うちは丼 とくもりっ!
一人の幼児が、まだおぼつかない足取りで薬屋から出てきた。艶のある黒髪が特徴的な、可愛らしい三歳程度の男の子だ。
母親が会計中に逃走を図ったその幼児は、天真爛漫な笑顔で道をぽてぽてと歩き……そして転んだ。
「う……わぁぁあぁん!」
顔を真っ赤にして泣き叫ぶ幼児。倒れたまま起き上がれないその子供を見かねてか、近くを通りすがったそれより幾つか年上の子供が駆け寄って手を差し出した。
こちらはツンツンと立った黒髪で、お使い中なのか買い物袋を下げていた。
「大丈夫か?」
「……う、ヒック」
「怪我は……ないみたいだな」
ぐずりながら、恐る恐るその手に掴まった幼児。それを起こして立たせた子供は、しゃがんで幼児と視線を合わせる。
「お母さんは?」
「ん……」
幼児はつい今しがた出てきた薬屋を指差す。その軒先から、一人の女性が姿を現した。
「コラ! もう、勝手に……って、あら」
「あ、頭領の……!」
「おかぁさん!」
他に誰かいると気付いた女性は、顰めていた眉を元に戻し、思案顔になる。そんな女性の登場に驚く子供。女性が同じ氏族の長、その妻だと気付いたためだった。
叱られた幼児は急いで(それでも遅いが)足を動かし、女性の足に抱きついた。
「オビトくん、だったかしら? ごめんなさいね、目を離してしまって……助かったわ。ありがとう」
「いっ、イエ! この子が怪我してなくてよかった、です」
今度は子供……オビトが膝を折った女性に目線を合わせられる番だった。笑顔でお礼を言われ、照れながらも不慣れな敬語を何とか付け足したオビトに、女性は微笑ましい気分になる。
「ほら、お礼は?」
「ありが、とぉ……」
恥ずかしいのか、女性の影に隠れてしまった幼児。それでも顔だけ出して礼を述べる。そんな可愛らしい姿に、オビトも思わず笑ってしまった。
「じゃあ、行くわね。お祖母さんによろしくね、オビトくん」
「ハイッス! あ、ミコトさん……その子の名前は?」
ミコトと呼ばれた女性は笑った。オビトが見惚れるほど綺麗に、そして心の底から愛おしそうに。
「