800字チャレンジ

最後にあなたが教えてくれた(後編)

「そのお友達は」
「う、うん」
「とても、素敵な人に恋をしているんですね」
「……うん。すごく素敵な人」

わたしは視線を落として、服の裾を握りながら答えた。先生、気づいてくれないかな。「素敵な人」はあなたのことで、その人に恋をしている「友達」はわたしのことです。わたしはずっとルチル先生のことが好きなんです。今すぐ正直に全部を打ち明けてしまいたいけれど、一生気づかないでいてほしいとも思う。

「そうですね……恋の相談に乗るのは初めてなので、力になれるかはわからないけれど、その気持ちを大切にしてほしいなって思います。
「わかった。友達にもそう伝えるね」
「ふふ、お願いします」

胸の奥がじんわりと熱くなる。やっぱりわたしはルチル先生のことが好きだ。

「片想いを続けるのはつらいですけれど、誰かを好きになるって、とても素敵なことですから」
「え、先生好きな人いるの」

思わず口に出てしまった私の質問に、少し迷うような素振りをしてから先生は答えた。嫌な汗が背中を伝う。お願い。どうか違うと言って。

「はい。強くて優しくて、とても尊敬できる人です」

他のみなさんには内緒ですよ。口元に人差し指を当てながら微笑んで、ルチル先生は言う。その優しくて甘い笑顔を見て、ああ確かにこれは恋をしている人の顔だ、と思った。

「うん。秘密にする」
「ふふ、ありがとう」

その後どうやって帰り着いたかは覚えていない。気がつくと家の前に立っていて、いつものように家族と夕食を食べて、お風呂に入って、ベッドに入って、そこで初めて涙が溢れた。
読み書きに計算。花や草木や動物の名前。絵の描き方。歌の歌い方。恋をする喜び、悲しみ。そして失恋。
全部ぜんぶ、ルチル先生がわたしに教えてくれた。
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