800字チャレンジ
本丸と現世の行き来には政府指定のアプリを使うことになっていて、これを開いたまま自宅の玄関を開けることで転移システムが発動し、本丸へ帰ることができる。初期刀と一緒に現世での任務を終えた私はいつものように端末を開き、見慣れたアイコンをタップし、スーツケースの中に赤い鞘の姿があることをしっかり確認してからドアノブをひねった。はずだった。
そこには現世で私が暮らす、何の変哲もないアパートの光景が広がっていた。
「緊急メンテナンス?」
「うん。お昼過ぎくらいから重めのバグが発生してたみたいで、その修正なんだって。復旧は早くても明日の朝になるみたい」
「重めのバグって何」
「現世にいるとき限定で、審神者から一定の距離以上離れると笹貫が発光するっていう報告が相次いでるらしい」
「絶妙に笑っていいか迷うラインだ」
「復旧されないことには本丸にも戻れないし、今夜は私の部屋で待機ってことになると思う」
「りょーかい。本丸と連絡はついてるんだよね?」
「うん。夜更かしせずに早く寝なさいよって、なちりが」
じゃー今夜は主の部屋でお泊まり会かー、と、何故か少し嬉しそうに加州は言う。
「とりあえずお腹空いたよね。うち今冷凍うどんしかないや」
「いーね。俺うどん食べたい」
「よし! じゃあ今夜はうどんミュージカルのミュージカル抜きで決定ね。あっでもめんつゆ切らしてたな」
「本当に何もないじゃんこの部屋」
「最近はご飯もほとんど本丸で食べてたからなぁ」
「近くにスーパーなかったっけ。俺行ってくるよ。まだやってるかな」
「24時間営業だから大丈夫だと思うけど……あっ待って、やっぱ私が行く」
「え、なんで。もう遅いし俺が行くよ」
「ほら、ここ女性専用物件だから。加州は廊下出ない方がいいと思う」
「あー……そっか」
渋々、という表情で加州は頷く。理解はしたけれど納得はしていないという顔だ。
「主を、こんな時間に部屋に男連れ込んでるいけない子にするわけにはいかないからね」
「ねえ言い方!」
「ねえ、やっぱ心配だから俺も連れてってよ。一旦刀に戻るから、表に出たら元に戻して」
「まさか人生で銃刀法違反と男性入室の疑いの二択を迫られる機会があるとは思わなかった」
「ほら行くよ。めんつゆ売り切れたらどうすんの」
「めんつゆだけピンポイントで在庫無くなることないでしょ」
「俺天ぷらうどんにしたいなー」
「いいね。お惣菜コーナーも見よう」
「やった。じゃあ主、俺のこと優しく運んでね」
「任せて」
加州が刀の姿へ戻るのを見届けてから玄関の戸を開く。アイスも買っちゃおうかな、と呟くと、腕の中で赤い鞘が震えた。多分「賛成」という意味だろう。「太るよ」とか「糖分摂りすぎ」の可能性もあるけれど、一旦無視する。今日はきっと特別な夜だから、このくらい見逃してほしい。ね、だからお願い。加州。
そこには現世で私が暮らす、何の変哲もないアパートの光景が広がっていた。
「緊急メンテナンス?」
「うん。お昼過ぎくらいから重めのバグが発生してたみたいで、その修正なんだって。復旧は早くても明日の朝になるみたい」
「重めのバグって何」
「現世にいるとき限定で、審神者から一定の距離以上離れると笹貫が発光するっていう報告が相次いでるらしい」
「絶妙に笑っていいか迷うラインだ」
「復旧されないことには本丸にも戻れないし、今夜は私の部屋で待機ってことになると思う」
「りょーかい。本丸と連絡はついてるんだよね?」
「うん。夜更かしせずに早く寝なさいよって、なちりが」
じゃー今夜は主の部屋でお泊まり会かー、と、何故か少し嬉しそうに加州は言う。
「とりあえずお腹空いたよね。うち今冷凍うどんしかないや」
「いーね。俺うどん食べたい」
「よし! じゃあ今夜はうどんミュージカルのミュージカル抜きで決定ね。あっでもめんつゆ切らしてたな」
「本当に何もないじゃんこの部屋」
「最近はご飯もほとんど本丸で食べてたからなぁ」
「近くにスーパーなかったっけ。俺行ってくるよ。まだやってるかな」
「24時間営業だから大丈夫だと思うけど……あっ待って、やっぱ私が行く」
「え、なんで。もう遅いし俺が行くよ」
「ほら、ここ女性専用物件だから。加州は廊下出ない方がいいと思う」
「あー……そっか」
渋々、という表情で加州は頷く。理解はしたけれど納得はしていないという顔だ。
「主を、こんな時間に部屋に男連れ込んでるいけない子にするわけにはいかないからね」
「ねえ言い方!」
「ねえ、やっぱ心配だから俺も連れてってよ。一旦刀に戻るから、表に出たら元に戻して」
「まさか人生で銃刀法違反と男性入室の疑いの二択を迫られる機会があるとは思わなかった」
「ほら行くよ。めんつゆ売り切れたらどうすんの」
「めんつゆだけピンポイントで在庫無くなることないでしょ」
「俺天ぷらうどんにしたいなー」
「いいね。お惣菜コーナーも見よう」
「やった。じゃあ主、俺のこと優しく運んでね」
「任せて」
加州が刀の姿へ戻るのを見届けてから玄関の戸を開く。アイスも買っちゃおうかな、と呟くと、腕の中で赤い鞘が震えた。多分「賛成」という意味だろう。「太るよ」とか「糖分摂りすぎ」の可能性もあるけれど、一旦無視する。今日はきっと特別な夜だから、このくらい見逃してほしい。ね、だからお願い。加州。