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世界の終演を君に。

__芽依side


私は知っている。
なぜ斗羽くんが勉強を辞めたのかを。
私は知っている。
斗羽くんが今夜何をするのかを。
私は知っている。
凪斗くんが誰なのかを。

斗羽くん。不思議な人だ、彼は。
進学校である私達の高校に、首席の成績で入学、その後もテストの成績はダントツのトップ。傍目から見ても努力家で、彼自身もそこを誇りに思っている……はずだった。
それが、去年の夏前の頃。
彼の成績は、地までといっていいほど、落ちた。いや、落ちたというのは、解けなくなったということではない。”解かなくなった”のだ。
テストの成績で進学等が決まるというのに、いつもいつも赤点ギリギリ。それもわざわざ狙ってその点数を取っているように思える。
_不可解。ただその一言に尽きる。
あれ程努力していた彼が、何故ここまで落ちぶれてしまったのか?
あれ程活力に満ちていた彼が、何故ここまで空虚になってしまったのか?

最初は、ほんの好奇心だった。傍目から見ても分かるほど変貌した彼の生活が、気になってしまったのだ。

元来私は、友達や先生との対人関係を円滑に回すことが好きだ。自分の思う通りに、願う通りに人を動かす。そのことにある種、以上なほどの執着心があるということを自覚したのは、中2の頃。人の表情や声色、行動や歩き方に至るまで全てを観察し、分析する。相手を、カテゴライズする。そのことがどうしようもなく楽しかったのだ。
ついにその欲求は留まるところを知らずに周りを侵食していく。より多面的な捉え方をするために、たくさんの友人を作り、人に好かれ信用されることを欲した。人脈の広がりはつまり、情報源の広がりでもあった。

周りの人々を分析し尽くし、日々に飽きていた頃。
唐突な彼の激変ぶりに、ひどく惹きつけられた。
何も言わず、何もせず、すぐにでも消えてしまいそうな彼を分析する_____これ以上魅力的なことはないように思えた。
しかし矢張り、閉ざしきった彼の心の内を知るものは少なく。私の情報脈を全て駆使して得られた情報は、正直なところ単調であった。

曰く、彼は、すごく親密な幼馴染みがいたらしい。
その人は男性で、凪斗というらしい。
穏やかな性格で、物腰も柔らかく。
そんな彼が、小学生の頃に病気に罹ったのだと。
現代の医療では治せない、不治の病に。
斗羽くんは、凪斗くんを救うために医療系に進もうと努力をしていた。
斗羽くん自身の努力もあってか、順調なように見えたけれど……
その凪斗くんが、亡くなってしまったんだと。
小学生の頃から一心に凪斗くんに尽くした斗羽くんは、進むべき道を失い……
恐らくは、救えなかった、無力だった己を恨んだ。
……そして、今に至る。

 

……それだけ?
というのが、知ったときの本音。いや、斗羽くんの辛さを軽んじているのではない。そうではなくて、時折彼が見せる、あの獰猛な、憎悪に満ちた目は、何に向けられているのか。彼自身に向けられているにしては、あまりにも鮮やかすぎるような……あれは高校生の瞳ではなかった。


観察、しなきゃ。
見つけなきゃ、なんとしても。
彼を、知りたい_____。
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