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残滓

何気なしに角を曲がった先で目に入ってきたのは寂れた煉瓦造りのマンションで。
褪せたその景色にはどうも似合わない鮮やかな紅が、雨粒を溶かす様に染めた。
ザァ…という雨粒の叩きつけられる音だけが時の流れを感じさせる。
 
 
穿つ様に降り続ける、雨の日、だった。
手を伸ばせば触れられそうなほどの、気怠げな雲。
君は眠るように、飴細工のように溶ける赤の上に横たわっていた。
 

君が飛び立ったマンションの下で、涙の1つすら零せずにただ息をしている僕。まつ毛の先を伝う雨粒が、まるで泣いているかの様に震えていた。
 
悲しい、よりは美しい。
寂しい、よりは儚い。
 
あでやかに雨に結い上げられた髪で、君の死に顔が見られなかったのが、唯一心残り。
雨粒と交わった君の朱色は、サイダーの様に鮮やかで、ソーダの様に透き通っていた。
 
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