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届く距離

机を挟んで向かい合う美しいひと。
この距離を俺は近いとするか、遠いとするか、決めかねていた。
手を伸ばせばすぐに彼に触れることができる。細い髪に、丸い頭に、肌の白い頬に、薄く色付いた唇に、大切にされている左手にだって触れるのは容易だ。言葉だって届く距離で、真ちゃん、と呼べば返事だってしてくれるだろう。
「真ちゃん」
「…なんだ」
ほら、こっちは見なくても返事はしてくれる。それでも、想っているだけではこの距離でも、たとえ触れあっても、声にしなければ彼には伝わらない。だから俺は言う。
「好きだよ」
目が合う。さっきまで黙々と机に向かっていた彼のいつもは見えない旋毛が見えていたのに、俺の言葉に耳を、目を向けた。
大きく開かれた目に、そんな驚くなよ、付き合ってんだから、と思いながらもう一度言った。
彼は少し曲がっていた背を直して、俺の言葉に少し照れているようだ。
左手に持っていたシャーペンを置いて、眼鏡を少し上げる。その手を彼はそっと膝の上に降ろした。
見えなくなってしまった彼の手、俺は目線を彼の瞳に移した。彼の瞳にちゃんと俺は写っているだろうか。
「いきなりなんなのだよ」
いきなりじゃないよ、ずっとそう思ってた。二人でいる時も、いない時も、ずっと。こんなに思っても、たぶん全部は伝わらない。触れたら全部伝わればいいのに。
手を伸ばせば触れることのできる距離にいる二人。
「真ちゃんは俺のこと…」
どう思ってるの、なんて聞いたら真ちゃんは怒るかな。そう思ったら、最後まで言えなかった。
「好きだ」
目の前の彼が心地よく震わせた空気に、嬉しくて涙が溢れそうになった。
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