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残滓

*
 
キリキリと痛む肺を押さえつける様に大きく息を吸い込む。
 
『サイダーとソーダの違いはね、色だよ。サイダーはキラキラして鮮やかで、綺麗。ソーダは透明で儚くって、何も残らない。私はそう思うの』
 
なんて、側から見たら意味のわからないメールが届いて、気がつけば柄にもなく焦りながらどこかへと走っていた。君のいる場所なんて僕に分かるはずがないのに、ただひたすらに、街の中を駆け回って君を探す。理由なんて、そんなものはなかった。ただ漠然とした不安だけが胸の内を締め付ける。
切り裂かれる様な肺の痛みに思わず立ち止まった時、ふとさっきの衝動を思い出した。あれはきっと好きとか慈愛とかそんな小難しい話ではなくて……ただこう、抱きしめたかったのだと思う。それだけのことだったはずだ。泣きそうに瞳を震わせて笑う君が、取り繕う様に弧を描く唇が、あまりにも儚くて。ソーダの様な君を、手放したくなかった。
しゃがみ込んだ僕を嘲笑う様にポツポツと降り出した雨は、あっという間にどしゃ降りになる。いつもなら不快なはずの濡れたTシャツの感覚や、視界を鈍らせる銀の線が、逆に僕を落ち着かせた。ゆっくり歩きながら、風邪引くかなぁ、なんて呟いた声は、尻切れ蜻蛉の様に漂って消えた。
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