このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

世界の終演を君に。

「っ……」
肩で大きく息をしながら、床へズルズルと座り込む。
「流石に、頂上まで歩くのは、きついか……しょうがない」
もう一度だけ、とノートPCのEnterをクリックする。と、それに呼応するかのように、フロアの電気がボウ、とついた。

ここは西都タワーの54階。100階まであるから、ちょうど半分を過ぎたくらいのところ。目的地は100階、いや、その先だが……。芽依がいつくるかわからない以上、なるべく安全な場所に、なるべく早く、かつ芽依を阻止する形で辿り着きたかった。
「正直すぐに”シャットダウン”したいんだけど……流石に無理か」
そう、そのためにたった今まで、ノートPCで西東タワーをハッキングし、すべての電源を落としていたのだ。扉から、電灯から、エレベーターに至るまで。とは言えど、100階まで階段で上がるのは無理があったようだ。
……それにしても。
「なんで芽依、すぐに追ってこなかったんだ……?」
そう、僕が西東タワーへ駆け出したすぐ後、芽依が走り去る足音が聞こえたのだ。
……なりふり構わず僕を殺しにくるのではなく。
余談だが、予定調和の崩壊というのは、一説によると人間に強烈な違和感を残すらしい。そして、違和感というのは無意識に発露、蓄積され……いつか別のものへと生まれ変わる。
「……ははっ、何だ、別のものって」
自分で考えたことながら、どこか末恐ろさを感じる。
まあそんなことはどうでもいいのだ。僕は、僕の願いを叶えるだけ。目的をただ達成すればいいだけのこと。この際、周りのことなんかに構っている暇はないのだ。

僕から凪斗を奪ったこの世界は、絶対に許さない。
凪斗がいない世界なんて、消えて仕舞えばいい。
神なんていない。いるとするならば、きっとそいつは性格が悪くて、意地悪で、最悪で……きっと、人を見る目のある奴だ。凪斗を僕のもとから連れ去ったんだから。

「待ってて凪斗、すぐいくから」
夜明けには、世界の終演を君に届ける。
Enterの音と共に、フロアの明かりが消えた。
5/17ページ
スキ