午前零時のロマンチカ
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「……本当に気まずくなかったの?」
ユギョムを振り返ったユアの髪がぱらりと肩から落ちる。汗に濡れ緩くうねりを取り戻したそれに一瞬目を奪われる。1番上の兄がジンジャーと称したその色に。
「…何が?」
「……その、あれ」
「どれ?」
収録の間も、移動の車も、練習中も頭の片隅にずっと燻っていたその質問をようやっと投げかけたというのに。なぜかは知らないが怯んでは負けだと、毅然とした態度で言うつもりだったその質問がもごもごと口の中を転がる。
「その…キス…」
「キス?」
「……鼻…の、」
「あぁ〜〜"鼻キス"?」
「……そ」
彼女の鳶色の目を見つめて言うはずだったその言葉は、結局の所この前買ったばかりの新しい靴の先を見て言う事になった。ユアは依然としてこちらの顔を覗いているのだから不公平だ。
「別に気まずくなかったよ?」
「…いまも?」
「今も。」
「…ふぅ〜ん」
「なにそれ、反応うす」
「や、なんて反応していいかわかんなくて」
「ちょっと、じゃあきかないでよ〜」
「…何テイク撮ったの?」
「え〜?何回撮ったんだろ…覚えてないけど、それなりに撮ったよ」
「じゃあ…ジニョンイヒョンと、いっぱいキスしたんだ…」
「ふは、そう言われればそうだね、いっぱいしたよ」
けらけらと笑いながら足を前後に揺らすユアのせいで、ベンチがきしきしと小さな音をたて、同じベンチに座るユギョムにまでその振動が伝わる。胸がざわざわする。
「………どうだった?」
「ふ、キスが?」
再びこちらを向いた二つのアーモンドが楽しそうに細められる。
「う、ん」
「ん〜〜どうだった、って、なんて答えるのが正解?柔らかかったよ、とか、上手だったよ、とか?」
「ん……きもちよかった?」
「あは、気になる?」
ぐっと近づいたユアとの距離に、ユギョムは目を見開く。いつもは思い通りに動く身体が、言うことをきかない。
「ッユア、」
「ギョマ」
「……ぅえ、」
「ふふ、試してみる?」
黙ったまま固まったユギョムの鼻にユアのものが触れ、いつのまにか膝に置かれていた手の熱が身体中に伝染する。すり、と擦られた鼻同士に身体が重くなった気がした。ユギョムはコクリと喉を鳴らす。ユアの瞳から、唇から、目が離せない。テレビの中で、ジニョンイヒョンはどうしていたっけ、こんなに近い、ユア、本当にキス———
「なにしてんの?」
「ッどぅわあッ」
いつのまにか2人の座るベンチの目の前に立っていたベンベンに、ユギョムは咄嗟にユアを弾き飛ばし仰け反る。
「っわ、」
「え、ユア」
「ッたぁ〜〜」
あまりの勢いにベンチから落とされたユアは練習室の床に放り出され、尻餅をつく。
「ッア、ゴメ、大丈夫?!」
「ひっどおい、ギョマ、なにもそこまでしなくても」
「それな〜いくら恥ずかしいからって」
「は、はず、はずッ、、なにが!!」
「あはは、ギョマ、顔真っ赤!」
吃るユギョムに悪魔は追及の手を止めようとしない。
「キスしようとしてたの?」
「ち、ちがッ」
「違くないよね?僕止めなかったらキスしてたよね?」
「してなかったッ!」
「うっそお、なんかどこぞのドラマで見たようなことしてたじゃあん」
「ヨンイオッパとしたキスが気持ちよかった?ってきいてきたからぁ〜」
「え、なにそんなのきになるの?ハレンチぃ〜」
「るっさい!」
「てっきり知りたいのかな〜?って思ってぇ」
「なに、ユギョマはユアとキスしたかったわけ?」
「、ッチ!ガウッ!」
「続きする?」
「しません!!!!」
「アハ!ギョマ、かわい〜」
「か〜わ〜いい〜〜!」
「もう!おまえら!キライ!!!」
裏返った叫びが練習室に木霊する。心の底からこの状況を楽しんでいる意地の悪い親友たちと、しばらく口をきかないことを決定的に決めた瞬間だった。
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