知ってるもん?」
「いいえ…」
「いつ知ったの?」
「…台本読み合わせで…」
「てか鼻キスの前にもしてたよね?」
「…しました」
「そのあともなんかしてたよね?」
「しました…」
「……なんで俺ら尋問してんの?」
次々と質問を投げつける笑顔のマークにジェボムが楽しそうに問い掛ける。
「だって俺たちの妹とキスしたんだから事情は聞いとかないと…」
「仕事ですけど…」
「それな」
きゃいきゃいとはしゃぐ兄の笑顔にジニョンの身体から力が抜ける。手元のスマホに再び視線を戻したジェボムも、未だ口角は上がったままだ。
「でも正直なところ良かったよ、相手がジニョンイで」
「だな、どこぞの馬の骨に惚れられるよりは」
「すーぐ熱くなっちゃうんだもんな〜」
「……」
ユアがドラマを撮るということは——それがラブロマンスならば——新しい恋が始まるということである。恋人を演じた俳優同士が本当の恋愛関係に発展することは何も珍しいことではない。ただ、ユアは普通よりちょっと恋多きなんとやらなのだ。ドラマを撮れば、相手俳優のことを好きになる。それも百発百中で。すぐ好きになって、すぐ冷める。クランクアップにはもう過ぎ去っている、正しく恋のハリケーン。
「あのユアがジニョンイのこと意識すらしないっておもろいね」
「……なんで俺こんなグサグサ刺されてるんですか?」
「まあでも兄貴とキスしたから好きになるか?って言われたらなんないもんじゃん?」
「実の兄でもないのに?」
「それな」
「それもあんなエッチなキス?」
「それなんだよな〜〜?」
「もうマジで遊ばないでください…」
今すぐにでも練習室を飛び出したい衝動を抑えながら早く休憩が終わらないかと時計をちらりと視界に入れたジニョンに、マークはまだ追及の手を止めるつもりはないらしい。
「正直やばかった?」
「……」
「沈黙は…肯定?」
「いや〜ん」
「マクヒョンやめて…」
「じゃあ二択できくね?良かった?良くなかった?せーの」
「ちょちょっと待って」
「なに?」
「これ本当に言わなきゃ駄目なの?」
「言わないって選択肢がなくない?」
「……」
「せえ〜のっ」
「……よかった」
おお〜〜、と隣で歓声をあげる兄に肘を入れるも、ニヤついたその表情は崩れない。
「じゃあ、ドキドキした?」
「…した」
「たった?」
「ッハア?!」
「声でかいってえ」
「だれが…っ!」
楽しげにコソリと耳元で囁かれたその言葉に顔が熱くなるのが自分でもわかる。なんてことを聞くんだ、と鋭い視線を向けるも、本人は撤回するつもりもないらしい。
「流石にそれはないだろ」
「そうですよ、そんな質問」
「中学生じゃあるまいし」
「だ、そういう問題じゃない!」
「どういう問題?」
先程の叫びが聞こえたのか、ジェボムとの間に無理やり割り込んできたユアのせいでジニョンの身体がぐいと押される。
「…ユアには関係ない話」
「うっそだあ〜私のことめっちゃ見てたじゃん!」
「……」
「大嘘のカンケイ大アリ話」
「ほらぁ!」
「……ならヒョンが説明してください」
「鼻キスだよ〜鼻キス」
「また?もう、みんな大好きだね?」
「あとユア今回恋しなかったね〜って」
「恒例行事みたいに言わないでよ〜そんないちいち恋してたら大変じゃん」
嘘つけ、と思ったが言わないのは面倒だからだ。マークの膝を叩いたユアの手を目で追いながらジニョンは思う。
「いつもは恋人役の俳優好きになんじゃん」
「だってヨンイオッパだったじゃん」
「なんで?ジニョンイだと恋しないの?」
「だってもうしたもん」
「ハァ?!」
ヨンジェのあげた声はもっともだ。その言葉に、こちらの話に耳を傾けていたらしい者の全ての視線が集まったのだから。つまりスタジオにいた全ての人間の活動が止み、静寂が訪れたのだ。ジニョンも思わず眼を見開いてユアの横顔を見る。
「ちょっと…私の初恋そんな気になる?」
「しかも初恋かい」
「お前の初恋ジニョンかよ!」
「いつ?!なんで?!」
「14さいのとき」
「ジニョンのどこがよかったわけ〜?」
「優しくてカッコよかったから」
「まあな〜それは認めるけど」
群がってきたメンバーたちのせいで静寂は一瞬にして破られる。
「告ったの?」
「告ったよ」
「え、まじで?ジニョンア振ったの?」
「……記憶にないんですけど…」
「綺麗に流されましたもん」
「ウワア〜!ジニョンイヒョンヒドー!」
「まあまあ、でも理解できますよ。そりゃ高校生からしてみたら中学生なんて魅力のミの字もないですわな」
「そんなことないだろユアは昔から可愛かったよ」
「……私の初恋スニオッパに捧げればよかった…」
「今からでも遅くないけど?」
「考えておきます」
ナニ!と嬉しそうなジェクスンにユアはクスクスと笑いトレーナーの練習再開の声に立ち上がる。
「逃した魚は大きかった?」
立ち上がったジニョンの耳元で懲りずに囁いた声に睨みを返すと、その声はまた楽しそうに笑うのだった。
それでも天地は返らない