うちは丼!

 


 夢を見た。


 いや……夢じゃねぇのか。そうだ、あれは実際に起きた出来事……オイラ自らが体験した事だ。

 岩隠れで生を受け、孤児として育ち、忍になり、自らに禁術を施して、里を抜け……“暁”に入って。

 そして――戦いの最中、自らが芸術となり命を落とした。


 ま、その後穢土転生だかいう術で生き返ったり、また死んだり、色々あったワケだが……。

 兎に角、オイラは死んだ筈だ。それが何故か生きている。……本当に何故か。生まれ変わりか? でもそんな徳積んだ覚えねーしな……。


 布団に寝転がったまま、頭上に手を翳してみる。小さく柔らかそうな手だった。

 それもその筈、今のオイラはどうやら三歳のガキらしい。つい先日、両親から誕生日を祝われた記憶があった。


 共に寝ていた筈の母親は既に起きているようで、台所の方から包丁を使う音が聞こえてくる。

 父親は確か、任務だったか? 仕事で今晩は帰ってこないとお母さんに言われた気がする。

 ……“両親”とか“お母さん”とか、前世の自分とは馴染みが無さすぎる言葉のせいで違和感が凄いが、まぁ今生は恵まれてるって事かもな。家もデケェし。


 俗っぽい事をつらつら考えながら起き上がり、姿見の前に立った。そこで固まる。

 早朝の柔らかな光に照らされて、そこに映し出されていたのは……幼いオイラ、デイダラの姿。


 ただし、黒髪で黒眼だった。


 ……思い返せば、母親も父親も……何なら一族郎党ほぼ全てが黒髪黒眼だった気がする。そして物凄く嫌な予感がする。


 外れろ外れろと念じながら部屋の箪笥を漁る。すぐに出てきた母子手帳、その表紙には――「うちはデイダラ」と確かに印刷されていた。


「マジかよ……うん」


 あ、口癖出ちまった。




 自分はどうやら、数日熱を出して寝込んでいたらしい。起きたオイラを見た母が安心した顔でそう言っていた。

 そういえばかなりしんどい思いをした覚えがある。前世の記憶を取り戻した衝撃のせいであやふやだけどな。

 混乱のまま朝食を食べ終え、母からの問いに生返事を繰り返していたら、まだ熱があるのかと勘違いされ布団に押し込められてしまった。

 仰向けに寝転がり、天井を見上げる。


「ハァ……」


 溜め息を漏らす。よりによって何故“うちは”なのか。


 認めたくねェが……あの頃のオイラはイタチに嫉妬していた。写輪眼に思わず魅入ってしまい、その美しさに芸術性を見出してしまったこと、全く相手にされなかったこと……生まれて初めて感じた屈辱を思い出し歯噛みする。

 そして同じような汚辱を、弟のサスケにも味わわされた。アイツら兄弟は、オレを……オイラの作品を、芸術を決して見ようとしない。それが腹立たしかった。


 ――しかし自分がその“うちは一族”に生まれ変わるだなんて、誰が想像しただろうか。

 写輪眼が、あの赤く美しい瞳が……己にも開眼するかもしれない。興奮するような、絶望の淵に立たされているような……妙な気持ちだ。


 ゴロンと寝返りを打つ。

 窓ガラスの向こうに見える庭は緑が映え、火の国らしい古式床しいものだった。土の国のあの無味乾燥で土色一辺倒な物とは違う。

 アレはアレで壊しがいがありそうで、オイラは好きだったけどな。


 オイラは目を閉じ、思考を巡らせる。何か大切なことを忘れているような気がした。

 というか、前世で自分の身に起きた事は覚えていても、それ以外は割とあやふやだ。


 例えば“暁”に加入したイタチが、なんで里を抜けたかだとか……。何だったっけ。重大なようで、そうでもないような……うん……。


「……うぅん……?」


 ……駄目だ。一向に思い出せない。ま、もしそれが重要な事柄だったなら後から思い出せるようになるだろう。多分な。うんうん。


 無理やりに自分を納得させたオイラは、溜め息を吐きつつ起き上がった。

 正直、整理が付いてねぇ部分もある。“うちは”云々もそうだが、生まれ変わった理由やら年代やら……謎が多すぎる。ゴチャゴチャ考えても仕方ねえ。まずは情報収集だ。


 とりあえずオイラは、今が一体いつ頃なのかを調べる為に、母親の元へ向かった。



 それはデイダラ三歳の頃。


 ――そして、弟が産まれる二年前の出来事だった。




 
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