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世界の終演を君に。

懐かしい、とても懐かしい夢を見ていた。

「……きて、起きて」
「っ……」
呼ばれて目を開けば、目の前には誰かの姿。思わずタワーの上であることも忘れて飛びのこうとする……が、もちろんそれは「落下」を意味するわけで。
「危ないっ……」
間一髪、芽依が僕の腕を掴んだ。寝ぼけていたとはいえ、大失態。そもそも、目の前に敵がいるのに気付かなかった時点で生きていることが不思議なくらいだ。
……目の前に、敵?

「なっ……なんで……芽依がここに!?」
ありえない、そんなことはあり得るはずがなかった。
だって僕は、もう電源も落としたし、報告さえ集まれば起爆して終わりだと、彼女がここへ来るはずがないと眠ったはずなのに。
「なんでって……君を殺しに来たんだよ」
台詞にそぐわぬ朗らかな笑顔で芽依がそう言った。
「そうじゃない、僕は全部電源も落として、ここには上がれなくしたはず……」
外には見張りが、と言いかけ、
(1人で、全員倒した……のか?)
恐ろしい可能性を知ってしまう。

「ここはセオリー通りに、外の見張りさん達には眠ってもらったよ、とか言うべきかな?」
実際のところ、眠らせちゃったんだけど、と笑って見せる彼女に、不意にあの違和感が蘇る。
小さな違和感は、ひっそりと忍び寄り、形を変え姿を大きくして……何かに変わる。今、それがわかった。
……恐怖だ。
(なぜ、タワーに入った時、すぐ追ってこなかった?なぜ、見張りを倒せた?なぜ、あがってこれた?…………なぜ、目の前で眠りこける敵を殺さなかったんだ?)
考えれば考えるほど、なぜ、なぜ、と不思議なことは湧いて出てくる。それと同時に、自分の中で何かが鎌首をもたげるのがわかった。

それは恐怖。
それは不安。
それは不快。
それは憔悴。
それは諦観。
それは抵抗。
それは絶望。

目の前の少女1人。
たった1人されど1人とはよく言ったもので、未知数の彼女の力が、今はただ恐ろしくてならなかった。

それに。
(余裕で笑っているってことは、切り札があるってこと)
彼女の手中の切り札は、どんなにか鮮やかなものなのだろう。
きっとそれが切られれば、僕は死ぬ。

死ぬのは怖くない。死んだら凪斗に会えるのだから、死は僕にとって救いの言葉ですらあった。
でも。
(世界を道連れにしてやるって、決めたんだ)
僕から凪斗を奪うような世界なんて、滅んでしまえと。
無意識にノートPCを抱き締める。

不意に、目覚める直前の凪斗の笑顔を思い出した。
彼はなんて言っていたのだったっけ……。

まあそんなことはどうでもいい。
(どうせあと1時間もせずに、夜は明ける)
思っていたよりも眠り込んでいたようで、あと数時間もすれば、太陽が完全に上がりきる筈だ。
目の前に佇む芽依をしかと見据える。

「チェックメイトと行こうか」
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