9話
夢小説設定
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あれからというもの、ふたりの密会場所は電気を消した練習室になった。ただ壁に背を預け寄り添い合って、イヤホンを分けて音楽を聴いたり、手を繋いで目をつぶっていたり。
「オッパ」
「うん?」
「これ、楽しいですか?」
暗闇に慣れた目は、電気を消しているといえど意外と見える。
今日のソンウは口元に笑みをたたえたまま、ずっとユアの手を握ったり撫ぜたりを繰り返している。
「うん、とっても」
手に向けられていた視線がこちらへ向けられ、細められた目がユアを見る。胸がぎゅっと締め付けられ、やっと見てくれた、という思いに驚く。
手に嫉妬していたのか、そうわかった瞬間恥ずかしくなったユアは思わず目を逸らしてしまう。
「どうしたの?」
笑いを含んだ優しい声でそう言いながら、ソンウの手は再びユアの手を愛で始める。指を撫ぜたり、爪の形をなぞったり。
「それ、あの…」
「どれ?」
「その、て……」
「あ、これやだった?」
するりと離されそうになった手に瞬間的に縋り付く。
「やじゃない、です…けど」
「うん」
「手ばっかり、みたいでください」
「ごめん、こんな小さい手で、俺たちと同じことしてるのかと思うとつい可愛くて」
「オッパたちと同じこと頑張ってしてるのは、手じゃなくて私です」
あまりの恥ずかしさに顔がどんどん下を向き、ほぼ膝におでこがついてしまっていた。
この練習室、こんなに暑かったっけ。
繋いだ手も汗ばんでないだろうか、そんなことを考えていたら、隣でソンウが大きく息を吐いた。
呆れられたかな、とちらりとうかがい見たソンウもこちらを見ていたものだから、ばちんとふたりの目が合ってしまった。
その目があまりにも愛しいものを見るような目で、ユアの頬はさらに熱くなった。
「ねぇ、ちゅーしてもいい?」
「も、もうお別れですか?」
というのも、ふたりのこの逢瀬は毎回、練習室を出る別れ際に、ひとつちいさなキスをするのがお決まりになっていた。
別れ際と言っても帰る部屋も練習室も同じなのだが。
「ううん、お別れはまだ。ちゅーって、何回してもいいものなんだよ。もちろん、ユアがいいよって言ってくれたら、だけど」
「い…いよ」
「ふふ、ありがとう」
ソンウの顔が近づく。胸がざわざわして落ち着かないし、心臓が耳のすぐ隣にあるみたいに煩い。
「目は閉じないの?」
おでことおでこが完全にくっつく。ソンウの目は楽しそうに細められたまま。
「オッパこそ」
「が閉じたら閉じるよ」
喉がこくりと鳴る。初めてじゃないのに、なぜいつもこんなに緊張するのか。
目をゆっくり閉じると、ソンウが吐息だけで笑う音がした。
ソンウの唇が自分のものに触れ、ユアは大きな波につつまれる。
目を開けようとしたその時、初めて感じる次の波がやってきた。
ソンウが一度離した唇をもう一度押し当てたのだ。去りぎわにはユアの下唇を甘噛みして。
初めて感じる電気が流れたかのような感触に、ユアは狼狽えていた。目は潤み、頬を真っ赤に染めて。
「いまの…」
「ん?」
「もういっかい……」
ソンウは正直驚いていた。2回目のキスは衝動的にしてしまったのだ。怒られるのも悪くない、と。
しかしこの状況は悪くない、どころか。
ユアの好きだという笑みを浮かべながら甘くとろけるような声で。
「仰せのままに、」