魔王を滅ぼした人魚のお話
「ところで、どうしてルフレが海岸に?」
そう、元々人魚というのは、沖で船乗りを惑わせる生き物。海岸まで来ることは滅多にないのである。
「それが……お恥ずかしいことに、私は一族から追放されてしまいまして。沖の辺りは一族のものですから通ることはおろか、尾鰭の端すら入れてはもらえないのです」
冗談めかしたように笑った顔とは裏腹に、声の端々に悲しみと悔しさが滲んでいた。
「そうか……でもなぜ、追放を?あ、あぁいや、もちろん答えたくなければ答えなくていいけど」
「いえ、大丈夫ですよ。私が炎系魔術を使えるから。たったそれだけの話です」
パッと手を振れば、ルフレの指先に小さな火が灯った。
確かに、氷のような体温の人魚達は、火や日光といった暖かいものを本能的に嫌う。
「全く……馬鹿馬鹿しい話ですけれどね。……ただの偶然で、欲しくて手に入れた力ではないのに」
そんな一言は、もうマオの耳に入ってはいなかった。
あの日の声が、痛みが蘇る。
**
「魔王め」
「不気味な角」
「あの肌の色……」
「あいつさえいなければ」
「討伐しろ」
熱い程の痛み。それでようやく自分の右腕が切り裂かれたことに気づいた。ぽたりぽたりと垂れる真珠色を見て、ニンゲンたちが騒ぎだす声が、どこか他人事のように聞こえる。
「血の色が……!?」
「怪しい魔物め」
「トドメを……!」
痛い。辛い。
でもそれは、腕の痛みではなかった。
人間たちの足元に、無惨に踏み潰された花束だったものの姿。土に塗れた彩度が、心臓を引き裂くような痛みに変わった。
仲良くなりたかった。
受け入れてほしかった。
何もしていないのに。
その時彼に出来たことと言えば、何も言わず、何もせず、ただそこから立ち去ることだけであった。
彼の姿は、ニンゲンの声や攻撃も全て無視して、エメラルド色の光に包まれて消えた。
そう、元々人魚というのは、沖で船乗りを惑わせる生き物。海岸まで来ることは滅多にないのである。
「それが……お恥ずかしいことに、私は一族から追放されてしまいまして。沖の辺りは一族のものですから通ることはおろか、尾鰭の端すら入れてはもらえないのです」
冗談めかしたように笑った顔とは裏腹に、声の端々に悲しみと悔しさが滲んでいた。
「そうか……でもなぜ、追放を?あ、あぁいや、もちろん答えたくなければ答えなくていいけど」
「いえ、大丈夫ですよ。私が炎系魔術を使えるから。たったそれだけの話です」
パッと手を振れば、ルフレの指先に小さな火が灯った。
確かに、氷のような体温の人魚達は、火や日光といった暖かいものを本能的に嫌う。
「全く……馬鹿馬鹿しい話ですけれどね。……ただの偶然で、欲しくて手に入れた力ではないのに」
そんな一言は、もうマオの耳に入ってはいなかった。
あの日の声が、痛みが蘇る。
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「魔王め」
「不気味な角」
「あの肌の色……」
「あいつさえいなければ」
「討伐しろ」
熱い程の痛み。それでようやく自分の右腕が切り裂かれたことに気づいた。ぽたりぽたりと垂れる真珠色を見て、ニンゲンたちが騒ぎだす声が、どこか他人事のように聞こえる。
「血の色が……!?」
「怪しい魔物め」
「トドメを……!」
痛い。辛い。
でもそれは、腕の痛みではなかった。
人間たちの足元に、無惨に踏み潰された花束だったものの姿。土に塗れた彩度が、心臓を引き裂くような痛みに変わった。
仲良くなりたかった。
受け入れてほしかった。
何もしていないのに。
その時彼に出来たことと言えば、何も言わず、何もせず、ただそこから立ち去ることだけであった。
彼の姿は、ニンゲンの声や攻撃も全て無視して、エメラルド色の光に包まれて消えた。