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魔王を滅ぼした人魚のお話

聖教会とは、所謂”魔王討伐部隊”である。全員、魔王討伐のエキスパートだけが集まっており、その実力は言うまでもない。ことあるごとに”黒い霧”を吐き出す魔王城も、その元凶であろう魔王も、今や世界中の目の敵であった。ニンゲンを筆頭とした憎しみの感情は、伝播し続け、多岐にわたる種族までもが憎しみを抱き始めた。……全ては、魔王が悪いのだと言わんばかりに。


マオを怖がらないのなんて、それこそルフレと鴉達くらいである。

「……人魚の涙、ですか」

ぽつりとルフレが呟く。

「君には申し訳ないけど……どうしても必要なんだ。だから……泣いて欲しい」

懇願するように、あるいは泣き叫ぶのを押し留める様にマオが言った。壊れそうなほどに悲痛な声は、あたかもその緑の瞳にたたえた藍色のように儚げだった。

「でも、普通の蘇生魔術なら必要は……」
「普通じゃ、ダメなんだ」

たとえ殺されると分かっていても目覚めさせたいという確固たる意思が声に乗る。

「彼らが眠ったのは、”封印魔術の反射”のせいだ。彼らが僕を封印しようとした強力な魔術を、僕は弾いてしまった。……彼らが眠ってしまったのは、僕のせいなんだ」

自責の念を湛えた声のマオに、ルフレが口を開く。

「でも、マオさんは悪くない……だって貴方は!」

ルフレの唇に、そっとマオが人差し指をそっと添えた。

「いいんだよ……僕が嫌われていれば、他の子は嫌われないだろう。彼らは幸せでいれるはずだろう」

それっきり、ルフレは目を伏せてしまった。

「…………人魚の涙、でしたか。それが欲しいなら、夕暮れ時に海岸に行きましょう」

マオがどうして、と言うように首をかしげた。

「あの結晶は、夕暮れ……黄昏時か彼は誰時じゃないと取れないものなんです。ですから、今日の黄昏時に泣いてみせましょう……それでマオさんが喜ぶのなら」

ありがとう、と言ったマオは、絶望の様な幸せをたたえた笑みをこぼした。
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