スーパースター
緑間真太郎は青峰大輝が羨ましかった。バスケが好きで、バスケをとったらガングロくらいしか残るものがないくらいバスケ馬鹿で、息をするのと同じくらいバスケをするのが当然で、何より生き生きと楽しそうにバスケをしている青峰に憧れていた。
緑間だってバスケが好きでやれることは最大限やるよう努めているし、それを怠る事は自身が許さない。でも、どんなに努力したって、緑間は青峰のようなバスケは出来ないのだ。そうだとわかったときは何時だったかなんて覚えてないけど、憧れなんて綺麗なものは、嫉妬という汚いものへと成り代わっていた。それから、ずっと見てきた青峰のバスケを緑間は見なくなった。
部活後の体育館、いつものように緑間は自主練をしていた。床にボールが落ちて跳ねる音はもう何回聞いたかわからないほど聞いたし、この音が聞こえなくなることが今の自分には考えられなかった。
「よお、相変わらず熱心だな」
入口付近から声がするので振り返ると、青峰がいた。ゴムで床をキュッキュと鳴らしながら歩いてきた。なんなのだよ。と思った言葉がそのまま口から出た。
「1on1やってたんだけどよ、黄瀬のやつ仕事があったとか言って帰りやがった」
ま、仕方ねーけどな。と言う青峰に、お前も帰ればいいだろう。と言った。
「んなつれねーこと言うなよ。たまにはいーだろー。」
そう言って青峰は壁に背を預けて座った。何がいいのかわからない緑間は青峰のことなど無視して黙々とボールを撃ち続けた。
ボールがリングをくぐり、ネットを擦る音が好きだ。そんな話を青峰としたのは何時だったか、その時の顔は久しく見ていないなと思った。
「緑間」
いきなり名前を呼ばれて驚いた。だが返事をする間もなく青峰が話を続けた。
「俺、バスケ好きなんだわ。すげー好き。」
青峰は当たり前のことをぽつぽつと声にした。
「でもさ、俺、バスケ楽しくねーんだわ」
嘘だと思った。だから青峰を見た。でも青峰の顔は嘘を言っているようなものではなかった。
「嘘じゃねーんだ。だって俺と本気でバスケしてくれるヤツなんかいねえんだ」
青峰は寂しそうにボールを見ていた。そんなはずないだろう。と言いたかった。黄瀬は、黒子はどうなんだと言ってやりたかった。でも緑間は言えなかった。自分がその中にいないことに気付いたから言えなかった。また、青峰も言わせてくれなかった。
「俺と本気で向き合ってくれるヤツがいねーんだ」
いつからそんなことを考えていたのかわからなかった。緑間の中の青峰は誰よりも楽しそうにバスケをしていたから。
「ははっ、わかんねーよな。だってよ……」
青峰はその言葉を続けなかった。そして、緑間から視線を外した。
「お前、前はさ、俺のこと見ててくれたよな?」
膝を抱えて、顔を埋める青峰を緑間は見下ろした。そうか、と思い出した自分の嫉妬心を緑間は責めた。
「嬉しかったんだよ。まっすぐに俺を見てくれてたのが……」
ごめんという言葉すら声にならない自分に呆れても尚、緑間は青峰をただ見下ろすことしか出来なかった。
「見てたんだよ、俺も。ずっと。お前が部活してんのも、残ってバスケしてんのも、試合してるときも。ずっとずっと、目が離せなかった。だから……」
息が止まるような思いがした。かつてこんなに頼りない青峰の声を聞いたことがあっただろうか。思い出す彼の姿は憧れていた頃の彼ばかりだった。緑間は自身の小ささを悔いた。馬鹿だと思った。
「青峰」
緑間が声に出した憧れていた彼の名前。目線を合わせようとしゃがんだが、青峰は依然として膝に顔を埋めている。
「青峰、俺の目を見るのだよ」
まっすぐに見つめた緑間の目は、ゆっくりと顔を上げた青峰の目を捕えた。そして、緑間もまたゆくっくりと口を開く。
「俺はお前が羨ましいのだよ。楽しそうに、自由にバスケをするお前が。俺はきちんと自分を型にはめないとバスケができないのだから」
だからお前が羨ましい。そう言ってやると、青峰は目を大きく開いた。
「自分の不甲斐ない嫉妬心でお前から、もう目を逸らしたりしない。だから、バスケが楽しくないなんて言わないでくれ」
すまなかったのだよ。と最後に言った言葉が彼に届いてほっとした。緑間の目には自身がよく知っている青峰の姿があった。
緑間だってバスケが好きでやれることは最大限やるよう努めているし、それを怠る事は自身が許さない。でも、どんなに努力したって、緑間は青峰のようなバスケは出来ないのだ。そうだとわかったときは何時だったかなんて覚えてないけど、憧れなんて綺麗なものは、嫉妬という汚いものへと成り代わっていた。それから、ずっと見てきた青峰のバスケを緑間は見なくなった。
部活後の体育館、いつものように緑間は自主練をしていた。床にボールが落ちて跳ねる音はもう何回聞いたかわからないほど聞いたし、この音が聞こえなくなることが今の自分には考えられなかった。
「よお、相変わらず熱心だな」
入口付近から声がするので振り返ると、青峰がいた。ゴムで床をキュッキュと鳴らしながら歩いてきた。なんなのだよ。と思った言葉がそのまま口から出た。
「1on1やってたんだけどよ、黄瀬のやつ仕事があったとか言って帰りやがった」
ま、仕方ねーけどな。と言う青峰に、お前も帰ればいいだろう。と言った。
「んなつれねーこと言うなよ。たまにはいーだろー。」
そう言って青峰は壁に背を預けて座った。何がいいのかわからない緑間は青峰のことなど無視して黙々とボールを撃ち続けた。
ボールがリングをくぐり、ネットを擦る音が好きだ。そんな話を青峰としたのは何時だったか、その時の顔は久しく見ていないなと思った。
「緑間」
いきなり名前を呼ばれて驚いた。だが返事をする間もなく青峰が話を続けた。
「俺、バスケ好きなんだわ。すげー好き。」
青峰は当たり前のことをぽつぽつと声にした。
「でもさ、俺、バスケ楽しくねーんだわ」
嘘だと思った。だから青峰を見た。でも青峰の顔は嘘を言っているようなものではなかった。
「嘘じゃねーんだ。だって俺と本気でバスケしてくれるヤツなんかいねえんだ」
青峰は寂しそうにボールを見ていた。そんなはずないだろう。と言いたかった。黄瀬は、黒子はどうなんだと言ってやりたかった。でも緑間は言えなかった。自分がその中にいないことに気付いたから言えなかった。また、青峰も言わせてくれなかった。
「俺と本気で向き合ってくれるヤツがいねーんだ」
いつからそんなことを考えていたのかわからなかった。緑間の中の青峰は誰よりも楽しそうにバスケをしていたから。
「ははっ、わかんねーよな。だってよ……」
青峰はその言葉を続けなかった。そして、緑間から視線を外した。
「お前、前はさ、俺のこと見ててくれたよな?」
膝を抱えて、顔を埋める青峰を緑間は見下ろした。そうか、と思い出した自分の嫉妬心を緑間は責めた。
「嬉しかったんだよ。まっすぐに俺を見てくれてたのが……」
ごめんという言葉すら声にならない自分に呆れても尚、緑間は青峰をただ見下ろすことしか出来なかった。
「見てたんだよ、俺も。ずっと。お前が部活してんのも、残ってバスケしてんのも、試合してるときも。ずっとずっと、目が離せなかった。だから……」
息が止まるような思いがした。かつてこんなに頼りない青峰の声を聞いたことがあっただろうか。思い出す彼の姿は憧れていた頃の彼ばかりだった。緑間は自身の小ささを悔いた。馬鹿だと思った。
「青峰」
緑間が声に出した憧れていた彼の名前。目線を合わせようとしゃがんだが、青峰は依然として膝に顔を埋めている。
「青峰、俺の目を見るのだよ」
まっすぐに見つめた緑間の目は、ゆっくりと顔を上げた青峰の目を捕えた。そして、緑間もまたゆくっくりと口を開く。
「俺はお前が羨ましいのだよ。楽しそうに、自由にバスケをするお前が。俺はきちんと自分を型にはめないとバスケができないのだから」
だからお前が羨ましい。そう言ってやると、青峰は目を大きく開いた。
「自分の不甲斐ない嫉妬心でお前から、もう目を逸らしたりしない。だから、バスケが楽しくないなんて言わないでくれ」
すまなかったのだよ。と最後に言った言葉が彼に届いてほっとした。緑間の目には自身がよく知っている青峰の姿があった。
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