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おやすみまでの

日付が変わる数分前、真っ暗なテレビが写すのは独りでただ時間が過ぎるのを待っている俺だけ。さっきまでの娯楽はもう過ぎて、静かに時計の秒針が刻一刻と時間を流す。
部屋のベッドへ身体を預けても、意識が沈んでいく事はない。
今、アイツの声が聴きたいと思った。
手近にあった携帯を弄って、着信履歴を辿り名前を見つける。もう寝たかな、と気に掛けながら、相手の携帯へと繋いだ。

―――1コール、2、3

「何のようなのだよ」
起きていた事よりも、何時もより電話への対応が速くて驚いた。電話に出た彼のキツい口調の中に易しさを知ったのはいつからだったか、そんな事はとっくに忘れてしまった。
「用が無いなら切るぞ」
「ごめんごめん、ちょっと寝付けなくて」
緑間の声にハッとなり、やっと言葉を出した。
「これから寝るのか?」
「いや、まだだね。真ちゃんこそ珍しいね」
寝てるかと思った、と言えば、寝てる相手に電話をするでないのだよ、と微かに笑う気配が伺えた。
「何してた?」
「勉強だが」
「あー、今度勉強教えてよ。おしるこ奢るから」
いつもと変わらない調子で喋ってみせる。さっきまでの静けさは嘘のようで、駆けるように過ぎていく時間が今は憎らしい。
もっと緑間と、共有したい。

日付が変わるまであと一分、束の間の沈黙に高尾は口を開いた。
「なあ、会いに来いよ」
静かな空間に声が響くのがわかる。目を閉じると、暗くて寒かった。
「たまには俺の我儘聞けよ、緑間」
自分でもこんなことを言うのかと、正直驚いた。声と空気と沈黙。緑間はどう思っただろうか。

「高尾、窓を開けるのだよ」
いいから開けろ、と念を押されれば半信半疑ながらもカーテンを払って窓を開ける。冷たい夜風が緩やかに身体を撫でる。寒さに身を震わせながら窓から下を見下ろすと、家の前に緑間を見つけた。小脇に大きめの包みを抱え、こっちを見上げている。
「いくぞ」
小さく呟かれ、目下ではコートでよく見る緑間の姿に目を見開いた。
オレンジと黄色でラッピングされたものが窓から放り込まれる。咄嗟に対応できなかったから、顔面で受け止める形になってしまった。

「誕生日、おめでとうなのだよ」
静寂の中に伝う音と耳元の電子音が重なって聞こえる。これ以上無い嬉しさに、顔が緩むのを我慢できない。
「ありがと、すっげ嬉しい」
震える声はなにゆえか、窓から緑間へ手を振った。

「今度は俺が、真ちゃんに会いに行く」
そう言って、椅子にかかっていたパーカーに腕を通し、階段を降りて家を出た。
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