800字チャレンジ

ルチル先生が帰ってきたらしい、という知らせを聞いた瞬間、私の足は勝手に走り出していた。今年賢者の魔法使いに選ばれたルチル先生。魔法舎で生活することになって、雲の街を離れてしまったルチル先生。わたしの大好きな人。

「先生!」
「もう、廊下は走っちゃいけませんよ」

息を切らしながら教室へ駆け込んだわたしを優しく諌めて、ルチル先生はふわりと笑った。先生が街を出たのはほんの数ヶ月前のことなのに、その笑顔をずいぶん懐かしく感じてしまう。

「先生、どうして帰ってきたの」
「南の国で任務があったので、せっかくならここにも顔を出してから帰ろうと思って。少し寄り道しちゃいました」
「そうなんだ」
「みなさんお元気そうで本当によかった。学校は楽しいですか?」
「うん、毎日楽しいよ。先生がいないのは寂しいけど」
「よかった。あなたならきっと大丈夫です」

恋って不思議だ。先生と目が合うだけでふわふわと夢を見ているような気持ちになるし、先生が笑うとわたしも嬉しくなる。久しぶりに先生と会って、言葉を交わして、それだけで胸がいっぱいだった。一生この時間が続いたらいいのに。でも。

「ねえ先生」
「はい」

賢者の魔法使いは危険な役割だ。命の危険だってあるし、魔法舎で暮らしている以上、先生と次に会えるのはいつになるかわからない。だから思い切って口を開いた。

「……ひとつ相談してもいい?」
「もちろん。私でよければなんでも話してください」
「……私の、友達の話なんだけどね。小さい頃からずっと好きな人がいるんだけど、全然振り向いてくれなくて困ってる、らしくて」
「恋の相談ですか」
「うん。相手は年上の人で、優しくて、面倒見がよくて、頼りになって、誰にでも親切で……だからその子だけじゃなくて、みんなに好かれてる人」

教室の窓から差し込む夕焼けが、ルチル先生の横顔を薄赤く照らしている。しんと静まり返った教室の中、さっきからうるさく騒ぎ続けている心臓の音が気になって仕方がなかった。
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