死にたい少女は星を見る
*
恋を自覚した夏の休み明け。僕は男バスに退部届を出した。
自分で言うのも恥ずかしいことだが、僕は割と部活内でもそこそこ出来る方だった。……スタメンは先輩で枠が埋まってたからなれなかったけれど。
それ故に、顧問には強く引き止められた。何かあったのかとも心配された。僕の力を認め、案じてくれているのは痛いほどに分かったが、もう取り消すつもりはなかった。ただ一言、
「絵を、描きたいんです」
とだけ言ったのを覚えている。
それから数日後。美術部員になった。
元々小さい頃から絵を描くのが好きだった。好きとはいえど、多分僕には才能は無いんだろうなと、小さいながらに将来を達観していた。事実上、あまり上手ではなかったから。同じクラスの女の子が描く絵の方が、よほど上手だった気がする。だから絵以外のこともしてみたくて、色々なことに手をつけたりしていた。歌を歌ったり、本を読んだり、ダンスを習ってみたり、習字をしたり……あまりにも多岐にわたる浅い経験に、もうとっくに記憶の容量はついていけてないらしい。断片的で曖昧な記憶だけが頭をよぎる。
それでも絵を描いていない時の、不思議な浮遊感は収まらなかった。手持ち無沙汰で、どこかぼやけたように世界が見える感覚。それは年を重ねるごとに大きくなり、どこか漠然とした、掴みどころのない不安のようなものになっていった。
どうにかそれを押さえ込みたい。そんな奇妙な気持ちで、入部届には【男子バスケットボール部】と記入した。
不思議と、コートの中を縦横無尽に駆けてただシュートする、それだけを繰り返す間は、絵の存在から逃れていられた。部活の時間だけは、あの不安も、顔を出さない。
そうして、部活にのめり込んでいった。
部活の時間が大好きだった。
でも。
恋心を知ってしまった。
「彼女を描きたい」と思った。
「絵を描きたい」という気持ちを、思い出してしまった。
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恋を自覚した夏の休み明け。僕は男バスに退部届を出した。
自分で言うのも恥ずかしいことだが、僕は割と部活内でもそこそこ出来る方だった。……スタメンは先輩で枠が埋まってたからなれなかったけれど。
それ故に、顧問には強く引き止められた。何かあったのかとも心配された。僕の力を認め、案じてくれているのは痛いほどに分かったが、もう取り消すつもりはなかった。ただ一言、
「絵を、描きたいんです」
とだけ言ったのを覚えている。
それから数日後。美術部員になった。
元々小さい頃から絵を描くのが好きだった。好きとはいえど、多分僕には才能は無いんだろうなと、小さいながらに将来を達観していた。事実上、あまり上手ではなかったから。同じクラスの女の子が描く絵の方が、よほど上手だった気がする。だから絵以外のこともしてみたくて、色々なことに手をつけたりしていた。歌を歌ったり、本を読んだり、ダンスを習ってみたり、習字をしたり……あまりにも多岐にわたる浅い経験に、もうとっくに記憶の容量はついていけてないらしい。断片的で曖昧な記憶だけが頭をよぎる。
それでも絵を描いていない時の、不思議な浮遊感は収まらなかった。手持ち無沙汰で、どこかぼやけたように世界が見える感覚。それは年を重ねるごとに大きくなり、どこか漠然とした、掴みどころのない不安のようなものになっていった。
どうにかそれを押さえ込みたい。そんな奇妙な気持ちで、入部届には【男子バスケットボール部】と記入した。
不思議と、コートの中を縦横無尽に駆けてただシュートする、それだけを繰り返す間は、絵の存在から逃れていられた。部活の時間だけは、あの不安も、顔を出さない。
そうして、部活にのめり込んでいった。
部活の時間が大好きだった。
でも。
恋心を知ってしまった。
「彼女を描きたい」と思った。
「絵を描きたい」という気持ちを、思い出してしまった。
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