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魔王を滅ぼした人魚のお話

物音の一つもなく暗い部屋に、蝶番の悲鳴と一筋の柔らかな光が差し込む。

「お早う御座います……って、まだ起きないかぁ……」

そこに横たえられている、総勢60名くらいの人々。彼らが目を覚さないまま、もう1ヶ月も経った。

「早く起きて欲しいのは山々なんだけど……このだだっ広い屋敷に独りぼっちなのも寂しいからね。正直ちょっとだけいて欲しい……とかも思っちゃうよね」

死んだように眠る、名前も知らないブロンド髪の女に話しかけるように、男が軽口を叩く。

「まあリリスたちがいるけど……彼女は鳥だからさ。偶にはヒトの友達も欲しいくなるだろう?」

どこかで鳥がくしゃみをした。
シルクのしゃなり、という音と共にカーテンが開け放たれ、一気に自然光が降り注ぐ。

「君たちが眠ってしまった原因の”あの光”も気になるし……まあ善は急げ、だよね。色々調べて、絶対に目覚めさせてあげるから」

決意の滲んだ、それでいて何処か物悲しげな声が溢れる。

「じゃあ今日もゆっくりお昼寝してて……飽きたら起きてくれよ?」

先刻と変わらぬ筈の蝶番の悲鳴は、どことなく柔らかに響いた。
 

**

 
『邪悪な魔王め!』
うるさい。
『我が神の世界に、お前など不要なのだ!』
貴方達の神だって?
『忌子め……奇怪な言葉を喋りおって』
俺は忌子じゃない。
『あの子とは関わっちゃダメよ』
貴方達なんてこっちから願い下げだ。
『どうしてあの人にはツノが生えてるの?』
『髪も肌の色も全然違う……君が悪いわ』
『恐ろしい、魔法が使えるなんて……』
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