人形の家
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「……」
にっこりと笑顔を見せたのはいいものの、彼らからの視線がとても痛い。
いくら周りから鈍いと言われてる名無しも、この突き刺さる視線に居心地の悪さを感じていた。
「……典子さん」
「……はい?」
名無しはくるりと彼らに背を向けて、典子に声をかけた。
「室内、それと家の周り確認したいのですが大丈夫ですか?」
名無しの一言に典子は頷く。名無しは彼らに一礼をし、部屋を出た。
「それにしても立派な家だな」
家の周りを歩き回っていた名無しは、改めてそう呟く。
自然に囲まれた屋敷。敷地内には池もあった。
「……子供」
注意深く辺りを見渡してみると複数の子供の姿が見えた。ある子は走り回り、ある子はこちらを窺うように見つめている。
普段なら微笑ましく思う光景だが、名無しはゾッとした。子供たちの姿はどこかしら透けていたからだ。
家に入った時もそうだったが、この家には大勢の子供の霊がいる。
何が原因で、この子供たちの霊を集めているか名無しは頭を悩ました。
名無しは先程からこちらの様子を窺っている子供の霊に近付いた。
その子は驚いた様子で名無しを見上げている。
「こんにちは」
返答はない。
「君はどうしてここにいるのかな?他の子達はお友達?」
「……」
キッとこちらを睨む子供。
「もの隠したり物音立てたりしているのは君たちなのか?」
名無しが手を伸ばすと、その子が叫んだ。
「邪魔しないで!!」
パチンッ……
何かに弾かれるように名無し尻もちをついた。子供の姿はいつの間にか消えている。
名無しが弾かれた手をじっと見つめていた。
名無しの右手は赤く腫れていたのだ。
「うーん……子供からは聞き出せそうにないな」
呑気に名無しが呟くと、後ろから声をかけられる。名無しが振り向くと茶髪の男性が立っていた。
「よっ、さっきぶり」
「……どうも」
地面に座り込んでいる名無しに手を差し出す男性。名無しは素直にその手を取り、立ち上がった。
「ありがとうございます」
「そんなに畏まらなくてもいいんだぞ」
にやにやと笑う男性。名無しは気にせずお礼を言った。
そして、辺りを見渡す。
先程の子供含め、走り回っていた子供たちも姿を消してしまった。
男性はそんな名無しの様子を不思議そうに見つめ尋ねた。
「……さっき、誰と喋ってたんだ?」
名無しはさらりと答える。
「子供です。さっきまで何体かいたんですが、逃げられてしまいました」
名無しの"何体"という言葉に疑問を持った男性。しかし、すぐに気付いたようで名無しの肩を掴んだ。
「もしかして霊視できんのか?!」
「え、ええ……」
男性の迫力に怯えながらも頷く名無し。さらに、男性は詳しくと言う。
「ええと、家の中もそうですが大勢の子供の霊がいます。原因はまだ分かりません」
「話は聞けるのか?」
「聞こうと思いましたがこの通りです……」
先程弾かれた右手を男性の前に出す。
男性はぎょっとしたように、その手を見つめた。
「赤く腫れてるな。冷やした方がいいかもな」
男性は着いてこいというように歩き出す。名無しは黙ってそれに従った。
「えっと、名無しちゃんだっけか?」
「はい、そうです。貴方は?」
名無しが聞くと男性はあれ?っといったように首を傾げる。
「名前言わなかったっけ」
「……言ってませんね」
しばらくの沈黙。
「俺は高野山の坊主、滝川法生だ」
「坊主?」
坊主と言う言葉を聞いて名無しは少し疑問を覚えたが、気にせず滝川に対し笑顔を向けた。
「えーと、滝川さん。しばらくの間よろしくお願いします」
名無しはぺこりと頭を下げる。
滝川は丁寧な姿勢の名無しに首を傾げた 。
「さっきの時と大分雰囲気が違うな。いいんだぞ〜。もっと気楽に喋ってもらって」
気さくな様子の滝川に名無しは少し考え込むが、ひとつ頷いて滝川を見上げた。
「わかった。そうさせてもらう」
口調を崩した名無しに対し、滝川はにっと口角を上げる。
「じゃ、右手冷やしに行こうぜ」
「ああ」
滝川に続いて廊下を歩く名無し。軽く世間話をしながら、和やかな空気を作り出していた。
しかし、その空気はすぐに壊されてしまう。家に女性の声が響いた。
「なんだっ!?」
「香奈さん?」
滝川と名無しの二人は顔を見合せ、悲鳴のした場所へ走り出した。