I WANNA BE WITH YOU 11
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「何か俺に言うことない?」
練習室からの帰り道をふたりで歩いていたところに、ソンウからそう言われる。
もう夜も遅く、「今日」ではなく、「明日」の時間だ。空気も昼間よりはやや涼しく、軽く感じられる。人通りが少ない道だけ、と約束して繋がれた手に力が込められる。
歩みは止めないまま、口を開けた状態で固まったユアに、ソンウは含み笑いをする。
なにやら考えていたらしいユアは、黙っていたかと思うと、小さな声で言う。
「…チキン食べたこと?」
「それは知らなかった。いつ食べたの?」
「……さっき」
「だれと?」
「……プンソ団」
先程から目を合わせないユアに更に笑いを漏らしながらソンウは言う。
「ダイエット中じゃなかったの?」
「オッパも痩せた方がいいと思う?」
「俺にそれを言わせるの?」
「いや?ただ…一般論を?聞こうかな?と思って?」
「今のままで、十分かわいいよ」
「そう言うことを訊いてるんじゃないんだけどな〜〜」
そう言いながらもにこにこと笑いが隠せていないユアが愛おしく、ついソンウはユアの肩を抱き寄せてしまう。
ここ!外!と慌てて離れようとするところさえも可愛いのだから困る。
「まあ俺のききたいこともそれじゃないんだけど」
「あ、そうなんですか?それじゃ……」
「ユアはオッパに隠し事が沢山あるんだね〜」
「そんなことないですけど!!」
ソンウは空を仰ぐようにして言うべきことを考えているユアの横顔を遠慮なく見つめる。ふたりきりのいいところはここにもある。
ユアの耳にかけられた、エクステによって肩まで伸ばされた髪が風に靡く。
「それで?」
「あ!オッパの香水勝手に借りたこと……?」
無遠慮に見つめていた横顔が突然こちらを向き、目が合う。言われたことの衝撃もあり思わず目を見開いてしまう。
「俺のなに使ったって?」
「本当にごめんなさい……」
「いや、怒ってるんじゃない」
「自分のがなくなって…」
「それで、俺の使ったの?」
「はい、その通りです」
「..........」
「もうしません、次からは別の方に」
「匂い嗅いでいい?」
「はい?」
ソンウは自分でも発言の変態性が物凄いのはわかっていたが、言わずにいられなかった。言わずに嗅ぐよりはマシだろう、と。
「なんて?」
「間違えた、抱きしめてもいい?」
「こ、これ......じゃなかったんですね?」
「......違うけど、とりあえず俺の香水かどうか確かめ」
「じゃあ正解はなんなんですか」
もはや二人は宿舎への道を辿るどころか、道端に立ち止まっていた。
ソンウはユアに向き合い、両の手を繋ぐ。
「…じゃあ最後のヒント。今日は何日だ」
「お?にじゅうよっ……?いつか!おたんじょうび!!!」
おめでとうございます!そう言って抱きついてきたユアに「ここは道の真ん中だよ」なんてことは教えてやらない。合法で匂いを嗅ぐチャンスまで頂いて、みすみす逃すソンウではない。
思わずソンウに飛びついてしまったユアは、衝動的に動いてしまったことを大変後悔していた。
ダンスを精一杯踊った後の首元に遠慮なく顔を埋められているのだ。汗を拭き、着替えたといえど、嫌なものは嫌だ。
「オッパ......ちょっと、」
「ん?」
「あの、おめでとうございますですけど、離れて話しましょ」
「俺への誕生日プレゼントだと思って」
「オッパへのプレゼントは別に用意してます」
「じゃあそれと、これで」
「ほんとに、汗かいてるのに」
「いい匂いしかしないよ」
「そういう問題じゃないんですけど」
そう言って諦めたように腕をソンウの背中にまわしかけて、ハタと気づく。
「ここ!!道の真ん中です!!!!」
バレたか、そう言ってようやく離れたソンウは再びユアの手を取って歩き出す。
宿舎はもうそこまで来ている。もうひとつ角を曲がればすぐだ。
「でも、なんでオッパ自分で言ったんですか?私忘れてなかったんですけど」
「知ってる。プレゼントが欲しくて」
「それも知ってたんですか?あ〜〜なんだ、秘密にできてたと思ったのに」
「そうじゃなくて、俺が用意したの」
あそこに座らない?と手を引かれ、宿舎の目の前にある公園のベンチに座る。
街灯がポツポツとある道路に沿った長い公園で、この時間は流石に人がいないが、昼間はチキンを食べている高校生や散歩をする恋人たちで溢れている。
「自分のプレゼントを自分で?」
「うん」
そう言ってカバンから取り出したのは小さな箱。
中に入っていたのは小さな星の一対のピアス。
「きれい」
「でしょう。こっちをユアにつけてほしい」
「私がつけるの?」
「うん。それで、もうかたっぽを、俺がするの」
「ふたつでひとつなのに?」
「ふたつでひとつだから。」
つけていい?そう言われたユアはソンウの目を見つめたまま固まってしまっていた。
「わたしでいいの?」
ユアがいいの」
この後に及んでまだそんなことを言うユアが愛しくて堪らず、ソンウの笑みは更に深くなる。
「オッパはどっちの耳につけるの」
「俺は、ひだり」
「じゃあわたしは右につけて」
ん!と向けられた耳をするりと撫でると、擽ったげに肩が揺れる。
つけ終わって手を離せば、首を傾げられる。
これが「どう?」という意味だというのは、短くない付き合いで学んだことだ。
「似合う」
花がほころぶように笑ったユアに、ソンウも更に目尻がさがる。
「オッパのはわたしがつけてもいい?」
「もちろん」
ひとにピアス付けてあげるの初めて、と小さな声で言うユアに、「俺も初めて」と答える。
「オッパにも初めてなことがあるの」
「ユアといると初めてなことだらけだよ」
「例えば?」
「隠れてチキン食べられたりとか」
「そんなの、誰でもあるよ」
「俺以外の兄さんの膝で泣かれたりとか」
「………なんで知ってるの?」
「あ〜〜ほんと、この子は」
ついに耐えきれなくなったソンウはユアを引き寄せる。驚いてああっと声を出すユアの背中を優しく叩きながら「好きだよ」と呟く。
「わたしも」
小さく返されたその言葉に笑いが漏れる。
「…オッパにちゅーのプレゼントは?」
「……ここじゃ、だめ」
「宿舎ならいいの?」
「……ルームメイトの方達をどうにかしてくれるなら」
なんとかしよう!と張り切って立ち上がったソンウにユアは声を出して笑う。
プレゼントをなににしようか迷った結果、全て贈ってしまえばいいことに気づいたユアのクローゼットには、ソンウへのプレゼントが積み上がっていた。
明日、もう今日だけれど、起きて驚く顔が早く見たい。そうユアは思いながら、あと少しのふたりきりを楽しむのだった。