暁闇から曙へ

 


「新入りを紹介する」


 崖に横穴を掘って作られた暁アジト、その食堂兼居間。

 そこには現在、芸術・不死・動物コンビの六名がいた。台所で茶を淹れる者、そしてその茶を飲む者やソファで本を読む者など……各自が思い思いに寛いでいたところで、突然現れたペインはそう言い放った。


「新入りだぁ?」

「まだガキじゃねぇかよ、うん」


 彼の後ろから姿を現した少年。暁装束を纏った彼を見た飛段とデイダラが好き勝手にほざく。サソリもヒルコ越しにその少年へと視線を走らせた。

 年は十二・三歳ぐらいだろうか。眩い金髪は短くツンツンと立っており、子供らしい丸い眼はまるで空のように蒼い。だがその眼光は鋭く、隙はない。まるで歴戦の忍のようだった。

 サソリと少年の視線が合い、少年は口元に薄く笑みを浮かべた。酷薄なその笑みに、やはり只の子供ではない、とサソリは警戒を強める。


「うずまきナルトだ」


 口を開いたと思えばそれだけを発し、後は表情を消して黙りこくるナルト。

 それにスカした野郎だ、と胸中で悪態をつく者が二名、後は観察している者サソリ興味がない者角都好戦的な視線を隠さない者鬼鮫、表情にこそ出さないが驚いている者イタチ。ペインの輪廻眼は、ただ無感情に彼らの様子を映す。


「コイツは九尾の人柱力だ。……あまり侮るなよ。実力は相当の物だ」

「九尾……!?」

「オイオイ、正気かよリーダぁ?」


 暁の面々がにわかに騒つく。それも当然の事で、組織の目的は人柱力の捕獲だ。いくら腕が立つとはいえ、何故人柱力本人をメンバーに加える必要があるのか。そもそもこんな子供が本当に暁に加入する程の実力者なのか。

 しかしペインはメンバー達の疑問に答える気はないようで、瞬身の術で姿を消してしまう。


「チィ……クソリーダーが」

「本当に強えーのかよ? ただのガキにしか見えねぇぞ、うん」


 サソリは紹介すると言っておきながら説明責任を果たさないペインに舌打ちし、デイダラは不満げな様子を隠さない。

 苛立つ芸術コンビを余所に、イタチは眉根を寄せた。

 木ノ葉崩し後直ぐに木ノ葉の里を調査した(という名目でダンゾウら上層部に圧力をかけに行った)際、出会したナルトは元気で明るいどこにでもいる様な少年だった。

 それが今はどうだ。視線を向ければ直ぐに気づかれ、無表情な顔がこちらを向く。そこには一つの隙もなく、まるで別人だ。

 たった数ヵ月程度で人はこうも変わるものか。……それとも、あの時は隠していたのか。

 兎に角、不味い事になった。暁に九尾の人柱力を奪われてしまった。木ノ葉の上層部は何を考えているのか……いや、もしかすると。

 一つの可能性に気付いたイタチは、再びナルトに視線を送る。黒曜石の眼と藍玉の眼が同時に瞬いた。


「んじゃ、歓迎会といくかァ?」


 ナルトと肩を組むように腕を置いた飛段。普段通り陽気な調子の飛段だが、その瞳に温度はない。

 彼の言う“歓迎会”というのは、言わば新入りへの洗礼だ。要はナルトがどこまでやれるのか見てみようという魂胆だった。


「興味ない」


 飛段の腕を払い、歩き出すナルト。その足は、ある男の前で止まった。


「お前の中身には興味あるけどな」

「チッ……」


 男……サソリを見下ろすナルト。“赤砂のサソリ”……の写真に写っていた赤い髪の男とは全く違う、厳めしい顔つきをした腰の曲がった男。その姿が本体ではないことを見抜いていたナルトは、挑発するように目を細めて笑う。


「ご指名ですねェ、羨ましい限りですよ……サソリさん」


 いつの間にか台所から移動してきていた鬼鮫が、横から口を挟む。

 イタチと共に木ノ葉の里へ行き、一足先にナルトと出会っていた彼もまた、出来れば自らの手でこの少年の実力を推し量りたいと思っていた。だが残念ながら……相手の興味はお人形・・・に向いているようだ。

 組織内での私闘は禁止されているが、それを指摘する者は皆無。新入りの実力が気になっているのは誰しも同じだった。基本的に金と金になる事以外に興味を持たない角都でさえ、読んでいた本を懐に入れてソファから立ち上がっていた。


「フン……引きずり出してみろ。出来るモンならな」


 殺気を込めてナルトを一睨みしたサソリは、他の面々をそのままにアジトの外へと進む。

 あの生意気なガキを、どう料理するか……どんな人傀儡に仕立て上げるかを考えながら。




 
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