No Title
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぐれたのか?」
「……そういう君も?」
返答はない。そもそも彼に迷子というイメージはない。むしろ迷子を探す方だろうか。
同じクラスメイトの降谷零。今まで接点は無かった。そもそも、彼と名無しとではクラスの立場もまるっきり違うのだ。所謂、彼はクラスの人気者というポジションである。
降谷は気だるげそうな名無しを困ったように見つめ、その横に腰を下ろした。決して表に出すことは無かったが、名無しは何か話さなければという気持ちと気まずさを感じていた。
「……もうすぐ同じ班の子が迎えに来る」
「そうか」
さっさと行けばいいものの、降谷は名無しの横でじっとしていた。とりあえず心配無用だと告げるが、降谷は腰をあげる素振りを見せなかった。彼と名無しの間に沈黙が流れる。
名無しは、ガヤガヤと賑わう空間をじっと見つめていた。
「
「……いきなりどうしたの」
数分が経った。突然、降谷が口を開く。
名無しは話しかけられたことに驚き、降谷の方に顔を向けた。
降谷は自身の膝に肘をつき、名無しの顔を覗き込むように座っていた。様になっているその姿に、名無しは息が詰まる。
「いや、珍しいなって」
「……そういう降谷も珍しくない?」
「そうか?」
「うん。読み方はよく聞くけど、君の降谷って漢字は初めて見た」
「そうか」
降谷の顔の良さに心臓をバクバクさせながら、必死に言葉を紡ぐ名無し。
ふんわり微笑む降谷に名無しは居心地の悪さを感じた。
「神々廻は京都初めてか?」
「そうだね、初めて来た。降谷は?」
「俺も初めて来た」
彼は名無しから視線を前方に移動させる。そして、ゆっくり立ち上がった。
「ヒロ!」
大きな声で誰かを呼ぶ。遠くの方から「ゼロ」という声が聞こえた。
名無しも降谷と同じように、視線を前方に移した。
「急にいなくなるからびっくりしたんだぞ」
「ごめんごめん」
笑う降谷を小突く一人の男。確か諸伏景光という名前だっただろうか。降谷と一緒にいるのをよく見かける。
二人の様子をじっと見つめていると、諸伏がこちらに視線を向けた。そして、降谷と名無しの顔を行ったり来たりと視線を動かす。
「もしかして、二人ってそういう……?」
どうやら勘違いをしているらしい。名無しはジトリと諸伏を見る。
「断じて違う。そもそもまともに話したのは今日が初めてだ」
ここははっきり否定しておかなければ、変な噂がたってしまう可能性がある。そうなれば、名無しの高校生活が危うくなる。それは全力で阻止したい。そして、普通に降谷に申し訳ない。
「そんなに否定しなくても……」
「君たちの想像よりも、女って恐ろしい生き物なんだ。軽率な発言は慎むように」
ムッとした表情で言うと、二人は顔を見合わせる。そして腹を抱えて笑いだした。一体どこに笑う要素があったというのだ。名無しはぽかんとした表情で二人を見る。
「神々廻って冷たいイメージあったけど、面白い奴なんだなぁ!」
「ふふっ、発言は慎むようにって」
冷たいイメージという言葉に反論したい。そして、面白いという言葉にも反論したい。
名無しがぶすくれていると、目に涙を浮かべた降谷と目が合った。
「ふっ、ごめんごめん。神々廻の発言がツボに入ってしまった」
「……随分と笑いのツボが浅いのね」
「ぶはっ」
「降谷!!」
またもや笑い出す降谷に対し、名無しは怒り出す。突っかかろうとする名無しを諸伏が必死に抑えた。
「神々廻、落ち着け!!どうどう」
「私は馬かっ!!」
「あははっ!!」
暴れる名無し。そして、そんな名無しを片手で抑える諸伏とその横で爆笑する降谷。通行人は不思議そうにこの様子をみている。
「とりあえず、これでも食べて落ち着け」
諸伏は片手に持っていたソフトクリームを、名無しの口に突っ込んだ。名無しは諸伏の行動に目を丸くさせる。
「抹茶のソフトクリームだ。美味しいか?」
「……おいしい」
名無しの言葉に満面の笑顔を向ける諸伏。名無しは顔を顰めながら、唇の端についたソフトクリームを舌で舐めとった。
その様子を見ていた降谷零は、俺も買ってこようかなと零す。
「ソフトクリーム、神々廻もいるか?」
「……いらない」
降谷はそうかと一言いい、店の方へ行ってしまった。諸伏は降谷を見送りながら、ソフトクリームを食べている。
名無しは先程から降谷と諸伏の二人にペースを崩され、少しイライラしていた。
「神々廻、他の班の子はどうしたんだ?」
「はぐれた。でも、もうすぐ迎えに来るから大丈夫」
名無しは素っ気なく答えるが、諸伏は笑顔で良かったと言った。
調子が狂うと名無しはため息つき、先程まで座っていたベンチに腰を下ろした。諸伏も自然に名無しの横に着席する。
「神々廻って普段何してるの?」
「……急にどうした?」
降谷といい、いきなり何を言い出すんだ。名無しは怪訝そうに諸伏を見つめる。すると、諸伏は必死にブンブンと顔を横に振った。
「深い意味はないんだ!ただ、神々廻っとミステリアスなイメージがあるから、私生活が全然イメージ湧かなくてさ」
冷たい。そして、ミステリアス。
一体この人は、私をなんだと思っているんだと名無しは不安を抱いた。名無しからしてみれば、降谷と諸伏の二人のプライベートの方が謎である。
「普通に映画見たり友達と出かけたりしてる」
名無しが答えると、諸伏は驚いたように目を丸くする。そして、普通だと零した。普通で悪かったな。
「そういう諸伏は何をやってんの」
名無しがそう聞けば、諸伏は目を輝かせて名無しを見た。
「俺の名字、知ってたんだな!」
はぁ?思わず口に出てしまった。
「知ってるも何もクラスメイトでしょ」
「じゃあ、名字じゃなくて俺の名前はわかるか?」
何がじゃあだ。名無しは呆れた様子で諸伏を見つめる。
「諸伏景光でしょ」
「おお!」
感動している諸伏をジト目で見つめる。そんな名無しの耳元でフッと息がかかった。
「俺は?」
「ひぎゃっ!?」
「うわっ!?」
慌てて右耳を抑える名無し。名無しのすぐ側から、くすくすと笑い声が聞こえた。
「ふっ、そんなに驚かなくても」
「なっ、な、」
アワアワと震える名無し。その横で諸伏は胸をなでおろした。どうやら、名無しの悲鳴に驚いた様子である。
「神々廻」
降谷は名無しの目の前にソフトクリームを突き出した。名無しは先程の出来事が余程ショックだったのか、未だに呆然としている。
降谷は苦笑いを浮かべ、名無しの手にソフトクリームを持たせた。
「それで、俺の名前は?」
「は?え、」
まだそのくだりやるのと言いたげな目で訴える名無しだが、降谷は真剣に聞いているようだった。名無しは未だバクバクと鳴っている心臓を抑えるよに深呼吸をして口を開いた。
「降谷零、でしょ?」
じっと降谷を見れば、彼は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ふっ、正解」
「……」
名無しは何だか恥ずかしくなり、降谷から顔を背けた。
「ソフトクリームありがと。お金返す。いくらだった?」
「いいよ。俺が勝手に買ってきただけだし」
「よくない」
返す、返さなくていいと言い合っている二人の傍で、諸伏は笑い声をあげている。
降谷と名無しが睨み合っている中、遠くの方で名無しの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ほら、お迎えが来たみたいだぞ」
「チッ」
これでこの話は終わりだと、満面の笑みを浮かべる降谷。名無しは顔を顰めながら笑顔の彼を見る。
「名無しー!」
声をかけても動こうとしない名無しに、友達はさらに声の大きさを上げた。そんな急かすような友達に名無しは、今行くと大きな声で返事をする。
「この借りは必ず返す」
リュックを背負い直し、降谷の方にくるりと顔を向ける名無し。名無しの言葉に降谷は苦笑いを浮かべた。
「借りって大袈裟な……」
ポツリと呟く降谷の横で、諸伏はケラケラと笑っている。
諸伏の笑い声を背で受けながら、名無しは友達の手を引き、大通りを突き進んだ。
「名無しって降谷くんたちと仲良かったっけ?」
「良くない。たまたま会っただけ」
意外そうに名無しを見つめる友達に、名無しは素っ気なく答える。
終始、自身のペースを崩されていた名無しは先程の一連の行動を思い返し顔を顰めた。そして、片手にある抹茶味のソフトクリームじっと見つめ、かぶりついたのだった。
1/10ページ