うちは丼 とくもりっ!
あれから。
母親から聞いたりカレンダーを見たりして、色々情報を集めたが。
やっぱりここが木ノ葉隠れで、自分がうちは一族であることに間違いはないみてーだった。
なんつーか、ショックつうか……一言で纏めんなら複雑な気分だな、うん。
それで今は、第三次忍界大戦の真っ最中。
夕方の現在になっても帰ってこない父親は、なんとうちは一族の頭領だという。だから忙しいらしく、最近は出ずっぱりで殆ど家には帰ってこないらしい。
“一族”ってのも、孤児だったオイラには馴染みのない言葉だ。慣れる日は来んのかねぇ……うん。
そういや、生まれ年も以前……前世?のオイラとは違っていて、前より七歳年上だった。誕生日は前と同じだったけどな。
母親からうみのさんトコの子と同い年よ、なんて言われたけど……誰だようみのさんって。うん。
……今のオイラは三歳だ。ってことは、現在のオイラより五歳年下の筈のイタチはまだ産まれてないんじゃねえか?
はたと思い当たり、オイラは足を止めた。
家でゴロゴロしてんのも飽きたから、縁側から庭に出たが……三歳児には広すぎて若干迷子だ。
再び足を動かす。身体が子供だからか、急ぐとすぐ転けそうになるからゆっくり、慎重に。
打ち倒してやりたい相手だったが、磨いてきた腕はイタチに奮われることはついぞなかった。
しかしそれは前世での話だ。今世ではチャンスが幾らでもある。
まずは……修行か。かといってこの身体じゃな……うん。
自分の小さな両手を見下ろす。当然だろうが、前世で施した禁術は跡形もない。
しかし木ノ葉か……木ノ葉出身でイタチとサスケ以外で今ぱっと思い浮かぶ忍といえば、火影と伝説の三忍と……はたけカカシと、うずまきナルト。
あと、トビの正体――うちは
それぐらいか?うん。他は誰がいたっけな……。
考えながら歩いていたら、どうやら門まで来ていたようだ。
ちょうど訪問してきたらしい人影を認めたオイラは、門扉を開けてやる。力がねぇから、ゆっくりと。
「ぅお! ……ってお前、この間の」
「……あ?」
オレより数歳年上だろう子供が、いきなり開いた門に驚いた顔をしていた。
黒髪のツンツン頭に黒い目。ってことは、こいつもうちはか。うん。
そして手には……バインダー?
「回覧板だよ。お前ん家の隣のバアちゃんが動けないって言うから、オレが代わりに持ってきたんだ」
「へー」
じっと見つめていたら、視線に気付いた子供が教えてくれた。
カイランバン。聞いたことがあるような、ないような。首を傾げていたが、ふと別の事を思い出した。
「あ、お前あの時の……」
ガキか、と言おうとして口を噤んだ。今のオイラもガキだったからだ。
あれは熱を出す前日、だったと思う。
母親に連れられて買い物に行った先で転び、このガキに助け起こされた。そんな記憶がある。
「オビトだよ! うちはオビト!
デイダラ、だよな? お前、この間はもっと可愛かった気がするんだけど……」
「気のせーだろ、うん……っと」
オビトからバインダーを手渡され、受け取った。
だが、体が小さいせいでバランスを崩して倒れそうになる。
「危ねぇ!」
「ぅお……悪ぃ」
オビトに支えられ、何とかその場で踏ん張る。
結局、オビトが玄関まで回覧板を持ってきてくれることになった。
「かあさーん!」
到着した玄関の引き戸をガラリと開ける。
そして大声で呼べば、廊下の奥から返事と足音がして。すぐに母親が顔を出した。
「ハイハイ……あら、オビトくん?」
「どもッス。これ、ここの隣のバーちゃんが腰痛めたみたいで……オレが代わりに持ってきました」
「そうだったのね、ありがとう。お婆さんは大丈夫かしら……」
礼を言ってバインダーを受け取った後、頬に手を当て、心配そうな表情を浮かべる母親。
オビトが口を開きかけたその時、背後にまた新たな人影が現れる。
「どうした、こんな所に集まって……君は」
「と、頭領!」
「お帰りなさい、アナタ」
この人間がオイラの父親か。じっくりと観察してみる。高い身長に、オイラや母親と同じ黒髪に黒眼、男らしい顔つき。
母親も大概美人だと思ったが、こちらも負けず劣らずの美丈夫だった。これだからうちはって奴は……なんかそういう遺伝子でもあんのか? うん。
ふと気になって、オイラもこういう風になるんかな、と想像してみるけれどイマイチしっくり来ない。
……ならねー気がするな、うん。なんせ記憶にある小さい頃のオイラと今のオイラ、違うのは髪色と髪型だけだからな……うん。
「オビトくんか。何か用か?」
「お隣さんの代わりに回覧板を届けてくれたのよ」
父親がオビトを見下ろせば、オビトは慌てた様子でペコリと頭を下げた。
その隣で母親が補足する。
「そうだったのか……ありがとう」
「い、イイエ! じゃあオレはこれで」
「ありがとうね、オビトくん。ほら、デイダラも」
「あ? あぁ……ありがとな、うん」
母親に促され、礼と共に手を振ってやればオビトが笑った。
門を出ていくオビトの後ろ姿を眺める。
アイツはなんか……あんまりうちはっぽくねーよな、うん。あの特有のスカした感じがねぇ。
「デイダラ、父さんに……言うことがあるだろう」
「うん?」
靴を脱ぎ、上がり框に足を乗せたところで頭上から降ってきた声は、父親のもので。
顔を仰ぎ見れば、無表情のような何か言いたそうな、よくわからない表情をしていた。
しかしそうは言われても、思い当たる節がなくて首を捻った。何かやらかした記憶もない。
「ほらデイダラ、お帰りなさいは?」
苦笑する母親に言われて、ようやく思い至る。
今までそういった習慣がなくて、気付くのに時間がかかってしまった。そうか、普通の家族は……。
どこか気恥ずかしいような思いで、そっと口を開く。
「おかえり、なさい……わ」
言い終わってすぐ、少し身を屈めた父親に頭を撫でられた。
不器用な手付きで少し痛かったけど、どこかくすぐったさもある。
こうして撫でられることなんて長らくなかったから、どういう表情をすればいいのか……よくわからなかった。
「二人とも、手を洗ってご飯にしましょう」
先に家へ上がっていた母親に声を掛けられる。
照れてしまったオイラは、これ幸いと父親の手が離れた隙に母親の後を追う。
オイラがはじめて手に入れた家族、だった。
こうして、オイラの二度目の生が幕を開けた――。
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