3話

「シフニってこんな子だっけ？」

重い空気の中、ユアは小さな声で隣に座るハンギョルに尋ねる。何が気に入らないのか先ほどから酷くドンヒョンに噛み付き、兄たちにさえ執拗に楯突いている。そのせいでウソクとスンヨンの機嫌が悪くなり、練習室内の雰囲気は最悪だ。

「さあ？」
「……そんでなんであんたも機嫌悪いの？」
「…別に悪くないけど」
「……そう？あの…PDさん、これ、いまなんの時間ですか？」
「あ…練習を」
「ユア」
「ン？」
「集中しろよ」
「…なんで私にも怒るの？」
「ユア、スンヨニは注意したんだろ」
「ウソクオッパまで…何に集中しろっていうわけ？この無駄な時間？」
「ヌナ、俺たちいまチームとして大事な話をしてるところですよね？黙っててもらっていいですか？」
「ドンヒョニの次は私？シフナ」

片眉を上げて見つめ返すユアに挑発的に発言したはずのシフンは一瞬怯む。ちらりと伺い見た俯くドンヒョンの目には涙が溜まり、今にも溢れ落ちそうだ。

「はぁ…みんなちょっと頭冷やしたら？私たち出てくるんで」
「オイ、ユア」
「行こ、ドンヒョナ」

立ち上がったユアは戸惑うドンヒョンの手首を掴み立つように促す。ウソクの声に聞こえないフリをしながら部屋を出たユアは、手を引いていたドンヒョンを振り返り勢いよく抱きしめる。

「怖かったね、ドンヒョナ」
「……ユアヌナ」
「泣いていいよ」
「うぅ……ごめんなさい」

自分よりも体格が大きいドンヒョンがしがみつくように抱き締めかえしてくるのがおかしくて、ユアは少し笑ってしまう。肩に顔を埋めるドンヒョンの背中をトントンと叩き、ユアは優しく言う。

「ドンヒョニは全然なんにも悪くないよ〜」
「…でも、」
「お兄ちゃんたちが可愛いドンヒョニをいじめようとなんか企んでるみたい」
「それどういう…」
「なんだと思う？」

クスクスと笑うユアに二人を追いかけてカメラを回していたプロデューサーが苦笑いを漏らす。ユアが起こっている事態に気づいていることに気づいたようだ。

「………ドッキリ…？」
「だいせいかーい」
「……うそ…ほんとに……？」
「ふふ、安心した？」
「ん……ヒョンたち怒ってない…？」
「うん、ヒョンもヌナも誰も怒ってないよ」
「……よかった……」

安堵からまた少し泣いてしまったらしいドンヒョンにさらにキツく抱き付かれ、ユアはまたクスクスと笑う。

「落ち着いたら帰ろっか」
「うん……もうちょっとこのままで居させてください」
「ふふ、かわいいからずっとしてていいよ」
「……くそ…ヌナが泣いた時覚えてろよ…」
「あはは、私泣かないもーん」
「でも、いいの？ネタバラシして、ヌナ怒られるんじゃ…」
「いーよ、だって私も騙されてた側だもん」
「知らなかったの？」

驚いた様子で頭を上げたドンヒョンにうん、と頷くユア。

「じゃあなんで分かったの？」
「だってオッパたち、あんな風にキレるタイプじゃないし」
「でもシフニヒョンがあんだけ礼儀なく喋ってたら…」
「そもそもシフニも普段あんなこと言う子じゃないじゃん？」
「……そうかも…」
「ね？まあ番組的にはボツになっちゃうかもしれないけど、あまりにもドンヒョニが可哀想だったから」
「……ありがと、ユアヌナ」

大人しく頭を撫でられながらユアを見下ろすドンヒョンの目元は僅かに赤い。

「仕返しに今夜ラーメンでも食べる？」
「なんでそれが仕返しになるの？」
「それがスンヨニの持ってきたラーメンだから」
「怒られるんじゃ」
「だーって私たち嘘つかれてたんだよ？！これくらいされて当然！」
「フフ、そうだね、食べよ！」

目を細めて笑うドンヒョンにユアはやり返すぞー！と飛び跳ね大げさに拳を突き上げる。元気でた？と笑うユアの手を取り練習室の扉を開けたドンヒョンは、兄たちをどう驚かしてやろうか、にっこりと笑いながら思うのだった。


＊


「……ユアヌナも知らされてなかったんですか？」
「途中から完全にバレてたけど」
「な？だからユアもこっちにいれるべきだったんだって」
「でも多分そしたらこのシナリオ自体却下だっただろうな」
「言い返された時のユアヌナめっちゃ怖かったんですけど」
「アハハ、シフニよくがんばったな〜」
「アーマジあんな生意気言って、嫌われたら…」
「ユアはわかってるよ、大丈夫」
「そうだといいんですけど…」
「それより覚悟しなきゃいけないのはユアの反撃…」
「あいつの悪戯マジえげつないから、舐めてたら死ぬぞ…」

セジンとソンジュンを除いたメンバーたちは緊張からか、一斉にゴクリと喉を鳴らした。