人形の家
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翌朝。名無しはまた同じように身支度を整え、部屋を出る。
昨晩、ミニーの首が取れた(実際は取れていない)映像が流れた等のハプニングがあったらしい。
「あれ麻衣ちゃん?」
「あっ、名無しさん!」
廊下を歩き回っていると、礼美の部屋の前にいる麻衣と出会った。
名無しが何をしているのか尋ねると、麻衣は表情を曇らせこう答える。
「礼美ちゃんは、ミニーといちゃいけない気がするんです」
「ミニーと?」
名無しが首を傾げる。確かにミニーに関しては気になることが多々ある。しかし、昨日ミニーを見た時は霊が憑いている感じはしなかった。
「だからこれから礼美ちゃんを説得しようと?」
名無しがこう言えば、麻衣は頷く。そんな麻衣の表情に名無しは口元を緩ませた。
「私もご一緒しても?」
「もちろん!」
先程の重い空気は少し和らいだように見えた。しかし、名無しはハッとしたように顔を上げる。
名無しの目線は礼美の部屋の扉だ。麻衣は名無しを不思議そうに見つめる。
「名無しさ」
「しっ」
名無しが人差し指を口元に持っていく。麻衣は息を飲み、耳を済ませた。
「ふふ、家の中は悪い魔女だらけだよ」
聞こえてきたのは礼美では無い子どもの声。名無しと麻衣は顔を合わせる。
「お姉ちゃんも麻衣ちゃんも?」
「もちろん」
その声はどことなく不気味だ声だった。声は聞こえないものの、名無しはあともう一体霊はいるのだと感じる。
「礼美、お姉ちゃんはいた方がいい」
礼美のこの言葉に、もう一つの声は強めの口調で答えた。
「だめだめ。お姉ちゃんは魔女の手先なんだよ。大丈夫。ちゃーんと始末してあげるから」
子供のお喋りにしては物騒すぎる内容。名無しの頬に汗が伝う。
麻衣は表情を強張らせながらも、手を静かにドアノブに持っていった。
「その代わりあたしの言うこと聞かなきゃダメだよ」
どこか可笑しそうに笑うその声に恐怖を覚える二人。麻衣は礼美ちゃんの名前を呼び、勢いよくドアを開ける。
麻衣は早足で礼美の元に駆け寄り、尋ねた。
「今、誰かとお話ししてなかった!?」
この問いに礼美はキョトンとした顔で答える。
「……ミニー」
”ミニー”その言葉に名無しは目を見開いた。名無しの目線の先には、女の子の霊が二体いる。一体は無表情に礼美を見つめ、もう一体はニヤリと笑いながら名無しを見ている。
麻衣と礼美が話を進めている中、二体の霊は名無しの横をすり抜け部屋を出ていってしまった。
「待ちなさい」
走り出す二体の霊を追いかける名無し。麻衣と礼美は、急な名無しの行動にぽかんと口を開ける。
「えっ、名無しさん!?」
麻衣が部屋の外を覗いた時には、既に名無しの姿は見えなくなっていた。
一緒に走り回っていた2体の霊は二つに別れ、別々の場所に走り込んでしまう。
名無しは迷う素振りを見せず、先程ニヤリと笑っていた霊の後を追った。
「待て」
「っ……」
名無しが霊の手を掴む。子供の霊の名無しの行動に、驚いた様子を見せた。
しかし、その表情はすぐに険しいものに変わり、名無しは手を振り払われてしまう。
「……話ぐらい聞き出せれば良かったんだかな」
赤く腫れた手を見つめながら、ポツリと呟く名無し。そんな名無しの背後から、近付いてくる男が一人。
「何があった」
「……ナルか」
名無しが振り向けば、名無しと同様に全身真っ黒のナルが立っている。
ナルの様子から、先程の行動を見られていた様だ。
「礼美ちゃんの側に二体の霊がいた。多分どちらかがミニーに出入りしている霊だ」
「ミニーに?」
名無しは頷く。
昨日名無しがミニーから何も感じられなかったのは、この時には霊がミニーに憑依していなかったからだ。しかし、先程の状況を目撃した名無しは確信する。霊は定期的にミニーに出入りし、礼美と意思疎通をしているのだと。
名無しの言葉にナルは考え込む素振りを見せた。
「人形は器に使われているだけというわけだな」
ナルの言葉に名無しは頷いた。
歩き出すナルの横に名無しが並ぶ。
「名無しは」
ナルはチラリと名無しを見た。そして、名無しの右手に視線を移動させる。
「霊に触れられるのか」
「ああ、まぁね」
名無しが少し悲しそうに笑った。
「足やら手やらどこかしら透けててくれれば見分けがつけやすいんだけどね」
名無しの言葉からして苦労してきているらしい。
「まぁ、でも、今では何となく気配でわかるから、昔ほど苦労はしてないかな」
サラリと言う名無しにナルは「そうか」とだけ返す。
「原さんとは違うのか」
表情からは分からないものの、興味津々の様子のナルに名無しはくすくすと笑った。
「私は霊媒体質じゃないからね。あちらは覚えてないかもしれないが、一度現場で一緒になってね」
名無しの話によれば、原真砂子は霊を見ただけで、その正体や背景をある程度見抜く事が出来ているらしい。しかし、名無しは霊を見るだけで霊の背景や心情などは読み取ることは出来ない。
「彼女は凄いよ」
ケラケラと笑う名無し。ナルは少し顔を顰めた。
「払えるか」
ナルの言葉に名無しは笑うのをやめ、じっとナルを見つめる。
「払えないこともない。しかし、今ここで払ったとしても根本的な事は何一つ解決してないから、また同じような事を繰り返すぞ」
名無しの言葉にナルはフッと笑った。