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魔王を滅ぼした人魚のお話

流れる様に吹いた潮風に、真珠色と新緑色の髪が靡いた。
さりげなくイグニスの腰を引き寄せたアレグリアが、そっとその額に口づけを落とす。

「僕もずっと、君に会いたかった。君のおかげで、僕は人間を好きでいられた……ありがとう、本当に。…………愛してる」
「ふふ、やっと聞けた……人魚の恋は、叶わないと泡になって消えてしまうの。……ずっと離れないで、一緒にいて」

アレグリアは勿論だ、と答える代わりに、唇に口付けた。

 

* 

 

「ところで、人魚の涙は……」
「それなら大丈夫よ。”再生”の力はあるべき場所に戻す……元々の過ちを消し去ることが出来るの。彼らは今頃家にいるんじゃないかな」
「じゃあリリス達は僕のこと忘れて……」

サッと青ざめたアレグリアに、イグニスが指笛を吹く。

「そういうことは彼女自身に聞いたらどう?」

たちまち飛んできたリリスは、心配した、とでもいうかの様にアレグリアに頬擦りをする。どういうことだ、という混乱がありありと顔に出ているアレグリアに、イグニスが思わずという風に吹き出した。

「リリスちゃんとはよほど繋がりが強いのね。……貴方が魔王じゃなくても、リリスちゃんとは出会ってたの。”再生”しても深い関わりのある人やモノの記憶は、戻すことが出来ないから」

そんな彼女の言葉に感極まったのか、リリスとイグニスをまとめる様に、アレグリアがハグをした。

「……ずっと一緒にいてくれ、お願いだから」
「言われなくてもそのつもりなんだけれど……もちろんよ」

カァ、とリリスが賛同する。

「それより、もうアレグリアは魔王じゃないんだよ!どこに行っても何も言われないし、好きなことを好きなように出来る!どこへだって行けるわ!」

その言葉に、やっと実感が追いついたのか、アレグリアがクシャッと笑う。

「街……街へ行ってみたい。沢山の人と会って話して……今度こそ仲良くなりたい。それから山の頂上にも行きたいし、海の向こうにも行ってみたい……」

その言葉は、欲張りすぎると思ったのか尻すぼみだった。けれどもイグニスがそんなことない!というようにアレグリアの手を取る。

「行きましょう。きっと……きっと3人……いえ、二人と一羽なら楽しいわ。街でも山でも海の向こうでも、どこへでも私が連れて行ってあげる」
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