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死にたい少女は星を見る

恋心を自覚したのは中1の夏。
だいぶ反抗期を拗らせて家を飛び出した僕は、数分後にはもう後悔し始めていた。一歩踏み出せば汗が流れ、ただ立っているだけでも光がジリジリと肌を焼く。真夏の昼間というのは、あまりにも家出には向かない時間だったのだ。
「出雲!」
不意に声をかけられ、振り返る。
「あぁ、出海か」
お互いの苗字が「出海」「出雲」で響きがいいからか、彼女は僕を出雲と呼び、僕も彼女を出海と呼んでいた。ただの一度も……は流石に言い過ぎかもしれないが、出海を怜と呼ぶことなんてそうそう無かった。
「何でこのクッソ暑い中突っ立ってんの」
「出海こそなんでチャリに乗ってんだよ」
普段出海はこんな喋り方はしない。学校なんかの、多数の人間がいるところでは、もっと上品な話し方をするはずだ。……もっとも、僕に向かっては、人さえいなければ学校でだってこんな砕けた話し方なのだが。
「私はアイス買いに行くとこ。行く?」
「行く……けど金持ってないよ」
「いいから」
サッと自転車から降りた彼女が、その白いほっそりした体躯を差し出す。
「はい、漕いで」
「……え?」
グイグイと、ハンドルを押し付けてくる。
「だから、出雲が漕いで、私が後ろに乗っかるの。まさか、女の子に漕がせる気?それとも出雲が貧弱すぎて漕げないかな?」
あはっと笑う彼女を見て、そうだ、コイツはそういう奴だった、なんてことを思った。
それでも、出海の言うことならしょうがないかなぁ、なんて流されてしまう自分がいる。
「分かった分かった、はい、乗って。男バス舐めんなよ?」
「舐められたくないならスタメンにでもなれば?」
「ぐっ……正論」
荷台の上でケラケラ笑う彼女は、麦わら帽子と白いワンピースがきっと世界一似合う人だ。
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