800字チャレンジ
デッドマターが倒されて、この国は変わった。
防衛本部の志献官たちは世界を救った英雄として称えられて、復興支援やら調査やらであちこちを飛び回る生活が始まったけれど、四季は変わらず慰霊碑を訪れてくれている。今までと同じように一人でやって来ることもあれば、誰かと一緒のときもある。それでも四季の足が途絶えることはなかった。デッドマターに呑まれてミラーズになって、反世界を漂った僕の魂がどこにあるのかは僕自身にも分からないけれど、「礬里藍参はここに眠っている」と四季が思いたいのなら、それは間違いではないのだと思う。院長先生の位牌のことを思い出しながら、そんなことを考えたりもした。大切な人に見守られているって思えるから、遺された人たちは前を向いて生きていけるのかな。
しばらくそんな日々が続いて、何度か季節が巡ったある日のことだった。いつものように花束を持ってやって来た四季は、慰霊碑の前で膝を折って、そして。ごく自然な動作で。今までもずっとそうしていたかのように。手を、合わせた。
——ここは墓じゃない。
いつかどこかで聞いた四季の言葉が、記憶の奥底から顔を出した。僕のために慰霊碑までやってきて花を献げるけれど、手を合わせたりお線香を上げたりはしない。それが四季と僕の間にあった暗黙の了解だった。それでも、不思議と悲しさは感じなかった。
「じゃあ、また来るから」
ありがとう。待ってるね。ちゃんとご飯食べてね。あんまり夜更かししちゃだめだよ。どうか届きますようにと願いを込めて、言葉を紡ぐ。目を瞑った四季は最後にもう一度手を合わせて、そうして、帰っていった。
「……なんか、お墓参りみたいだね」
みたい、というか実際そうなのだろう。今までもこれからも四季にとって僕は過去の存在で、たまに振り返って愛おしく感じる思い出だ。ぼんやりと考えを巡らせながら、供えられた花へと手を伸ばす。その手が空を切る。
幽霊なのか魂なのかもよくわからない今の僕には、目の前にある花束に触れることもできない。この手で四季を抱きしめることも、おまじないをかけてあげることもできない。それでも。
ただ、幸せでいてねと願っている。幸せにならないと許さないんだから、と思い続けている。四季の人生が続く限り、いつまでもこの場所から祈っていたいと思う。だって四季は僕の未来で、希望だから。
防衛本部の志献官たちは世界を救った英雄として称えられて、復興支援やら調査やらであちこちを飛び回る生活が始まったけれど、四季は変わらず慰霊碑を訪れてくれている。今までと同じように一人でやって来ることもあれば、誰かと一緒のときもある。それでも四季の足が途絶えることはなかった。デッドマターに呑まれてミラーズになって、反世界を漂った僕の魂がどこにあるのかは僕自身にも分からないけれど、「礬里藍参はここに眠っている」と四季が思いたいのなら、それは間違いではないのだと思う。院長先生の位牌のことを思い出しながら、そんなことを考えたりもした。大切な人に見守られているって思えるから、遺された人たちは前を向いて生きていけるのかな。
しばらくそんな日々が続いて、何度か季節が巡ったある日のことだった。いつものように花束を持ってやって来た四季は、慰霊碑の前で膝を折って、そして。ごく自然な動作で。今までもずっとそうしていたかのように。手を、合わせた。
——ここは墓じゃない。
いつかどこかで聞いた四季の言葉が、記憶の奥底から顔を出した。僕のために慰霊碑までやってきて花を献げるけれど、手を合わせたりお線香を上げたりはしない。それが四季と僕の間にあった暗黙の了解だった。それでも、不思議と悲しさは感じなかった。
「じゃあ、また来るから」
ありがとう。待ってるね。ちゃんとご飯食べてね。あんまり夜更かししちゃだめだよ。どうか届きますようにと願いを込めて、言葉を紡ぐ。目を瞑った四季は最後にもう一度手を合わせて、そうして、帰っていった。
「……なんか、お墓参りみたいだね」
みたい、というか実際そうなのだろう。今までもこれからも四季にとって僕は過去の存在で、たまに振り返って愛おしく感じる思い出だ。ぼんやりと考えを巡らせながら、供えられた花へと手を伸ばす。その手が空を切る。
幽霊なのか魂なのかもよくわからない今の僕には、目の前にある花束に触れることもできない。この手で四季を抱きしめることも、おまじないをかけてあげることもできない。それでも。
ただ、幸せでいてねと願っている。幸せにならないと許さないんだから、と思い続けている。四季の人生が続く限り、いつまでもこの場所から祈っていたいと思う。だって四季は僕の未来で、希望だから。