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残滓

「ひさしぶり」
数週間ぶりに会った君に、本当に僕と同じ夏を過ごしたのかと思わず言いかけて飲み込む。それくらい、肌が真っ白だったから。教室の喧騒がグンと遠のいて、飴細工を空に透かした時の様な、風鈴の音を聞く時の様な、あの不思議な気持ちになる。
「……あぁ、久しぶり」
衝動のような何かを抑え込みながら、努めて普通に挨拶をした。一歩踏み出せば君に手が届く、変な距離。目を合わせることも手を伸ばすことも出来ずに、ただ黒ずんだ上履きの先を見つめた。
「あのね」
ほんの数秒の沈黙を、君が破る。いつだって話しかけるのは君で、僕はそれを聞いて相槌を打つだけ。鈴のような声、とも言ってしまうとどうしても陳腐な気がして、君の声を表せずにいた。
「……んー、えっと……何が言いたいか忘れちゃった」
ヘラ、と笑ったはずの君の顔は今にも泣きそうに歪んでいて、何一つとして取り繕えていなかった。
「   」
何か言ったはずの君の声は、HRを知らせるチャイムに掻き消されて聞こえなかった。
……吐き捨てる様に笑った、君の唇の色を僕はきっと一生忘れない。
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