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魔王を滅ぼした人魚のお話

「……え」

そう零したのは、マオ。
それもそのはず、あれだけ大きな魔力を練っておきながら、放たれてから今の一瞬までずっと無傷だったのだ。
それはマオだけではない。周りの木々やリリス、道端の野花にいたるまで、しっかり無事である。なんなら、前よりも活き活きと咲いているようにも見える。

「……ふふ、これで信じてもらえました?私が”魔王を滅ぼせる”って」
「何を言って……」

その時、不意に視界に揺れる鮮やかな新緑色に目を疑った。

「なん、で、僕の髪の色……」

そんなマオの問いにも答えず、ルフレは柔らかく笑った。

「魔王というのは本来、”人々の憎しみの矛先”……つまり”憎しみそのもの”でしょう。作物を枯らしていた黒い霧だって、魔王の力ではなくて、人々の憎しみの塊。私の力は”再生”。”人魚の生命力”と”火”という始まりの力が交わったことで、全てのものをあるべき姿に戻せるんです」

ほら、と彼女が指差す先には、枯れかかっていた森の木々が、次々と芽吹く姿が。

「だから、人々の感情をあるべき姿……まぁ幸せな状態、ですかね。不必要な憎しみから、今までの幸せな気持ちに戻したんです。……あなたのことも、”魔王”から”エルフの末裔”に戻してしまいました。髪色も魔王のイメージに合わせて黒に染めていたのに……元の色に戻してしまってすみません。でも本当は、魔王なんてしたくないんじゃないかって思って……独断ですが」
「なんで、エルフを知って……」

不意に放たれた言葉に、マオが絶句する。


「……まだ、気付かないの?アレグリア」

ぴくり、とマオ……いや、アレグリアの肩が揺れる。

「……君は、誰なの。なんで、僕の名前を……知っているんだい?」

絞り出した声は、ひどく弱く、そして震えていた。
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