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世界の終演を君に。

目の前にそびえ立つ西都タワーの頂上を見上げる。
日本で最大の高さを誇る電波塔で、セキュリティーは勿論堅い……というのが売りらしい。
まあ、そんなもの関係ないけど。そう呟いたと同時に、リュックサックから2回、メッセージの受信音が響いた。
「えーと、母さんは……」
母さんから、
『斗羽、もうすぐ夕飯です』
なんてメッセージ。
「っ……」
ギリ、と唇を噛んで、メッセージを閉じた。
__母さんは何も悪くないけど……でも俺は、もう止まれないから。
そう言い訳をして、もう一件を開く。

「うし、ろ……?」
そう、メッセージに書かれてたのは、たったそれだけ。
『後ろ。』
としか書かれていなかったのだ。
まあこれは後ろを振り向いてあげるのがセオリーな訳で。
ふい、と後ろを見た。……いや、その背後の気配に惹かれたという方が合っているかもしれない。
そこにいたのは、
「斗羽くん、であってるよね」
同じクラスの、芽依だった。
いや、そのこと自体は特筆すべきことじゃない。学校からこのタワーまではそう離れていないし、来ていてもおかしくはない。僕が動きを止めたのは、彼女の表情故のことだ。
芽依は、そこそこ顔立ちも整っていて性格もよく、表裏のない……つまり大半から好かれているタイプの生徒。いつも笑顔を絶やさず、怒ったり機嫌を悪くした姿は見たことがなかった。
それが今はどうだ。まっすぐに僕を見つめる彼女は、笑っていながらもどこか末恐ろしさを感じさせる笑みをたたえている。

「斗羽くん……貴方を、殺しにきたよ」
「……は?」

思わず呆けた声をこぼす。言葉だけ見れば、ただの狂乱者である。それでも、僕には僕の事情がある以上、それを鼻で笑って追い返すことなど到底出来るはずもなかった。……否、正直なところ、当たり障りない笑みを浮かべることもできない程、頬が引きつっていた……マスクで隠れているのが救いだが。
「そんな、急に殺す、だなんて……」
「言い方を変えようか。私は、世界を救いに来たよ」
なんて物騒な、という言葉は、上書きされて言うことすら許されなかった。
__ああ、もうこいつは知ってるんだ。
“アレ”のことも、言うしかない。そう腹を括る。どうせバレているのだ、ここで言わずに隠し通したところで何も利がないのはわかりきったこと。どうせなら自己開示をする代わりに、彼女の行動を暴いてやろうじゃないか。
「……バレてるみたいだね。そうだよ、僕は今夜、世界を殺す」
「知ってたよ、ずっと前から。だから私は今夜、貴方を殺す」
彼女の目を半ば睨むように見つめながら
__目下1番の厄介は、彼女だ。
なんてことを思った。
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