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溢れる

ジリジリと熱された道路に陽炎が見える夏、高尾は暑さからか、緊張からかわからないくらい汗だくになって緑間に好きだ、と伝えた。
髪も顔もシャツもぐちゃぐちゃの高尾とは裏腹に緑間はあっさりとそれを受け容れた。
断られる事を覚悟していた高尾は緑間の返事に目を見開くばかり。
お前が人事を尽くした結果なのだよ。そう言って優しく目を細めた緑間に、ただただ、嬉しくて、高尾は格好悪くも泣いた。


そんなやりとりがあったのが指折り数えて三ヶ月前のこと。手を繋いだのはその三日後。キスをしたのは付き合って一ヶ月経ってからだった。
最初はそういう事したい気持ちと自信がないのと恥ずかしいのとで訳わかんないまま、震えて汗で湿った手を重ねて笑った。
言葉を止めて、お互いの視線を絡め、だんだん顔が近くなる。触れるだけのキスから、薄く唇を開けば、貪欲に深くなっていった。
キスの後はなんだか居たたまれなくなって、そんな気持ちを誤魔化すためにお汁粉をすすったりしたこともあった。
そんな初々しい時期を乗り越えた二人は、気恥ずかしさを残すも、当たり前のように手を繋ぎ、悪戯めいたキスをする。
人目を盗んでは下から覗き込み、上目遣いに少し背伸びをして緑間に口付ける高尾。緑間の首に腕を回して、何度も啄む。緑間の赤くなった頬に胸が高鳴る。
二人きりになるとじっと見つめ、高尾が目を閉じると、柔らかく唇を食む緑間。時折、ちゅ、と音を立てると恥ずかしそうに少し離れる高尾を、追い掛ける。それから捕えた唇を貪った。
そして、キスをする時は必ず手を繋いでいる。互いの利き手を固く、強く、それでも優しく、きつく結んだ。昂ぶる熱に浮かされて、離れてしまわないように。

キスの後、高尾は必ず緑間に好きを伝える。心臓が煩くてどうにかなるんじゃないかと思うくらい、この言葉をどうしようかと焦れていた頃が懐かしくなるくらいには、上手くなったと思う。でも馴れたわけではない。
手を繋ぐたび、唇を重ねるたび、愛しさを益していく気持ちを高尾が抑えられないだけ。好き、好きだよ、大好き。形こそ違えど、何度も声に出して、どんどん大きくなるそれは緑間を満たす。高尾の想いを零さず、しっかりと受けとめることが、緑間の役目だと思っている。

もっと欲しいと思った緑間は、自分から好きを伝えてみた。高尾は三ヶ月前と同じ顔をしていた。
また泣きだすんじゃないかと思ったら、案の定、黒い目を潤ませてぼろぼろと涙を流した。泣きながら何度も好きと言う高尾は涙を止められないで、顔をぐちゃぐちゃにした。濡れる目元を拭う手に指を絡めて、そっとキスをすれば、また涙を溢れさせる。
ダミ猫みたいな声で泣く高尾が可愛くて、頭を撫でてそのまま胸に寄せた緑間も、目頭を少しだけ熱くさせていた。

「泣き止め、目が腫れるのだよ」
緑間の胸に顔を埋める高尾は、緑間の少し速い鼓動に耳を傾け、ゆっくりと口を開く。
「一回泣くと、止まんない」

だからもう少しこのままで居させて、という高尾の身体を痛いくらいに引き寄せた。
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